プレイヤーから物語を引き出す

これもコンベンションマスターには困難であろう、ワールドマスターとしてのノウハウです。
俺にとってはノウハウというよりも「楽しみ」そのものですが。


TRPGにおいて「シナリオを用意する」というのは、

  1. 克服する課題を決め
  2. それに流れ込むように話の筋を構成し
  3. 必要なデータを取り揃える

まあおおむねそんなところかなと思われます。


もちろん克服する課題というのが物語的なモチーフではなく、リソースの管理であるようなよりゲーム性の強い構成も可能ですが、まあ話を広げるときりがないので、今回は物語的なTRPGということで限定しておきます。


この文脈で

いつか書くかもしれないことのメモ - ブレーキをかけながらアクセルを踏み込む
なゆたさんのところを参考にTRPGなどに使いやすい物語の分類の構成を考える。ガルシア マルケスとかジャン=ミシェル アダンの物語論はしっかり読んでないけど明らかに使いにくいので、もっと使いやすい形のものが欲しい。

僕の感覚としては物語を用意する感じです。
例えばよくある”父親殺し”においては父親はほんとに父親じゃなくてもいいですが、威圧的で乗り越えるべき存在です。初期条件はそのように用意します。

といった話が出てくるのかなー、と。


さて、一番単純な話、この方法だと
「シナリオ」がマスターの世界観、それも理性的に考えられる範囲に固定されがち
なんじゃないかな、と危惧するわけです。
・・・おお、ここで我ながら前提条件がはっきりしました。


つまり俺は

  • 理性では到りえない
  • 自分の世界観を打ち破った

物語を味わいたいわけですね。


この文章書くまでは自分でもよくわかってなかったw
もしかしたら世のマスター達とは前提条件が違うのかも。
つーか、コレ、プレイヤーの楽しみだよ。
誰か俺のマスターやってくれよ。ホントに。
可愛く「マイマスター!(〃∇〃)」って呼ぶからっ!


そういえば昔書いた文章あったな、と思って漁ったらそのまんま書いてあった。

http://www30.atwiki.jp/hazama/pages/284.html

なゆた さん 99年 09月 06日

「お話」を読みたいなら、小説を読めばいい。
「演出者」の望んだ筋で動くなら、演劇をやればいい。
テーブルトークなんかよりよっぽど洗練されていて、文化としても練りこまれている。
私とテーブルトークをやるからには、私を楽しませてほしい。
作家や演出者としての私ではなく、読者としての私を楽しませてほしい。
それには「演じる意思」「演出者としてのたくらみ」「未知の知識」が必要だ。
そしてそれを発揮できる舞台と演出もいる。
だからプレイヤーには可能な限り「演出者=マスター」としての権限を与えたい。


なんかもうおなかいっぱいで書かなくていいやw
という気になってきたけど、まあそれをマスターとしてどう実践しているかという話だけ。


プレイヤーから物語を引き出すには、当然事前に物語が決まっていてはいけない。*1
だけど何をやっても自由という状態から物語を語りだすというのはかなり難しい。
一定の限定条件がいる。
最初はキャラクターの能力値と設定、世界が示す態度が限定条件になる。


そこに「針」としてモチーフ=「要素」を落としていく。
「要素」よりも大きな「類型」でもいい。*2


世界を複数の手法で描写し、プレイヤーのアンテナに引っかかる要素をピックアップする(無意識だけど)。
例えば天候描写、風や匂い、町並み、物のディテール。歴史や集団同士の関係性。
キャラクターごとの見え方、キャラクターの見られ方。


だけどマスターからの発信はもっとも役に立たない「針」で命中率も低い。


マスターから一定プレイヤーが考えられる材料だけ提示したら、重要な描写はプレイヤーに依拠する。
プレイヤーに問いを投げ、語ってもらう。

  • ここってどんな土地だっけ?キャラクターってどんな奴だっけ?
  • キャラクターはいま何を考えてる?何を問題にしている?
  • なるほど。想像して?なんでそう思うの?ホントにそう考えてる?

プレイヤーの語りは、他のプレイヤーに対してのモチーフの提示であり、そのプレイヤーが自分の世界観を確認する作業でもある。


ここで重要なのが「物語は共有できない - 蒼き月の囁き」の通り、

  • 語り手が描写した要素を、聞き手が要素として認識するとは限らない
  • 同じ要素を認識しても、それは聞き手ごとに異なる意味を持つ

こと。


ここからが本当の勝負。
場に要素は出揃った。(正確には動的に提示され続けてくる)
各プレイヤーによって認識は違う。
これをマスターハンドリングでミックスさせながら、引っ掛かりを見逃さないようにぶつけていく。

要素AをキャラクターXに、要素BをキャラクターYに、要素CをキャラクターZに。
捻って、入れ替えて、ぶつけて、取り上げて。
どう思う?どう対処する?どう反応する?

これによって、マスターも含めて参加者の語った情報は、各参加者の世界観で補正され、歪められて再提示され、幾度も生まれ変わる。
この中で生み出されてくる「物語」は、参加者それぞれの原型を抱えながら、「誰のものでもない物語」として、理性を超えた狂気と異化効果を持つ。



周りの風景が後ろに飛び去るほどのスピード感でこのミキシングをしているときが、俺の至福の時間なわけです。



そんなマスタリングをしたりしていなかったり。

*1:決まっていてはいけないということもないが、壊れやすくなくてはいけない。

*2:俺用語については「物語の階層操作によるマスタリング技法 - 蒼き月の囁き」を参照