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衰退するブラジルの日本語教育

 日・ブラジル国会議員連盟(麻生太郎会長)が衆院第二議員会館でブラジル日本語センター、日下野良武理事長を招き講演会を開きました。講演会で日下野氏はブラジルの日系社会における日本語教育について「停滞から衰退の道をたどり始めている」と強い危機感を示し、日本政府の支援を訴えました。

 日下野氏はブラジル在住36年。サンパウロ新聞の専務を務めたり、ブラジル紹介の著書を出版したり、ブラジル通のジャーナリストとして活動しています。現在はブラジルの日本語教育振興に努力しており、日本語教育の総本山、ブラジル日本語センター理事長の要職にあります。

 講演のテーマは「いま、ブラジルの日系社会が危ない」というもので、日系社会の根幹である日本語教育が揺らいでいる実情を説明しました。「ブラジル移民が最初に作ったのが日本語学校だった」と指摘し、当初はボランティアで、様々な苦労を重ねながらブラジル全土で350校もの日本語学校を作り、日本語教師1200人、学習者は2万3000人に及んだと説明しました。日本の歴史や文化が日系社会でいまに受け継がれているのはこうした移民の努力によるもので、政治、法曹、医学など各界で日本人子弟が活躍しているのは教育に対する移民たちの努力が源泉になっているとしています。「日系社会の文化の根幹は日本語だ」と日下野氏は強調しました。

韓国、中国の語学教育は隆盛

 ところが最近は韓国、中国の進出が顕著で日系社会の存在感が薄れていると懸念、韓国人社会は韓国人学校を作り、中国は孔子学院を有力大学の中に創設、母国文化の普及に力を入れていると指摘します。韓国、中国は言語政策を国家戦略として力を入れているのに、日本は日本語教育の十分な法的整備すら行われていないのが実情だと、日本語教育の不備に言及しました。

 日系社会では、日本語教師が3世、4世の時代になり、日本文化を体験しないまま育った教師が大半といわれます。このため「日本語による日本語教育」では十分な教育が出来なくなっており、今は「外国語による日本語教育」、つまりポルトガル語による日本語教育の時代になっています。JICAや国際交流基金などの支援だけでは不十分で、日本語教育日本語教師の育成に取り組むブラジル日本語センターの運営も資金繰りに追われているのが現状で、日下野氏は「手遅れにならないうちに日本政府の多大な理解、支援を切望する」と講演を締めくくりました。

 講演を聴いた議員からは、「日本語学校を日本文化の発信拠点に」「ブラジル人の日本語教師の養成を」などに理解を示し、後押しする意見が相次ぎました。「どの程度の支援が必要か」と問われた日下野氏は、サンパウロに日本政府が35億円を投じて建設した「ジャパンハウス」の例を挙げ、「日本語教育を恒久的に続けていくには10億円程度が必要だ」と述べ、10億円の基金があれば利息の運用で、日本語教育の振興策が可能になると答えました。

 この講演は16日に行われたものをサンパウロ新聞が1日付で報じたものです。