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☆ネコのシムズ3日記☆

2017-03-24

第58話 失われたもの

―街の病院―

南城家の階段から突き落とされ意識を失った千夏は、

近くの病院に搬送された。

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必要な検査は全て終わり、あとは千夏の意識の回復を待つのみとなった。



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「命に別状はないそうだ。幸い、外傷も少ない・・・

だが頭を強く打っているようだから、まだ油断はできないらしい。」




巧は医師から説明を受け、ナオキたちに報告した。


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「とりあえず意識が戻るのを待つしかないな。」


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「(・・・私のせいだ・・・私の・・・)」

ラリマーは責任を感じていた。

千夏が階段から落ちたのは、百合子から身を挺してかばってくれたから。


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「せっかく仲直りできたのに・・・千夏さんっ・・・っく・・・うぅっ・・・」

ラリマーの目から大粒の涙が零れ落ちる。


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見ていられない。あまりにも痛々しい姿を。

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ラリマーは自分を責めている。口に出さなくてもわかる。

彼女に責任が無い事くらい、あの場にいた全員が知っているというのに。



すべての元凶は、百合子なのだから・・・




―数時間前―

「千夏!!おいっ!!起きろよ!!」

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「ち・・・なつさん・・・」

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「頭を打っているかもしれない!あまり動かさないで。」

救急車を手配しに行ったリンが事情を説明し、

別室で待機していた警察関係者も駆けつけた。



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「ゆっ・・百合子ぉぉっ・・・!お前はなんてことをっ・・・!!」

あまりの事の重大さに、清太郎はヘナヘナと床に座り込んだ。

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「千夏っ!おいっ!!・・・くそっ!!なんでだよっ!!

「千夏さんっ・・・お願い、目を開けて!!」




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「あ〜〜、馬鹿げてる!美しい友情と絆!とんだ茶番だわっ!!」

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「あなた・・・人間じゃないわ」


「知ったこっちゃないわよ。プッ(笑)」

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「あっははははははは(笑)!!!」

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「ふっふふふ(笑)・・・ねぇ、ラリマー。

これは夢なんかじゃないの。現実に起きた事。」

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「・・・。」

「全部、アンタのせいで起こったことなの!!」



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「おい、少しは黙ったらどうだ!」


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「そうよ!いい加減にしなさいっ!」


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「外野こそ黙ってなさいよ・・・。」


巧と猫里の制止を無視し、百合子は大声で叫んだ。

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「この疫病神!!またアンタのせいで・・・アンタのせいで千夏は不幸になったのよっ!

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「・・・私の、せい?」



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「南城百合子!!」

「・・・は〜いはい。」


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「午後6時14分。殺人未遂の容疑で現行犯逮捕する!!」

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がしっ

警察関係者二人に取り押さえられても、まだ百合子は叫び続けた。

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「疫病神!!アンタは誰のことも幸せにできない!!

刑務所でもどこででも、ずっとアンタのことを恨んでやるからっっ!!



「っふ・・・っふふふふふ・・・・」

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「もう・・・おしまいだ・・・ふふふ・・・はははは・・・」

その後、工藤代表ならびに南城清太郎にも実刑判決が出ることとなる。






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南城百合子・・・。

確かに彼女自身もずっと苦しかったのだろう。

だが、自身と同じ苦しみを他人にまで背負わせることが罪だと、

なぜわからないのか。


どうしてもっと早くに彼女を止めることができなかったのだろう。

大きな後悔だけが残る。

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悪意は別の悪意を呼び、負の連鎖を作ってしまう。


そんな事、とっくに気が付いていたはずなのに・・・




プルルルルッ プルルルルッ


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「はい、猫里です。緒方さん、お疲れ様です。今社長は病院に・・・えっ?



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「あの、社長、お話が。」

「どうした?」


「実は昨日、坂本千夏さんはエメラルド社長のところでオーディションを受けるはずだったそうです。」

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「ですが、突然その場を立ち去り、今日このようなことに・・・」

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「なんだって!?」


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「千夏さんはもしかして・・・私を呼びに来る為にオーディションを投げ出して・・・?」

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「あいつ・・・そんな大事な日に!!」

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「昨日から西崎オオトモがエメラルド社長にこっぴどく叱られているとのことです。

 緒方さんは千夏さんにクリスタルの居場所を聞かれ、あまりの迫力に負け、

つい居場所を教えてしまったとのことです・・・」





「この疫病神!!」

百合子の声が頭の中でこだまする。

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自分のせいでまた大切な人を傷つけた・・・

大切な夢を、チャンスを奪ってしまった・・・

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「ラリマー・・・」

何度も何度も百合子の声が頭の中で響く。

聞きたくない。聞きたくないのに・・・

ラリマーの心が後悔の念で凍てついていく。



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「猫里、エメラルドはこのことを知っているのか?」

「いえ・・・」

「なら、すまないが事情を説明をしてくれないだろうか。

このままだとあの若者が理不尽にもクビにされかねない。」

「承知しました。」

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「あの、一条さん。寮にもう一人友人が居るんです。そいつに千夏のことまだ連絡できてなくて。

 俺今から電話してくるんで・・・ラリマーの傍にいてやってくれませんか。」

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「あぁ、わかった。」

「お願いします。」

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そう言い残し、ナオキは待合室を出て行った。

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「(千夏さん・・・ごめんなさい・・・)」







「クリスタル・・・」

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「すまなかった。」

「え・・・?」

「今までの事も、今回君の友人がこうなってしまったことも・・・謝りたい。」

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「どうして巧さんが謝るんですか?巧さんは何も悪くないじゃないですか!!」

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「いや、僕があの時君を突き放さずに、傍で守ればよかったんだ。

  南城百合子の脅しに怖気づいたりせず、正々堂々と君を守ればよかった。」

「やっぱり、百合子に・・・?」

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「あぁ。南城百合子が君の命を奪いかけたと知って・・・正直すごく怖くなった。

 僕が傍にいることで、君がもっと危ない目に合うのなら、潔く身を引こうと決めたんだ。」

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「・・・だがそれは間違いだったと今日気付いた。

こんな事になってしまったのも全部、僕の判断が間違っていたからだ。」

「巧さんは何も間違っていません!」


「・・・」

「私は巧さんの事を嫌いになったことは一度だってありません。」

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「あなたは私を変えてくれました。私の夢を、叶えてくれました。

 母を見つけてくれたこと、私を強くしてくれたこと、百合子から守ってくれたこと・・・」

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「どれほど感謝をしてもしきれません。」


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「クリスタル・・・」


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「千夏さんがこんなことになってしまったのも、私をかばってくれたからですし。

 巧さんも、ナオキくんも、千夏さんも…みんな私を守るために…こんな私を…」



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「千夏さんはオーディションに行こうとしていたんです。また歌おうって決めたから。

 なのに私はそのチャンスを台無しにして、千夏さんをこんな目に・・・!!!

やっぱり・・・百合子の言う通り、私って本当に疫病神ですよね・・・。」


その言葉を聞いて巧は表情を変えた。

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「南城百合子の言葉は忘れろ。あれは、憎悪の果てに生まれた単なる戯言でしかない。

 あまりにも身勝手で、腹が立つよ!あんな言葉、気にするだけ時間の無駄さ。」



そして巧はなだめるようにラリマーの髪を撫でながらこう続けた。

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「君は疫病神なんかじゃない。僕たちは皆、君のことを好きで…

本当に大切で、それでこうしたかっただけなんだから。」


「・・・だけど、千夏さんは・・・」

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考えれば考えるほど悔しさがこみ上げてくる。



「彼女はすごい。あの時、咄嗟に身体が動いたんだ。そこにいた誰よりも早く、君を守った。」

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「負い目を感じるなとは言わないが、あまりにも自責の念にかられすぎると、

 せっかくの彼女の行動が悪いものでしかなくなってしまうんじゃないか?」

「そう・・・ですね・・・」


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「社長・・・?」 ハッ





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「君のことが大事だったんだ。すごく大事だったから危険を顧みなかった。

 今度は君が彼女をサポートできるよう、守れるように努めればいいんだよ。」



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「・・・。」


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二人の間が気まずくなってから、自分から話にいこうともしなかった。

結局千夏に負い目を感じていただけで、逃げていたのだ。

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だが、もう逃げてはいけない。何からも逃げないと決めたはずだ。

ラリマーは心に誓った。

千夏が目を覚ましても覚まさなくても、千夏から目を背けたりなんかしない、と。


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「ありがとうございます。巧さん、私やってみます。

 これまでみんなから守られてきた分、今度は私がお返しできるように。」


「あぁ。それでこそ君だ。」

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「ダメですね。私ったら泣いてばかり・・・」


涙をぬぐい、笑顔を作ろうするラリマーに巧はこう言った。



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「なぁラリマー。」



「えっ?」


巧に「ラリマー」と呼ばれるなど、クリスタルになると決めた時以来ではないだろうか。

その呼び方になぜか少し照れてしまった。




「今こんな事を言うのは不謹慎かもしれないんだが。・・・その、全てが落ち着いたら・・・」

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「また一緒に仕事をしないか?自分勝手な事を言っているのはわかってる。

 ・・・ただ、ずっと後悔してたんだ。君を手放してしまった、あの日の事を。」




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「一条グループには・・・いや、僕にはどうも君が必要みたいだ。」



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「えっ。巧さん…」

愛の告白にも似てとれる言葉に、ラリマーの顔が少し強張る。

それを察して、巧は言葉を続けた。

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「・・・君の心は彼にある。それが変わらないのもわかっている。

 だから、この話はあくまでもクリスタルとして、考えてほしい。」


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「・・・わかりました。少し、時間をいただけませんか?」

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「あぁ、勿論。ゆっくり考えてみてくれ。」

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「・・・。」


それから巧は猫里を伴い、一旦会社へと戻って行った。

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さらに少ししてから、連絡を受けたビリーが病院に到着した。

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父を説得するために実家へ帰っていたビリー。

ナオキから知らせを聞いてすぐに実家から駆けつけたのだ。


「ナオキくん!!」

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「ビリー、ごめんな、実家帰ってたんだってな。」

「そんなことより!!千夏は?!だっ大丈夫なの!?」

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「今眠ってる・・・まだ意識が戻らなくてさ・・・」

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「ななっなんでこんなことに・・・なんで千夏が・・・どうして・・・!?ねぇっ!?」

ビリーはかなり動揺しているのだろう。

声は裏返り、全然舌が回っていない。

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「ちょっ・・落ち着けよ、ビリー。千夏は絶対大丈夫!!また前みたいに笑って過ごせる。

 そしてまた絶対に、歌声聴かせてくれるって・・・信じようぜ!!」

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「う・・・うんっ・・・そうだね。そう祈るしか、できないもんね・・・」



それからどのくらいの時間が経ったのだろう。

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ラリマーは山の下の病院にいる祖母、アンバーと電話をしていた。

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「うん。私は大丈夫だよ。さっき仮眠も取ったし・・・それよりママは?」

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「そっか。一安心だね!・・・連絡ありがとう、おばあちゃん。」


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「ラリマー、リビアンさんどうだったって?」

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「手術は無事に終わったみたい。」

「そっか。一先ず安心だな・・・」

「うん。」


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「ナオキくん。」

「ん?」

「こんなことになってしまって・・・ごめんなさい。」

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「は?なんでお前が謝ってんだよ。」


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「だって、私がイジメから逃げ出さなかったら・・・私がもっと強かったら・・・

 百合子はあんな風にならず、千夏さんだって傷つかずにすんだのに。

 ナオキくんの夢を、壊さずに済んだのに。


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「ラリマー・・・」

「だってそうでしょ?私が・・・」


「ラリマー!!いいか?ちゃんと聞けよ。」

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「これは、俺たちがしたかった事をした結果なんだ。

百合子ちゃんのことを止めたかった。一条さんだって、さっき言ってたろ?

お前や、みんながこれ以上傷つくのをもう見たくなかったんだよ。」


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「だけど!ナオキくんの夢が潰れちゃったんだよ!?」


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「前にも言わなかったっけ?俺の夢はお前と一緒にいることだって。

 お前が傍にいないのに、宇宙に行けたって意味がない。

 夢を叶えたところで、ラリマーがいないんじゃ、俺、誰に喜びを伝えたらいいんだよ。」


「でもっ!!」

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「それに、宇宙開発事業は今後大変になるだろうし・・・。」

「もしかして・・・諦めちゃうの?」

「いや。簡単に諦めたりはしないよ。ただちょっと目指してたゴールを間違ってたっつーか・・・」

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「南城博士のところにいかなくて良かった〜って、内心ホッとしてんだから、俺。」

「ナオキくん・・・」

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「だから、俺の夢を潰したとか何とか、勝手に決めるなってーの。」

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「…うん。」



「ラリマー。」

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「雪山でも言ったけど・・・俺は、お前のことが好きだ。・・・もう絶対に離さない。」

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「離したくないんだよ・・・一生。」

ラリマーを抱きしめるナオキの力が強まる。


「・・・私も」



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「私だってずっとナオキくんと一緒にいたいよ!本当は別れたくなんかなかったもん!!



一緒にいたかった思いを一気に吐き出すと、ラリマーの目から涙が溢れた。


「私っ・・・ずっと・・・一人で寂しかった・・・ナオキくんや千夏さんを失ってとても怖かったの!!

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「千夏さんともっ・・・うぅっ・・・やっと仲直りできたのに・・・

 また一緒にどこか、お出掛けしたり・・・したかっ・・・っうぅ・・・ぐすっ・・うぅぅっっ・・・」



「ラリマー、大丈夫。大丈夫だから。」



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「うわぁぁあぁん・・・・千夏さぁぁぁんッ」

ラリマーはナオキの胸で思い切り泣いた。

今まで耐えてきた心の叫びを・・・そして、千夏の名前を何度も呼んだ。

そんなラリマーを、ナオキは優しく「大丈夫、大丈夫」と慰め続けた。


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「ラリマー・・・」

皆同じ痛みを胸に抱いている。今はただこうして、待つことしかできない。


次の日になり、千夏が目を覚ましたと聞かされるまで

三人の気は休まらなかった。




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「千夏大丈夫か?俺のこと、わかるか?ナオキだぞ!」

「・・・。」

千夏は力なく頷いた。

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「そ、そっか!良かった!」

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「何があったか覚えてるかい?」



何があったか・・・?

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ぼんやりとあの日の出来事が蘇る。

そうだ、オーディションの日。あの場所から飛び出し、ラリマーを迎えに行った。




それから・・・?




それから・・・・??

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「(だめだ。思い出せない・・・)」


千夏は首を横に振ると俯いた。



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「千夏さん・・・」


ラリマーの声。そうだ・・・

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たしか、私・・・


声を頼りに、モヤがかった記憶を必死に追ってみた。

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「千夏さぁぁぁぁぁぁん!!!」

ラリマーの声を聞いたんだ。

でも、なんであんなに悲しい声?


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「おい、なんか言えよ。ほんとにどうした?」



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あんまり思い出せないや。でもみんなのことはわかる。



それはちゃんと伝えなきゃ。



「あのね、」そう言おうとした。

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あれ・・・?


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「千夏さん?どう・・・したの?」



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なんで?




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「どうかしたかい?千夏?」



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声が・・・出ない・・・!!!




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「先程も一条さんにお話しましたが、外傷がほとんどないのが奇跡です。

 骨にも異常ありませんし。ただ・・・」

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「坂本さんは、階段から落ちたショックで声が出せない状態にあります。

 それと、当時の記憶も少しばかり失くしていますね。」


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「ちょっと待ってくれよ先生!こんなこと、一生続くわけじゃないよな?」

「精神的なものですからね。念の為、声帯も調べましたが勿論無傷です。」

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「なので、いずれ声は出せるでしょう。ですが、自分で出そうとしない限りは・・・」


「そんな・・・こんなのって・・・」

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「今回、階段から落ちる前までの間に、坂本さんは自分自身に

 何かしらのプレッシャーをかけていませんでしたか?もしくは周りから。」

「えっ周りから?」

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ビリーは千夏に歌を諦めて欲しくないと言った事を思い出した。

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「それが今の状態を作っていると、私は考えます。」




面会時間が終了し、千夏は部屋に一人でいた。

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「(どうしてこんなことになっちゃったんだろう)」

ナオキが百合子の悪事をバラすと知り、ラリマーを迎えにいった。

そして、その日は大事なオーディションがあった。


そして・・・それから・・・


記憶を探ろうとするが、階段から落ちたと説明を受けたその時の記憶がどうにも戻らない。


それにしても、

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「(なんで声が出なくなっちゃったんだろう・・・)」

結局考え付く先はこれだ。

さっきからずーーっと同じことばかり考えている。

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今自分の身に起きているこの事が、いくら説明を受けても全く理解できないのだ。


頭が痛む、腕も脚もズキズキする。

痛みがある。でもちゃんと指先まで動く。

それなのに、正常であるはずの声帯が、どうしてうまく機能していないのか。


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もう、わけがわからない・・・

誰を責めるでもなく、千夏は一人悩み続けた。




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「(誰か、たすけて…)」




それから二日程して、千夏は無事に退院した。