マルコヴィッチの穴−意識と身体、そして人間

ツタヤが本日まで半額セール中だったので、とりあえず無難な映画を借りる。

主人公は冴えない人形師。そんな彼が偶然見つけた秘密のトンネルは、著名なスター=マルコヴィッチの脳に繋がっていて、このトンネルを潜るとマルコビッチの潜在意識に潜り込めてしまう。
15分のタイムリミット付きで、15分過ぎると意識の外に弾き出されてしまうのだが、まぁ、それを利用してその人形師がマルコヴィッチの意識を乗っ取って色々やるというもの。
映画の中で主人公が「このトンネルを潜って、マルコヴィッチになると自分が何者であるのか、私とは何なのかが分からなくなってしまう。これは驚きだ。」というような台詞があったり、マルコヴィッチの意識を操っているシーンで「人間も人形も一緒だ」というような台詞があったのが印象的。

 作中で主人公が操る人形は、まるで生きているかのような自然でスムーズな動きをする。同じ「生きているかのようなパペット」を扱うにしても、シュヴァンクマイエルのそれとは志向するところが違っているのは面白かった。表情も感情を持たない人形がぎこちなく動き回る様を、不気味なほど、スーパーリアルに映し出すシュヴァンクマイエルのそれは、人間と人形を分け距てる境界=意識が、いかに曖昧で滑稽なものであるのかを描き出そうとしている。

ヤン・シュヴァンクマイエル 悦楽共犯者 [DVD]

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ヤン・シュヴァンクマイエル ファウスト [DVD]

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天国までの百マイル

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浅田次郎原作の小説の映画ヴァージョン。時任三郎主演。
主人公は、バブル期に破産して妻に離婚されるは、仕事も上手くいかないわで、何をやっても上手くいかない中年サラリーマン。そんな彼の母親が心臓を患う。母親だけは何としてでも失いたくないということで、遠方の名医に治療を頼むべく車で旅に出て・・・。
というようなストーリ。原作が好きなので、借りてみたのだが、悪くなかった。っていうか、正直、恥ずかしながら途中何度か涙を拭うことになってしまった。

<印象に残ったシーン>:
 主人公はホステスのヒモ(のようなモノ)をしているのだけれども、そのホステス役の大竹しのぶの名演が印象的。その生き方が明るく健気で、なにしろ不幸で泣ける。主人公は別れた妻を未だに愛していて、自分とは一緒になる気が無い事を知りながら、しかしそれでも主人公の幸福を祈るあまり、ホステスはこんな事を言う。

「愛して貰うより、愛している事の方がずっと楽しくて、素敵な気持ちになれる。だから私は、やっちゃん(主人公)にありがとうって言いたい。幸せになってね。愛してるよ」
影で主人公を徹底的に支えながら、一度自分が主人公の幸せの障害になる事を悟ったら、直ちに身を引く。あまりにも健気で、不幸。
 正直、主人公が非道いヤツだ、と言えば、全くその通りで、大竹しのぶ演じるホステスは“良い女”像=男にとって都合の良い女であって、彼女自身の幸せというのはこれっぽっちも省みられていない。こういうのに対して恐らくジェンダー論やフェミニズムの“的確にしてナンセンスな”分析は何某かの回答を出し得るのだろうが、しかしそれでやりきれるほど人間の関係というのは単純じゃない。
このシュチュエーションの儚く悲しい愛の美しさは、そういう表面的(と言うと言い過ぎかも知れないが)な理解を超えたところにあるのではなかろうか。
 いやはや、それにしても浅田次郎は、不幸だが健気で強い女性を描かせたら天下一品だな。実に巧い。