ねこのみみ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2005-10-09

[]トラベリング・パンツ三部作

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トラベリング・パンツ
アン ブラッシェアーズ Ann Brashares 大嶌 双恵
理論社 2002-04
評価

セカンドサマー―トラベリング・パンツ ラストサマー―トラベリング・パンツ Girls in Pants: The Third Summer of the Sisterhood (Readers Circle) The Second Summer of the Sisterhood (Sisterhood of Traveling Pants) The Second Summer of the Sisterhood

by G-Tools , 2006/10/12


 あなたがもし10代の女の子ならば、迷わずこのシリーズを読んでほしい。

 あなたがもし10代の娘を持つお母さん・お父さんならば、やはりこの三冊を読んでほしい。

 あなたがもし10代の少女に何の縁もなくても、その頃の自分を思い出したくない気分でも、何でもいいから読んでほしい。

 読み終えた時、あなたには4人の友達ができる。彼女たちの名前は、レーナ、ブリジット、カルメン、そしてティビー。物語の中で様々な経験をし、成長した4人の少女を身近に感じることができるだろう。彼女たちの喜びや悲しみを共に味わうことで、日本語に翻訳しがたい「sisterhood」という言葉の意味を実感することができるだろう。誰かにこの本の話をしたくなるだろう。

 10代の内に一度、そして母親になってから再度読み返したいシリーズ。できることならば、夏休みを選んで……。


 出産予定日の近い母親同士が「妊婦のためのエアロビクス教室」で知り合ったことから、生まれる前から幼馴染の4人の少女の物語。ずっと一緒に夏休みを過ごしてきた彼女たちが、16歳を迎える今年、初めて離れ離れになる。

 レーナ。ギリシャ系の美女。その地中海的な美貌を自覚してはいるが、それだけに外見だけしか評価されないことに不満を持ち、それに惹き付けられる少年たちを受け入れられずにいる。今年はギリシャのサントリーニ島に住む父方の祖父母を訪ねる。ギリシャ語なんて一言も話せないのに……。

 ブリジット。通称ビー。長身に日光の色の髪、類まれなる運動神経をそなえた少女。はつらつとした姿の下に、未だ癒せない肉親の死に対するショックを隠し続けている。今年はメキシコで開かれるサッカーキャンプに参加する。

 カルメン。胸とお尻が大きいことに悩む、プエルトリコ系の少女。友人たちにはしっかり者だと評価されているが、時に感情的になると自分でも手が付けられなくなる。今年は離婚によって離れて暮らす父と、初めて長期間を共に過ごす。不安もあるけれど、似た者同士の父娘はきっと楽しく過ごせるはず。

 ティビー。やせっぽちで小柄で皮肉屋の少女。将来は映画監督になるのが夢で、一番大切なものはデジタルビデオカメラ。ヒッピーをやめた両親と、年の離れた弟妹と共に暮らしている。両親はまだ幼い弟妹にばかり注目しており、自分だけが家族の仲間はずれのように思える。今年は一人地元(メリーランド州ベセスダ)に残り、ドラッグストアでアルバイトだ。かっこわるい自分、サイアクな職場と制服……友達は誰もいない。

 離れ離れになる前日、4人は不思議なジーンズと出会う。カルメンが古着屋で購入したものの、一度も履いていなかったものだ。体形のまるで異なる4人がそれぞれそのジーンズを履いてみると、不思議なことに全員にサイズがぴったり。それだけではない。なんと、そのジーンズは彼女たちの魅力を最大限引き出してくれるという力も持っているのだ。いつも美しさを覆い隠しているレーナをセクシーに、がっちりしたビーを華奢に、大きなお尻に悩むカルメンをまるでスーパーモデルに、やせっぽちのティビーを女性的に見せる不思議な力。

 これは魔法のジーンズなんだ。そう悟った4人は、そのパンツを夏の間共有することにする。ばらばらに過ごす期間、タイムテーブルを決めて使用し、自分の番が済んだら順繰りに送るのだ。そう、最初は未知の地ギリシャに赴くレーナから。

 それぞれの場所、それぞれ初めての環境で、少女たちは別々に夏を過ごす。夏休みだっていうのに、いいことなんて中々ない。期待外れ、失望、ショック、憤り……それでもそこには新しい出会いがある。友人達とは遠く離れているけれど、魔法のジーンズが4人を繋いでいる。

 この休暇が終わる時、彼女たちが得るものは一体何だろう?そして、失うものは……。


 この物語がすばらしいのは、ジーンズがもたらす「魔法」が彼女たちを素敵に見せるという「だけ」な点である。癇癪持ちも、引っ込み思案も、無鉄砲も、無愛想も、ジーンズを履いたってそのままだ。足が速くなるわけでもないし、空を飛べたりだってしない。

 しかし、ジーンズは彼女たちにそばにはいない友人たちを思い出させる。自省させ、勇気を持たせ、前に進めないまでも、前を見る力をくれる。

 「それだけ」のことが時にどんなに難しいか、大人になると忘れてしまいがちだ。大人になって振り返ると、子供の頃の悩みなんて本当に些細で、くだらなくて、取るに足りないことのように思える。けれども、その小さなことに涙を流して苦しんでいた時の自分を本当に思い出せたなら、今悩んでいる少年少女達を笑いのめすことはできないだろう。この物語は、もう子供には戻れない私達にこの真実を改めて教えてくれる。


 続く第二作、三作は、第一作の翌年・翌々年の夏休みの4人を描いている。成長し、進路を決める者、環境の変化や自分自身の問題にうまく対応できなくて苦しむ者……それぞれが一人一人の人生を歩む中、友情だけは変わることなく続いていく。三年間を彼女たちと共に過ごし、その旅立ちまでを是非見守ってほしい。三作目までパワーは落ちることなく続く。シリーズ通して大満足の★★★★★。

 決して取り戻せぬ少女時代を生き生きと描き、読者を物語世界に引き込む筆致が秀逸な青春小説の名作である。もういいから、とにかく読め!(読んでね♪)


 本シリーズの第一作目「トラベリング・パンツ」は、10月1日から公開されている映画「旅するジーンズと16歳の夏(原題は小説・映画共に”The Sisterhood of the Traveling Pants”)」の原作でもある。上映館が少ないのが難儀なのだが(東京では恵比寿ガーデンシネマのみ・終映日未定)、こちらも機会を作って是非鑑賞したい。

 恵比寿ガーデンシネマでは、10月22日から「ドア・イン・ザ・フロア」(原作はアーヴィングの「未亡人の一年」)もあるので、こちらも楽しみ。