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2010-11-26

[]短評:酔いがさめたら、うちに帰ろう。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。 (講談社文庫)酔いがさめたら、うちに帰ろう。 (講談社文庫)
鴨志田 穣

講談社 2010-07-15
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アルコール依存症で離婚。10回の吐血。再飲酒。ついにアルコール病棟に入院することになった、元戦場カメラマンの「僕」。そこで出会った個性的な面々との生活が、僕を変えた。うちに帰りたい―。依存症を克服し、愛する元妻、子供たちとの時間を取り戻したが、そこには悲しい現実が…。笑って泣ける私小説。

  • 「おサケについてのまじめな話」を読んだので、西原理恵子の元夫が書いたこちらも読んでみた。
  • 依存症患者本人が、体験を基に書いているだけあって、実際を知らぬ私としてもリアルに感じる描写の迫力がすごい。それに、面白い。

「内臓も血液データも、よく歩いていられるなと、不思議になるくらいボロボロです。」

……

手はぶるぶると震えているが、一杯、二杯とカップ酒を一気にあおると、指の震えも"ピタリ"と止まる。

それが毎朝、一番最初にする行為だった。

……

(入院した病棟で「火曜日はカレーの日」なのに、一人だけ全がゆで)

「あの、僕、カレーじゃないんですか」

「はい…。先生の指示が出ているものですから」

『カレー食わせろ』

と怒鳴りたかったが、あまりにも大人げないので、ここはひとつ我慢した。

……

(精神科医との面談で)

「話は長くなるんですが…」

「どうぞ、ゆっくり」

「九州の鹿児島を取材旅行していたときに、妻から電話がありまして」

「それで」

「妻が電話口で、決意を感じさせる声で、『しばらく帰ってこないで』って言ったんです」

「うーん、こまったねえ」

「あの、先生、ちょっといいですか?」

「何ですか」

「みのもんたに電話しているような気分になっているんですが」

「えっ、それは、ワハハッ。失礼しました。ちゃんと精神科医として聞いていますので」

……

  • また、依存症がもたらす、さまざまな症状の様子もおそろしく、*1青少年の課題図書にでもして、アルコールの脅威について広く教育するべきではないかと思った。何せ、病名や症状が出てくる出てくる。食道静脈瘤破裂、幻覚、譫妄、肝硬変、肺気胸(肺に穴が空いて、空気がもれている病気)、それに骨折。デカダンは命がけなのだ。やらない方がいい。
  • 本作は映画化されている。2010年12月4日公開予定。主演は浅野忠信永作博美

D

*1:飲む人は何をして飲むだろうし、これを読んで「こんな状態からも脱出できるんだ」「家族は優しくしてくれるんだ」と勘違いするかもしれないが

2010-11-23

[]短評:アイの物語

私たちはみんな、フィクションから生まれた。


アイの物語 (角川文庫)アイの物語 (角川文庫)
山本 弘

角川グループパブリッシング 2009-03-25
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内容紹介/Amazonより

人類が衰退し、マシンが君臨する未来。食糧を盗んで逃げる途中、僕は美しい女性型アンドロイドと出会う。戦いの末に捕えられた僕に、アイビスと名乗るそのアンドロイドは、ロボットや人工知能を題材にした6つの物語を、毎日読んで聞かせた。アイビスの真意は何か?なぜマシンは地球を支配するのか?彼女が語る7番目の物語に、僕の知らなかった真実は隠されていた―機械とヒトの新たな関係を描く、未来の千夜一夜物語

  • オムニバス形式で構成された中編小説。それぞれの短編は、単独で読んだならば、それなりの印象しか残らなかったかもしれないが、アイビスが語ることで、より強くインパクトを感じた。
  • 私はフィクションばかりを読んできた。「本当のこと」ではなく、「リアルに思えるストーリー」を重視している。事実じゃなくていい。説得力さえあれば。夢物語や絵空事に没頭する自分を、大人気なく思うこともある。それでも、私はフィクションの世界から離れられない。そんな私がこういう物語を読むと、もう励まされちゃって、ますます大人気なくなっちゃうね。
  • 物語の力を再考する一冊。詳しくは語るまい。読むべし。

2010-11-16

[]短評:帰りたくないー少女沖縄連れ去り事件

帰りたくない―少女沖縄連れ去り事件 (新潮文庫)帰りたくない―少女沖縄連れ去り事件 (新潮文庫)
河合 香織

新潮社 2010-05-28
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内容紹介/Amazonより

家には帰りたくない―47歳の男に連れ回され、沖縄で保護された10歳の少女はそう言った。親子のように振る舞い、時に少女が主導権を握っているかのように見えた二人の間に、一体何があったのか。取材を重ねるにつれ、少女の奔放な言動、男が抱える欺瞞、そして歪んだ真相が明らかになる。孤独に怯え、欲望に翻弄される人間の姿を浮き彫りにするノンフィクション。


  • 親の悪夢とでも言うべき事件のルポルタージュ。と思いながら読み進める内に、ストーリーが「親」どころか「家族」に対する呪いのように感じられて怖ろしくなった。「パラノーマル・アクティビティ」の予告を見ても、さっぱり怖くなれない私だが、この本は怖い。
  • (自分が優位に立った上で)大人の注意・関心を引くためなら、何でもする少女。それに従うようにしつつ、実は自らのタナトス*1に少女を巻き込む男。全てを捨てて逃げ続ける母親。いったい、どこまで遡れば、彼女たち全員が幸福になれただろう。
  • 事件の表層から深部へと分け入る構成が見事。文庫化に際して加えられた「それからの二人」も、その構成を崩していないのが、運命とすら思われて、なお恐ろしい*2

*1フロイトの用語。攻撃・自己破壊に向かう死の本能を指す。/大辞林より

*2:単行本刊行が平成19年12月。本書の発行は平成22年6月。

2010-11-07

[]短評:おサケについてのまじめな話

アルコール依存症は患者がかわいがられない病気です。

おそろしい、にくらしい病気でした。

私は彼を憎んで 逃げまわるのにせいいっぱいでした。

そういう病気でした。


でも、病気なのだから 専門の医師が対応しなければいけません。

家族だけでは戦えません。

私はもっぺん生まれかわっても

やっぱり鴨ちゃんと一緒になってると思う。

そいでやっぱり鴨ちゃんは依存症になって

二人は大ごとになるんだろうけど、

でも今の私には知識があるから。

正しい治療法を知ってるから。


大丈夫。

もう憎まない。

西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気
西原 理恵子

小学館  2010-07-01
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内容紹介/Amazonより

アルコール依存症は、軽症のうちほど回復しやすい病気です。ところが病気の症状や治療について、また、重症化したときのおそろしさなど、一般的な知識や理解が十分だとは言えません。

本書は、元夫のアルコール依存症に悩んだ漫画家・西原理恵子さんと、青年期に自身が若年性アルコール依存症になった経験をもつ月乃光司さんの二人が、それぞれ家族と当事者という立場から、この病気について語りあいます。かかってからでは治療が困難なアルコール依存症について、多方面から解説した、わかりやすくためになるガイダンスです。

巻頭漫画、巻末には相談先リスト入り。 

編集担当者からのおすすめ情報

★漫画家西原理恵子さんの元夫鴨志田穣氏(故人)が最期に遺した小説『酔いがさめたら、うちに帰ろう』(スターツ出版)が映画化され、2010年秋公開されます。本書と表裏をなす内容ですので、ぜひおすすめです。

私は下戸である。アルコール飲料の味も、基本的には好きではない。ビールは苦いし*1、ウィスキーなども美味しいと思えない。フルーツなどの甘味を使ったものは時に美味しく飲めるけれど、それならジュース飲んでりゃいいのである。それに、グラス一杯で顔が真っ赤になり、白ワインを飲むと何故か膝から下が猛烈に痛くなるというオプションもついてくる。とことん下戸だ。

でも、飲めるようになりたい。今年、日本酒と焼酎*2の一部を「美味しい!」と思えて嬉しかった。相変わらず顔、と言わず全身真っ赤なのだが。

そんな憧れのせいか、酒飲みの話をよく読む。そうと意識しなくても、アルコール依存症患者が主人公の小説にまみえる機会が多い。最近だと、「強盗こそ我らが宿命」、「人質」のホーガン作品の主人公がアルコールと闘っていた。定番作品としては、中島らもの「今夜、すべてのバーで」、ローレンス・ブロックの「マッド・スカダー」シリーズ、ウォーレン・マーフィーの「トレース」シリーズがある。

しかし、本書はそれらフィクションを超える迫力で、アルコール依存症の残酷さを提示している。

第一章の西原理恵子による「家族の記録」では、依存症患者を家族に持つ過酷さが描かれる。偏見や誤解について、辛い経験をした家族の立場から書いてあり、私にとっては目から鱗の落ちる思いがした。また、かつて自身が依存症だった月乃氏による第二章の体験談は、おぞましくも悲しく、忘れがたい。第三章の対談は、分かりやすいまとめのようで、構成の妙を称えたい。

以下、印象的な箇所を抜き書きして、感想に変える。

月乃

日本のアルコール依存症者は推計80万人、依存症者の可能性がある人は約440万人。それから、一日平均ビール中びん3本以上飲んでいる多量飲酒者になると、約860万人だそうです。それなのに、病気についてよく知られていないし、誤解も多い。

西原

それは患者や予備軍の数ですよね。家族のことも考えたら、背後にはその何倍もの人が苦しめられているんですよね。

アルコール依存症は、自分の意志では飲酒をコントロールできなくなる病気です。つまり、本人はやめたい、飲みたくないと思っているのに、やめられなくなるところが怖いんです。

こうしたことは、わたしも、アルコール依存症が「病気」なんだ、病気だから「治療」が必要なんだ、と知って、後から勉強してわかったことなんです。だけど、渦中にあるときは、何がなんだか、立ち止まって考えることができませんでした。わたしも同じように飲んでいたのだから、彼だけが病気といわれても納得できるわけがありません。しかも鴨ちゃんは、きちんとわかって飲んでいるように見えましたから。

 酔っ払って暴れていたときは、「これが本性だったのか」とあさましく思ったこともありましたが、そうではなく、彼の本性はやさしさと勤勉さでした。お酒の病気のせいで、言動がゆがめられていたということを、治った彼を見て初めて理解できたのです。

*1:「味わって飲むからだよ!あれは喉越しを楽しむの!」とビール好きに説教されたことがある。味わって飲みたくないものを、なんで飲まにゃならんのだ。

*2:「泰明」という麦焼酎。焼きたてのパンのような香りがして、味はお酒なんだけど、美味しかった。

2010-10-31

[]みんなのバレエ・ストレッチ

ということで、バレエ入門したかん子さんだが、家で何をしたらいいのか分からない。いっちにー、さんしーと柔軟体操をしていても、すぐに飽きてしまう。しかし、鬼軍曹先生は「週一回教室に来たら、うまくなれると思うな。家でも練習するのだ」と言っていた。もっともである。

そこで、いつでも何でも本に頼る私は、さっそく検討した結果、2冊の実用書を購入した。


みんなのバレエ・ストレッチみんなのバレエ・ストレッチ
小野 恵理 川瀬 美和

新書館  2009-03
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まずは、全編イラストで解説される「みんなのバレエ・ストレッチ」。47ページと薄く、20×25センチと大きめなので、床に開いて置き、それを見ながら運動できるのが便利。

イラストだと分かりにくいかもしれない、と不安だったのだが、杞憂であった。明快かつ丁寧な説明で、読み上げながら体を動かすと、すんなり理解できる。(体は付いていかないが、やりたいことは分かる。)それぞれのストレッチが、どこの筋肉を伸ばすためのものなのかが書いてあり、そこを意識して行うことで、できないなりにじわじわと体が柔らかくなっていく実感がある。

特に指導方法に感嘆したのが、脚を前後にぺたーんと開く「スプリッツ」の訓練法である。立ち上がり、体重を垂直にかけつつ、左右の脚を前後にじわじわ滑らせて開いていっても、そんなには広がらない。本書の方法は、両膝立ち→右脚を一歩前に→前傾し、両手で体を支えて、右脚を前に滑らせる(左ひざはついたまま)→左脚の腿の前を伸ばすようにしながら、後方に滑らせていく……というものだ。かん子さんはこれを6日間続けた結果、まだまだぺたーんではないが、かなり脚が開くようになった。やはり、できるようになると嬉しいようだ。

こども向けだが、初心者なら大人でも充分いい運動になる。てゆーか、私も付き合ってやっているが、全然できない。頑張りすぎたら、腰が痛くなった。無理は禁物である。


[]DVDで覚えるシンプルバレエジュニア〈Lesson1〉ストレッチからバー・レッスンまで

DVDで覚えるシンプルバレエジュニア〈Lesson1〉ストレッチからバー・レッスンまでDVDで覚えるシンプルバレエジュニア〈Lesson1〉ストレッチからバー・レッスンまで
牧阿佐美バレエ団= 牧阿佐美バレヱ団

新星出版社  2005-08
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こちらは、DVD目当てで購入。イラストより、断然実践的であろう、と期待したのだ。

しかし、こっちはしばらく使えそうもない。というのも、実演する子供が上手すぎて、参考にしかならないのである。理想型は分かるが、どーやったらそこにたどり着けるかというと、毎日毎日練習をしてこそなのだ。「左右の足を開いてすわります」と言われても、まだそこまでは開きません……という申し訳ない気分になる。

内容はよろしいので、いずれ便利に使いたいと思う。

2010-10-29 チャック・ホーガン祭

[]短評:人質

人質 (講談社文庫)人質 (講談社文庫)
チャック ホーガン Chuck Hogan

講談社  1997-11
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内容紹介/Amazonより

 反逆の森に轟く銃声。息づまる人質救出作戦!モンタナ州の辺境で山小屋に立てこもる逃亡犯。一進一退の攻防。遂に惨劇の嵐が巻き起こる!

 モンタナ州の辺境の森に銃声が轟いた。連邦逃亡犯が子供を含む人質を盾に山頂の山小屋に籠城。地元警官、FBI、連邦執行局の特別チームが相次いで集結、一進一退の攻防が続く。交渉、駆け引き、脅し、あらゆる手段で人質奪還をはかるバニッシュ司令官の苦悩は深まる。息詰まる人質救出作戦を描くパニック大作!

  • 上記紹介は小説の内容に沿ってはいるのだが、正確ではない。逃亡犯が自分の子供を含む家族で山小屋に篭城し、それが結果的に人質を取られたも同然の状況になり、強行突入ができない。というのが実際のオープニング概要だ。子供たちは、FBIにとっては人質であると同時に、自ら銃火器を扱う攻撃者でもある。中々面白い設定だと思うのだが、上記及び本書裏表紙あらすじには、無力な人質であるかのような表現しかないのが残念。
  • そういう側面を反映してか、邦題は「人質」だが、原題は「THE STANDOFF」。手詰まり・膠着状態、孤立・よそよそしさ、などの意味がある。内容は当然原題に近い。*1
  • 機械的くじ引きのようにして選抜されたFBIの現場指揮官バニッシュは、過去の事件で心身に深い傷を負ったまま立ち直っていない。それを支えるはずの捜査官は、ある者は保身にのみ徹し、時に彼を裏切り、またある捜査官は彼を監視し続ける。そんな中、自他と闘うバニッシュの苦悩と混乱が本作の主軸となっている。過去の事件がいかに彼を引き裂き、それが以降の人生に影響しているのかを語るパートは、暗い魅力に満ちている。
  • 地元警察と保安官は対立しており、白人優位の中で奮闘するインディアン保安官の描写が興味深い。*2また、出世を夢見てバニッシュに近付く若手警官の存在が、ストーリーに味わいを添えている。立て篭もっている犯人と、そもそもの逮捕劇にも何か陰謀めいたものがありそうだ。さらに、地元の住人の中には、白人至上主義の犯人に同調する勢力がおり、交渉現場近くで別の混乱を引き起こす。ということで、あれこれ面白いパーツが多いのだが、多すぎるのである。え?あれはどうなったの?みたいに放置されている要素もあるような気がする。結果として散漫な印象。
  • 本作は、ビデオ店アルバイト26歳のチャックによるデビュー作。「強盗こそ」で感じた、生き生きした群像劇を扱う手腕、映像的な描写力の萌芽を感じるも、読み終えて爽快とはいかなかった。

[]短評:ザ・ストレイン

ザ・ストレインザ・ストレイン
ギレルモ・デル・トロ チャック・ホーガン 大森 望

早川書房  2009-09-10
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2010年9月、ニューヨーク・JFK国際空港で旅客機が着陸直後に外部との無線連絡を絶ち、照明を消し、すべての電気系統を落として誘導路上で沈黙した。人質事件の懸念から突入したレスキュー隊が発見したのは、二百名近くの乗客が席に着いたまま静かに息絶えている姿だった…。バイオテロの可能性から、当局はCDC(疾病対策センター)の特別班を召集する。チームを率いる疫学者イーフリアムは最愛の息子と過ごす貴重な週末をきりあげて空港に急行し、機内のバイオハザード調査に入るのだった。事件の原因究明にあたるイーフはやがて、この悪疫がいくつもの家族と社会秩序を引き裂き、猛烈な勢いで蔓延していくさまを目の当たりにする。それは同時に、太古の昔から地球に生きる、ある忌まわしい種族の復権を意味していた―アカデミー賞映画監督ギレルモ・デル・トロが長年あたためてきたアイディアを惜しまずそそいで贈る極上のスリル。全米ベストセラー・リストランクイン、世界21カ国で翻訳決定の傑作ノンストップ・パンデミック・スリラー。

  • うそつき!パンデミック・スリラーじゃないじゃん!私の苦手なアレじゃないか!うえーん、こわかったよー!
  • 本作はチャック・ホーガンと映画監督ギレルモ・デル・トロの合作である。デル・トロと言えば、「ミミック」「ブレイド2」である。「ゴールデン・ボーイ」シリーズは、面白そうだけど未見。最近では、「パンズ・ラビリンス」が話題だったが、見てない…てゆーか、美しくて、怖くて、見たいけれども、見たくない。

D

  • とゆーことで、上記紹介を読んで興味を持った方は、以降を読まないでください。そして、私と同じ気分を味わってください。

  • で、本作は、ーー紹介では伏せられており、実際それが効果的演出の一つにもなっているがーー「ブレイド」系*3である。それと同時に、ゾンビものでもある。伝統的な設定を生かしつつ、それを現代の技術や小道具に当てはめて用いる手法が見事。
  • 生々しいクリーチャー描写が、ひたすらコワイ。私はホラーが苦手なんだよ!これが映画化されても、ぜったいに、ぜっっっったいに見ないからな!また、映画監督と映像的な文章を得意とする小説家の合作なもので、ありありと目に浮かぶんだよ。ああ、コワイ……。
  • トロがアイデアを出し、ホーガンが文章を書く、という方法なのかと思いきや、そういった明確な分業ではなかったらしい。元は、お蔵入りしたTVドラマの企画*4だったので、トロの用意した膨大な設定集が先にできていた。それを読んで魅了されたホーガンと、一章ずつ書いてメールで送り合い、二人で刈り込んだり、付け足したりして完成させたもののようだ。
  • 「完成」と書いたが、本書最大の問題は、これが三部作ということだ。最後の数ページ、この大風呂敷をどーやって畳むのよ?とそわそわしていたら、「まだ決着がついていない」で終わってしまった。巻末の解説(訳者の大森望)によれば、三部作になるらしい。そんな……これから先、二冊もこの分量、この生々しい恐怖を読まないと、すっきりできないの?あの人どうなるの?あれどうなるの?ってーのを知るには、読むしかないの?あああ、読みますよ。第二部は今月(2010年10月)刊行済(邦訳は未刊行)、第三部は2011年3月刊行予定。大森さん、よろしくお願いいたします。

The Fall: Book Two of the Strain TrilogyThe Fall: Book Two of the Strain Trilogy
Guillermo Del Toro Chuck Hogan

William Morrow  2010-10-01
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Eternal NightEternal Night
Guillermo Del Toro Chuck Hogan

William Morrow & Co  2011-03-15
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  • 2011年公開予定「ホビットの冒険」を撮影中のトロさんだが、いったいどんな作品になるんだろうなあ。原作ファンとしては、あんまりアレンジしてほしくないが、同時に、私の思いもよらない世界を作ってほしくもある。

*1:英和辞書wisdomの例文がすごい。「The man was killed during a standoff with FBI agents.(その男はFBIとの膠着状態の中で殺された)」「the standoff between father and son(父と息子のよそよそしさ)」何か、「THE STANDOFF」のために書かれたようだ。てゆーか、この小説が例文的定型なのか?

*2:インド人ではなく、アメリカンインディアンである。1997年発行なのだが、当時は「ネイティブ・アメリカン」という翻訳表現を選択する必要はなかったんだっけ?それとも、原文が「インディアン」?

*3:=ヴァンパイアもの

*4:FOXが「設定はいいけど、コメディにしてね」と要求したのを断ったとのこと。うーん、これをコメディ……面白いかもしれない。かなりブラックになるし、トロの意向には合わないけれど、実現していたら、人気シリーズになっていただろう。

2010-10-22

[]卵をめぐる祖父の戦争

「心配するな、友よ。きみを死なせはしない」

まだ十七だった。愚かだった。だから彼を信じた。

卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))
デイヴィッド・ベニオフ 田口俊樹

早川書房  2010-08-06
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「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父のレフが戦時下に体験した冒険を取材していた。ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた。軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された彼は、饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索に従事することに。だが、この飢餓の最中、一体どこに卵なんて?――戦争の愚かさと、逆境に抗ってたくましく生きる若者たちの友情と冒険を描く、歴史エンターテインメントの傑作

以前、「99999(ナインズ)」で私をいたく感心させた*1デイヴィッド・ベニオフによる……ええっと、これは何?冒険小説?戦争小説?青春小説?ジャンルがなんであれ、これは間違いなく世界中の青少年必読必携の小説である。推奨年齢18歳以上。私は、ドキドキしたり、そわそわしたり、笑っちゃったり、ぞっとしたり、とても忙しく、楽しく、またしみじみと読んだ。細部にはうんことかファックとかオナニーとかが横溢しているが、登場人物の一人が「あんたたちはいつもちんぽとお尻の話ばっかりだね」と言いもするが、それでも若者たちから本書を遠ざけるべきではない。読むべし。★★★★★


「99999(ナインズ)」の際に書いたものを引用する。

99999(ナインズ) (新潮文庫)99999(ナインズ) (新潮文庫)
デイヴィッド ベニオフ David Benioff

新潮社  2006-04
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 文章を書く才能には、様々なものがある。中でも私が憧れるのは、「映像的な文章」の才だ。一読するだけで眼前に描写されたものを想像できるような文章。手触りや香り、温度や湿度を感じたように錯覚できる文章。この作者には、間違いなくその才がある。(映画の脚本を書いているそうだが、それが当然に思える。)匂い立つような雰囲気を行間に含む短編集だ。

 いつもなら「オチ重視」の私だが、この作品には謎が全て解ける結末や、カタルシスが充足されるグランド・フィナーレはない。それで構わない。ごく小さな着地点が最後に用意されていて、そこに立って上を見ると、それまでの物語が星のように天蓋を彩っている。長い長い誰かの物語のある一部分を、極めて巧みに切り取ったような感がある。

本作においても、賞賛のポイントは「映像的な文章」だ。瓦礫の街ピーテル*2の様子、その暗闇の中に聞こえるピアノの音、凍りついた森…根拠もなく断言するが、この小説の映画化は近い内に実現するだろう。それが、本書同様傑作になりうるかどうかは不明だが、私の目の中に浮かぶ風景を、もっと力強く思い描き、モノにしたいと願う映像作家は珍しくないと思う。

また、視覚のみならず、本作では味覚を刺激する描写が多く、私はお腹がすきました。900日の包囲の中だ。大したものが出るわけもない。しかし、主人公たちはいつも飢えていて、読者である私にも、その飢えが及んでいたのだ。文章に力がある証左であろう。

それらと同時に、長編小説には欠かせない*3魅力的なキャラクタ設定も実に素晴らしい。「脱走兵」コーリャの人物造形がなかったら、この物語は今ある半分も面白くないだろう。伊坂幸太郎作品の登場人物を想起させる、口から先に生まれたような美男子である。再度映像化の話をするならば、その作品の出来は、コーリャのキャスト選びにかかっている。

また、パルチザンの狙撃手ヴィカの存在感といったら、初登場の時から、私の目の前に実体を伴って現れたかのようだった。とは言っても、想像力の乏しさは悲しく、彼女の姿は「プライミーバル」のアビー・メイトランド(ハンナ・スピアリット)なんだけどね…。

f:id:nekonomimi:20101020141741j:image

*4

D

他にも、私好みの要素がてんこもりなのだが、詳細を聞かせるのはもったいない。ぜひ、手に取って読んでほしい傑作である。

クリスティやブロックの翻訳でお馴染み、田口俊樹氏の訳も良い。*5


ところで、子供の頃、家に「900日の包囲の中で」という本があった。母が子供たちのために買ってきてくれたものだったが、私は戦争ものが怖くて、手を出さなかった。姉は読んだかもしれない。タイトルからして、レニングラード包囲戦の話だったのだろう。今さら興味を持ち、探してみると、どうやら長らく絶版らしい。今度、両親宅で探してみるつもり。

九〇〇日の包囲の中で (創作児童文学 27)九〇〇日の包囲の中で (創作児童文学 27)
ユーリイ・イワノフ 宮島 綾子

岩崎書店  1982-07
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*1:自分でこういう書き方を選択しておいてなんだが、何て偉そうな態度なんだろう!私は何?有名評論家か?私に褒められると、作家は嬉しくなってちびっちゃうくらいの大家なのか?ええい、そうじゃないけど、偉そうな態度が好きなんだ。それに、ナインズはほんとーに、ほんとーに良い短編集だった。まことに感心。これからもがんばりたまえ、デイヴィッド。

*2:レニングラード=サンクトペテルブルクの愛称

*3:不愉快で退屈な主人公と長旅をするのは耐え難い。それが十数ページならまだしも、350ページほどあるのだ。主人公を呪い、早く死ね!と思わずにいられないなら、その作品がどんなに評価されていても、私には無価値だ。

*4:美人の後ろにいるボンクラは、ドラマ「プライミーバル」作中で彼女と恋に落ちる設定で、実生活でも婚約しやがった俳優アンドリュー・リー・ポッツ。

*5:って、本当に偉そうだな、おい。

2010-10-20

[]強盗こそ、われらが宿命

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)
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全米一、銀行強盗発生率の高い街であるボストン郊外のチャールズタウン。ここでは強盗は誇り高き家業だ。そんな街で生まれ育ったダグは、幼なじみを率いて、現金強奪をすることに何の疑問も抱いていなかった。だが、ある銀行襲撃をきっかけに、何かが変わった―銀行の女性支店長クレアに恋をしてしまったらしい。深入りできない苦しい恋に悩みながら、次の襲撃の準備を進めるダグ。一方、FBIは着々とダグたち一味に捜査の手を伸ばしていた。加害者と被害者、追う者と追われる者が、クレアを軸にして出会ったとき…。巧みな人物描写とプロットで読ませる、傑作ミステリー。

来年2月公開予定の映画「ザ・タウン」。間もなく開催される東京国際映画祭のクロージング作品でもある。ベン・アフレック監督第二作目。アメリカでは興行成績が良く、評価も中々とのこと。

D

主演は、監督兼任のアフレック。共演者の中で、私が一番注目するのは、ダグのかつての恋人を演じるブレイク・ライブリー。「旅するジーンズ」シリーズで、ブリジットを演じた彼女が、難しい役をどのように扱うのかに興味がある。

その原作が、本書「強盗こそ、われらが宿命」である。

私は、まず映画の予告を見て、しかる後に本書の上記紹介文を読み、内容が全部分かったつもりになって小説に入ったが、とんでもなかった。私がこの先、最後のページまで全ての梗概を語ったとしても(そんなことはしませんが)、まだ読む価値がある。

非常に良くできたサスペンスであり、またラブストーリーとしても切なさバクハツでとてもよろしい。男女の駆け引きや、告白シーンなんぞ、読んでてゲンナリしやすい私だが、苛酷な状況と、登場人物それぞれの心情を思い、しみじみとした思いを噛み締めた。「今」の美しさと、「これから」の残酷さの狭間で、このような物語世界を構築できる作家の力量に酔った。

特に、ダグが自らの内なる陥穽から逃れようともがく下巻後半からの、たたみかけるような展開が素晴らしい。群像劇的な文体が、人物描写を際立たせ、ドラマチックな場を形成している。実に、良い作品。★★★★☆

面白かったので、続けて作者の別の作品も読む予定。


本作の舞台は、1996年のボストン。今から十数年前の世界のはずなのだが、大して時代を感じない。だが、新作として名を挙げられる映画のタイトルは別だ。「もうすぐ上映される『ツイスター』という竜巻映画の宣伝を見たことある?」ああ、あの年か、とかつてを思い起こす人もいるだろう。「インデペンデンス・デイ」「ザ・ロック」の年だ。どう?私は色々思い出して、悶絶しそうになったよ。作品には関係ないが、映画のタイトルには、何か魔法の呪文のような力がある。時間を戻す力がある。

映画のタイトルは、作中他にもたくさん出てくる。FBI捜査官が「セルピコ」や「フェイク」について語り、「ヒート」を想起させるシーンもある。巻末の解説によれば、ホーガンはビデオショップの店員だったとのこと。映像的描写もむべなるかな。映画化もまた、宿命だったのだろう。

2010-10-12

[]短評:カーデュラ探偵社

カーデュラ探偵社 (河出文庫)カーデュラ探偵社 (河出文庫)
ジャック・リッチー 駒月 雅子

河出書房新社  2010-09-03
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内容紹介/Amazonより

超人的な力と鋭い頭脳で難事件を解決する黒服の私立探偵。ただし営業時間は夜間のみ。その正体は―短篇の名手リッチーが生んだユニークな名探偵カーデュラ・シリーズを全作収録した世界初の完全版“カーデュラの事件簿”。さらに「いい殺し屋を雇うなら」「さかさまの世界」など5篇を新訳で贈る。

  • 文庫化された「クライム・マシン」に、私の好きなカーデュラ探偵社シリーズが入っていなかったので調べたところ、このシリーズだけを別にまとめた文庫が出るというので、楽しみに待っていた。カーデュラものの未訳作品が入っているのかと思っていたのだが、新訳5篇は全てノン・シリーズ物だった。ちょっと残念。
  • と、いうことで、カーデュラものについて改めてコメントはない。もう、ジャックったら、いつだってサイコー。
  • しかし、新訳の5篇もサイコーで気に入った、とは言えない。
  • 「無痛抜歯法」どんでん返しはあるが、スッキリしない。
  • 「いい殺し屋を雇うなら」長過ぎる。
  • 「くずかご」うまい。けれど、好きではない。
  • 「さかさまの世界」凝っている。けれど、好きではない。
  • 「トニーのために歌おう」冷酷になれない弁護士エイレングラフ*1の物語かと思ったら、リッチー作品に時折現れる「幸福な閉塞」のような小説だった。味わい深いが、傑作とは言えない。
  • 文句は言ったが、カーデュラものの集大成は世界初とのこと。それだけで、私には充分評価に値する。ありがとう、河出さん。

*1:ローレンス・ブロックの短編シリーズに登場する、依頼人を必ず無罪にする弁護士。

2010-10-10

[]変な学術研究1

最近、こんなニュースを見た。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101008-00000852-reu-int

http://megalodon.jp/2010-1010-1439-52/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101008-00000852-reu-int

ルワンダでブタにヒップホップ、生産増で貧困対策にも

 [NYIRANGARAMA(ルワンダ) 7日 ロイター] ルワンダ北部の農場で、ブタにヒップホップやレゲエ、R&Bなどを聞かせるという新たな試みが、生産増加などの効果を挙げている。

 農場の責任者ジェラード・シナ氏は、「人間は音楽が好きだから、動物にも聞かせてみようと思った」と説明。「動物が気に入る音楽を選ばなければならない」と語った。 

 同氏によると、このアイデアはベルギーで6年前に思い付いたもので、劇的な成果がみられている。音楽を聞かせて育てたブタは、音楽を聞かせなかったブタに比べ、2倍も子ブタを産んでおり、体重の増え方や肉質も良いという。


これを読んで、当然のようにこちらを思い出した。

 それにしても、動物実験や動物行動学をすべて人間に応用できると信じている素朴な人が多いのには驚かされます。牛にモーツァルトの曲を聞かせたら乳の出が良くなったという話を聞いて、社内にモーツァルトの曲を流せば社員がたくさん仕事をするようになるはずだ、と考え実行した社長さんがいたそうです。その会社のOLのみなさんは、「なんでこのごろ、乳が張って痛いんだろう?」と悩んでいるかもしれません。

パオロ・マッツァリーノ「続 反社会学講座」P144

続・反社会学講座 (ちくま文庫)続・反社会学講座 (ちくま文庫)
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この記事を読んだ誰かさんが、「ウチの工場でヒップホップかければ、社員の生産性が向上するかも!」と期待して、結果として社員のみなさんの体重が増え、肉質が良くなったらどうしよう。あと、子沢山になる。めでたい。

マッツァリーノは、上記に続けて「音楽で赤ちゃんやこどもの教育効果を高めるとされる、いわゆる『モーツァルト効果』は1993年に発表されて大変話題になりましたが、その後、欧米の心理学者たちの研究により、効果がないことが立証されてしまいました。」と書いている。


記事によれば、農場の責任者ジェラード・シナ氏は、この例の逆で、「人間が好きなものは、豚も好きなはず」という理屈で実践しているという訳だ。実績は上がっていると記事にはあるが、科学的な調査によるものなのか、せっかくやってるんだから成果があるはず、という気分によるものなのかは不明。


変な学術研究〈1〉光るウサギ、火星人のおなら、叫ぶ冷凍庫 (ハヤカワ文庫NF)変な学術研究〈1〉光るウサギ、火星人のおなら、叫ぶ冷凍庫 (ハヤカワ文庫NF)
エドゥアール ロネ ´Edouard Launet

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内容紹介/Amazonより

 欧州宇宙機関は、おなら感知探査機を打ち上げて火星人の存在を確認しようとした。英国南極研究所は、飛行機が上空を通過するとペンギンが転ぶという噂の真相を確かめるため、軍隊までかりだして実験をした…とんでもない笑い話に聞こえるが、当の科学者たちは至極まじめに研究しているのである。時にイグノーベル賞を受賞してしまうほどの大研究をなんと54本も一挙に紹介!知の魅力を凝縮したサイエンス・コラム集。

著者のシニカル過ぎる姿勢が時に鼻に付くが、興味深く、また笑える研究が紹介されている。この中に、「ロック・アラウンド・ザ・ドッグ」と名付けられた一章がある。動物と音楽に関する実験を紹介しているのだが、「なかには、まったく世の中の役に立たない実験も行なわれるようになった。」と酷評されているのが、「ブリトニー・スピアーズが歌うポップミュージックと、バッハのソナタを聞かせた場合に、犬はそれぞれどのような反応をするだろうかという実験である。*1」これに続けて、実験の内容が詳しく説明されているのだが…

さて、犬たちにブリトニー・スピアーズの歌やクラシック音楽を聞かせる前に、なにを思ったのか、ウェルズ博士はメタリカというヘヴィ・メタルバンドの音楽を聞かせた。…50匹の犬を集めて、耳をつんざくようなロックを聞かせたのである。その結果は、犬たちはまさに猛獣のように猛烈に吠え立てたという。そして、その後でクラシック音楽やブリトニー・スピアーズを聞かせたのだが、それには犬たちを落ち着かせる効果があったというのだ。

ヘヴィ・メタを聞いたあとなら、犬たちにとって、ベートーヴェンの『歓喜の歌』は十分に許容できるものだったらしい。そしてヴィヴァルディの『四季』も大丈夫だった。バッハのソナタに至っては、なんと一匹も吠えずに、最後まで静かに鑑賞することができた。しかし、その一方で、意外な現象も見られた。…ブリトニー・スピアーズも聞かせたのだが、その時の反応は、音楽を何もかけないで部屋を静かにした時の反応とまったく同じだったのである。

こういうものを読むと、「科学的な調査」って何?という疑問が生まれるが、ウェルズ博士におかれては、ぜひルワンダに赴き、豚とヒップホップの関係について調査してほしい。ただ、その時には、最初にメタリカを聞かせるのはやめた方がいいと思う。


本書には続編もあるので、こちらも読んでみるつもり。

変な学術研究 2 (ハヤカワ文庫NF)変な学術研究 2 (ハヤカワ文庫NF)
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*1:この実験の結果は、<動物福祉/アニマル・ウェルフェア>誌(11巻、385-93頁)に報告された。