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Phantom Feline 幻の猫たち

2017-02-21

Emtidi "Emtidi" (1970)

| 01:18

Emtidi

"Emtidi" (1970)



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ドイツのフォークユニット「エムティディ」は、プログレ寄りのセカンドアルバム「Saat」(1972年)によって評価されていますが、ファーストアルバムである本作は、全編にわたってアコギと歌(男女デュエット)を中心とした、たいへん地味な作品であります。後半になるとインストが中心になるので、さらに地味になります(あやしげなスキャットやジェスロ・タルふうのフルートが入ります)。
わたしはThorofonレーベルの再プレス輸入盤に日本語ライナー(帯兼用)が挿入されたLPで愛聴していましたが、それはどこかにいってしまいました。
Emtidiはギターと歌(およびフルート)のMaik Hirschfeldtと、ギター、ブズーキと歌(およびカズー)のDolly Holmesの二人組で、英語で歌っています。ドリー・ホームズの歌い方はジョーン・バエズとかジュリー・コリンズ、ナナ・ムスクーリのようなコンテンポラリーフォーク路線だとおもいますが、曲の終りに電子音を入れたり(「Space Age」)、エスニックなブズーキにフルートとスキャットが乗っかる延々7分強のインスト「Flutepiece」を入れてしまうあたりはたいへんクラウトです。
再発CDの英文ライナーによると、マイクはバヴァリア出身、親に反抗して学校もやめて世界を旅して回っているうちに(ヒッピーですな)ロンドンでカナダ(ヴァンクーヴァー)出身のドリーと出会い意気投合、Timという人(詳細不祥)も入れて三人でベルリンで音楽活動をはじめました。「Emtidi」というバンド名はMaikとTimとDollyの三人のイニシャル「MTD」を英語読みしたものだそうです。
本作は決して名盤ではありませんが、わたしはインテリはきらいだけどヒッピーは好きなので愛聴しています。
ヘルダーリンの「Hölderlins Traum」(1972年)がすきな人は本作もきいてみるとよいです。そして本作を(というかEmtidiを)すきな人はキャロル・オブ・ハーヴェストの「Carol of Harvest」(1978年)もきくとよいです。


Emtidi "Emtidi"
LP: Thorofon ATH 109 (1970)
CD: Garden of Delights CD 145 (2009)

1. Lookin' For People (Holmes/Hirschfeldt)
2. Shadow On Your Face (Holmes/Hirschfeldt)
3. Long Long Journey (Holmes/Hirschfeldt)
4. No Turn Back (Holmes/Hirschfeldt)
5. Space Age (Holmes/Hirschfeldt)

6. Let The Joint Go 'Round (Hirschfeldt)
7. Yvonne's Dream (Hirschfeldt)
8. Birds On A Graveyard (Hirschfeldt)
9. Flutepiece (Hirschfeldt)


Dolly Holmes: six-string guitar, bouzouki, kazoo, vocals
Maik Hirschfeldt: seven and twelve-string guitar, flute, vocals

Recorded on 8/9 July 1970

2015-02-25

YBO2 "Kingdom of Familiydream" (1986)

| 07:41

YBO2

"Kingdom of Familiydream"

(1986)



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YBO2のセカンド・アルバムは1986年のクリスマス・イヴにリリースされました。未CD化ですが、「Kingdom of Familydream I & II」および「Deadhuman's Paradise」はグレーテストヒッツCDに収録されています。ジャケット記載のタイトルが「KINGDOM OF FAMILIYDREAM」と「I」が一個多くなっているのは、当時のインタビューによれば誤植ではなく意図的なもので、家庭における「愛(I)の過剰」を表しているそうです。家庭における愛の過剰の結果がどうなるかというと、「Kingdom of Familydream」の歌詞にあるように、「Every good boy must go to hell」(良い子はみんな地獄行き)というわけです。この「Every good boy」云々のフレーズはムーディ・ブルースの名盤「童夢」の原題「Every Good Boy Deserves Favour」(良い子はえこひいきされて当然だ)に由来していますが、その「童夢」のジャケを見ると、育ちの良さそうな少年が老人に宝物を見せてもらっている絵なので、うっかり少年に感情移入してしまいますが、ジャケを引っくり返して裏を見ると、すっかり存在を無視された可哀そうな二人のみすぼらしい身なりの少年が描かれているので、「ああ自分はこっちだった」と、おのれの身の程を思い知らされる仕掛けになっていて、それこそ「地獄へ行きやがれ」と呪いの言葉を吐きたくもなろうというものです。私のように幸福な子ども時代を過ごすことができなかった人間はものごとを素直に見れなくなるので厄介です。
それはそれとして、この「Kingdom of Familydream」というのはディズニーランドのキャッチフレーズだったということですが、それにジャケのラファエロの聖母子が象徴するキリスト教的家族幻想(愛情に満ちた聖母子像は、やがて我が子の死を悼む「ピエタ」像として再現されることになります)そして国家の共同幻想が重ね合わされて、ようするに「家庭の幸福は諸悪の本(もと)」(太宰治)であり、「家庭のエゴイズム」が新しいエルサレムを目指して「異端者」を火刑に処したり植民地政策したり原爆をおとしたり枯葉剤をまいたりピンポイント爆撃したりする一方、われわれはわれわれで東夷を征討したり旅順を陥落させたり真珠湾を攻撃したりして、「非国民」ではない忠孝心の篤い「良い子」たちは地獄のような戦場に送り出されて「お母さーん」と叫んで自爆したりすることになります。

本作からギターで河本さんが加わっていますが、シングル「空が堕ちる」に引き続きZOAの森川さんがギターで、そしてゲストとしてリビドーのMALさんがサックスで参加しています。

A-1の「Die Verwandlung」はカフカの「変身」の原題ですが、「変身」ではグレーゴル・ザムザが毒虫に変身してしまうことによってファミリードリームに亀裂が生じ、家族の厄介者になったグレーゴルを排除することによって家庭に再び平和が戻ります。虫になるまえのグレーゴルは家族思いで仕事熱心な「良い子」でした。A-2「Kingdom of Familydream I」は、「光の国」導入部や「円」などとも共通する、三拍子の中世舞曲ふう小品。「きよしこの夜」のオルゴールではじまるA-3「Kingdom of Familydream II」は前曲のヘヴィプログレ版。そしてB-1「Deadhuman's Paradise」では地上&天上の楽園を求めて泥沼の戦闘が繰り広げられます。
大蛇のようにヘヴィにうねくる北村昌士のベースはいつきいてもゾクゾクします。これはむしろヘヴィというより「蛇い」ベースというべきでしょう。北村昌士は「ベースにファズかけてハウリング」する自己のスタイルを「ヤクザな」ベーシストと表現していますが、ヤクザでないロックはロックですらないです。芸術行為においてはヤクザ者こそが真人間であるという、文芸評論家吉田健一によって確認された古来よりの事実をここで改めて肝に銘じておきたくおもいます。余談ということでいえば、かつてSSE(北村昌士のレーベル)のサイトのリンク集に「やっぱり蛇が好き」というのがあったのでクリックしてみると緊縛写真が出てきました。緊縛写真というのは非常に興味深いものであって、海蛇に巻かれて悶え死ぬラオコーンがレッシングの美学の重要なテーマとなったことでも了解されるように、人類はおのれの深層心理の蛇によってグルグル巻きにされているといってもよいです。キリスト教グノーシス主義の一派であるオフィテス(Ophites)は神/キリストを蛇と同一視していましたが、「それというのも、蛇が万物に先んじてこの世に生まれたこと、この世界の創造者は蛇の私生の孫にすぎないと、彼らが考えたからである。この蛇は、ライオンの頭をしたアイオンに巻きついているが、ミトラ信者たちは、このアイオンのことを、時間およびその帰結としての破局のシンボルだと考えていた。」(フランシス・ハックスリー『龍とドラゴン』中野美代子訳)。日本人の蛇信仰をモノマニアックに論じた吉野裕子の名著『蛇』は、人間の脳の一番奥には「恐竜の脳」である「R(爬虫類)複合体」が存在するというカール・セーガンの言葉を引用しつつ、蛇は「人類の遠祖であると同時に、もっとも恐ろしい敵でもあったのである」「蛇をはじめとする一群の爬虫類に接するとき、このように畏れとも嫌悪ともつかないある種の反応を人は覚えずにはおられない」と述べています。
B-2は「Living in Labyrinth」「Gravity」「自転車男」系列の、吉田さん主導のルインズ路線の楽曲。B-3は「帝国の逆襲」「System of Making Paranoia」系列のナンセンス言葉遊びソング。B-4「Lovely on the Water」はフランキー・アームストロングなども歌っているトラッド曲で、クレジットには「Based from old British trad song」と妙な英語で書かれていますが、ようするにスティーライ・スパンのアレンジのカバーです。スティーライがアレンジしたトラッド曲のYBO2によるカバーヴァージョンは「Alienation」収録の「Boys of Bedlam」が秀逸ですが、1992年のライヴCD「My Rest Place Live」所収の「When I Was Horseback」も切迫感があってよいです。そこにいくとこの「Lovely on the Water」は、メロトロンによるイントロはキュートですが、ただやってみただけという感じで、いただけません。とはいえこの曲(原曲)の歌詞、
「For Tower Hill is crowded
With mothers weeping sore,
For their sons are gone to face the foe
Where the blundering cannons roar.」
(タワーヒルは悲しみの涙に暮れる母親たちであふれた、なぜなら息子たちは大砲轟く戦場へ殺し合いに行ってしまったから)
は、本作のテーマとあいまって、たいへん効果的であるといえます。
「「黙示録」のサウンドトラック」(北村昌士)である本作でとりあげられているキリスト教終末思想に関しては、本作とほぼ同時期に執筆/刊行された彌永信美の著作『幻想の東洋』を参照されるとよいです。

そして「Kingdom of Familydream」をきいた人は、ついでにZOAの「Humanical Garden」とオザンナの「人生の風景」もきくとよいです。


YBO2 "Kingdom of Familydream"
Transrecords / TRANS 16 (1986)

A-Side
1. Die Verwandlung (変身)
2. Kingdom of Familydream I
3. Kingdom of Familydream II

B-Side
1. Deadhuman's Paradise
2. Universe
3. Springfield
4. Lovely on the Water

Masashi Kitamura: bass, voice, guitar, mellotron
Tatsuya Yoshida: drums, voice, piano
Seiichiro Morikawa: guitar (A-2, B-1), voice
Hideki Kawamoto: guitar (A-1, A-3, B-2, B-3)
Yukinori Maru: saxophone (A-3, B-2)

Engineer: Hiroshi Matsuo
Assistant engineer: Masaru Nakano
Recording directer: Tadashi Satoh

Released at Holly 24. December 1986
Recorded in November 1986 at M.I.B.

All songs by YBO2 except B-4 (trad.)