色の力

玉利勲『装飾古墳』(平凡社カラー新書、1978年)です。
主に北九州に分布する装飾古墳の現状を記したもので、当時やっと緒についたばかりの、保存の状態にも批評の目が向いています。
いくつかの古墳は、1930年代から石室内に装飾が施されていたのがわかっていて、史跡にも指定されてもいたのに、きちんとした保存の体制はほとんどとられていなかったというのです。1970年代になって、高松塚古墳が話題になって、やっとのことで、九州のほうにも目が向いたようなのです。こういうところにも、中央志向という、日本のシステムがみえてくるのですが。
実際、この新書が、カラー図版を多く収録していて、それによってはじめてインパクトが与えられるということもあるでしょう。白黒写真だけでは、この迫力は出ません。赤の色も、ベンガラで彩色しているのですから、ますます白黒写真ではむりです。古代ギリシアの作品や建築が有名なのは、ひょっとしたら、白だったからかもしれません。
白黒の写真や印刷しかなくて、損をしているものは、ほかにもあるかもしれません。技術の発達が、人間に与える認識も変えていくということもあるのです。