限りなく遠い。

私の日本語雑記

私の日本語雑記

 精神科医で翻訳家の著者が主に「ことば」について思いつくままに書いた本です。ちょうど『意識と本質』を読んだ直後で、関連することがあり、面白がって読みました。言葉についてある程度究めた人にとっては、共通する次元に行く事ができるのだろうと思いました。
 間投詞「あのー」の機能から日本語の特徴を語る書き出しは絶妙です。ぐいぐいと読者を惹きつけます。外国語詩を訳す苦労話や文法の説明の部分は、自分にあまりにも外国語に関する知識がないために分かりにくいところですが、言葉の深層に触れる話は興味深いです。また、翻訳というのはこういう作業をするのか、と自分の勝手な「翻訳家」のイメージが一新されました。
 本書は一種の文章読本的なものとして読んでもよいと思います。自分が文章を書く時に思い出しながら書くと良い文が書けそうな気がします。特に後半の短文をいくつもの章に分けて書いているところは、箴言のようです。
 音声と言語の関係についての考察は、さすが精神科医だと思いました。
 それにしても昔の学生はよく勉強しています。著者の幼年期からの読書体験、言語体験を綴っているところなどを読むと、自分は今まで何をしてきたのだろうと恥ずかしくなります。それを学校制度のせいにするのは簡単だけれど、それだけではないでしょう。時間はあったのにしてこなかっただけです。今からでも少しでも勉強することにしましょう。