ずっと忘れていたのに
「なったらよかったのに…。」
突然のR君の言葉に、すぐ返事が出来なかった。
「太陽の木の枝」という絵本をブックトークのなかで紹介したのだが、連作集でも出ているよともう一冊を出した。
私は子どもの頃、この「太陽の木の枝」と「きりの国の女王」(フィツォフスキ/再話 内田莉紗子/訳 福音館書店)を読んで、ジプシーの生活に憧れていたのだ。
家を持たずに、移動しながら森などで暮らすジプシー。
堀内誠一さんの絵の影響もあったのだろう。
情熱的な人たちの夢の中のようなお話の数々のなかで、堀内さん描くジプシーたちの姿は生き生きとしていた。
本を紹介した時に、つい「先生はね、この本が子どもの頃大好きで、自分もジプシーの生活をしたかったの。大きくなったら、こんな風に旅してみたいなと思ってたよ。」と言ったのだ。
すると、R君が最初の言葉を言ったのだった。
「なったらよかったのに…。」
「そうやなあ。なれへんかったわ。」
しばらくおいて、そう返したけれど…。
その夜、私は思い出したのだ。
どんなにジプシーに憧れていたかを。
ずいぶん長いこと忘れていたなあ。
誰に言うでもなく、本を何度も読んでは心のなかで思っていたこと。
急に、自分が小学生になってしまったようだった。
R君の言葉は、忘れていたことを思い出させてくれた。
R君、でも「なってたら」、私きっと司書にはなってなかったわ。
君とも出会えなかったね。
そんなことを思いながら、もう一度絵本を読んだ。