外人術

外人術―大蟻食の生活と意見 欧州指南編 (ちくま文庫)

外人術―大蟻食の生活と意見 欧州指南編 (ちくま文庫)

外人なんて呼ばないでほしい!とて、旅先の国へと入り込みたい「外人」の悲痛な願いと、その語に込められた差別的なニュアンスを佐藤亜紀はばっさり斬り捨てる。外人」なる者の特権をもっと使わずしてどうする、という豪気な旅の「裏実用書」。重苦しい国への帰属意識を軽やかに脱ぎ捨てて、旅先でくつろいでみせる、その優雅さよ。
「金のない外人はただの不良外人である」「タクシーに乗るとは即ちぼられること」といった旅のクールな視点がかっこよい。フランス、イタリア、チェコハンガリー云々といった各国を旅しながらも、常に「外人」ならざるを得ないことで、やや毒混じりの、しかしはしごく真っ当な言質を述べてみせる。
そのような実践的な旅を重ねてきた佐藤亜紀だからこそか、旅先の生活も良い意味でぐだぐだ。日本的な感覚でいえば、湯治に近いだろうか。旅先に過剰な期待をせず、ただまったり暮らす、そういった「無気力と停滞こそが夏場の旅行の醍醐味である」は本書の白眉。
その一方で、単なる毒舌家だと思っていた佐藤亜紀のちょっといい話(「無骨な男とチーズ」なんか素敵だ)や幽霊譚なんかも語られる。このような軽い小文と毒混じりの実践術とのバランスがほど良くて、それも本作の魅力だ。
いや、このような優雅な「外人術」を身につけるのは生半のことでないように感じるが、とにかく贅沢な人生の蕩尽にうっとりすることしばし。実用的な側面はさておき、面白い読物だ。

外人術。或いは、日本人たるに草臥れ果て、ささやかな休息を求めて暫し居場所を変え、余所者たらんとする人々に供する体験的手引書。