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不定期雑記

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2012-10-03(Wed) 大人がピアノを練習するということ

大人がピアノを練習するということ

大人のメリット・デメリット

メリット

○楽譜が読める。

義務教育の音楽をちゃんと聞いていれば、基本的な楽譜の読み方はわかる。真面目に聞いていなくても思い出すのはそんなに困難ではない。

ピアノの初歩の学習の半分は楽譜を読むことだから、これは大きく有利。技術的練習を主に進めて行けばいい。幼少の練習は音感、譜読みなど技術以外の練習の方が多い。


音楽理論がわかる。わからなければ本を買って勉強すればすむ。

○多くの曲や演奏を聴いた経験がある。クラシックに限らず、ジャズなども。

○大人向けの本が読める。子供向けに噛みくだいた本で遠回りに勉強する必要がない。


○経済的にある程度自由がある。

これは人によるだろうけど、勤め人なら3000円以上の楽譜や音楽書でも、ホイホイ惜しまずに買える。クラシックのCDも近頃は輸入盤が安いのでいくらでも。

本で読んでわかることは惜しまず本を買って学ぶべし。月謝を考えれば安いもの。

もっとも最近は2万円台でそれなりに本格的なタッチの電子ピアノが買えたり、

http://www.amazon.co.jp/dp/B004M92J0O/

ピアノはブルジョワの趣味と言われていたのはもう歴史時代の話である。


○手が成長している、オクターブが届く

子供の練習ではだいぶ後の段階でやっとオクターブ練習となるが、大人ははじめから練習できる。

多くの教材(バイエル、ブルグミュラー、ツェルニー30番等)でオクターブが登場しないのは、子供の手が小さいからなので、大人はそれらの教材を使うにしても、平行してはじめからオクターブ練習にとりかかったほうがよい。


デメリット

○練習時間がない。

特に昼間の時間がないのが問題。夜は案外時間がある。そこで電子ピアノの登場となる。やはり近年大人のピアノ熱が高まったのは電子ピアノの影響が大きい。しかしあくまで電子は代用品、昼間に生ピアノを弾ければそれに越したことはない。

とはいえ子供も学校や他の習い事もあり、案外忙しい。ピアノだけやっているわけにはいかない。


○場所がない。

これも年齢、経済状態により異なるが、生ピアノを置けない住環境の人は大人に多い。


絶対音感

これは伝説のような気がする。身についていたから役に立つとも思えない。

相対音感の方が重要。こちらは大人でも訓練すれば身に付く。

生ピアノか、電子か

http://www.amazon.co.jp/review/R38PK5ORVB2NA0/

に詳しく書いたので繰り返さないけど、生ピアノはあったほうがよい。しかしグランドにこだわる必要はない。

置けなければレンタル練習室を時々借りる。実家が近い人は実家に置いて弾きに行くという手も。

生ピアノがあっても、現実問題として社会人は夜9時以降に練習しないと上達はおぼつかないので、電子と併用すればよい。

集合住宅などでピアノ可の物件でも、夜9時までとしているところが一般的。一戸建てでも野中の一軒家でなく、防音室などない場合は、だいたい9時までがマナーだろう。

マフラーペダルは、一戸建てはともかく、集合住宅では階下などに振動が伝わるので、夜には使えない。


サイレント機能はあまりお勧めできない。どのみち出てくる音は電子だし、タッチも電子よりましとはいえ、タッチの音への反映は生ピアノとは違うので、6万円以下の安い電子を別に買って使い分けた方がよい。サイレント取付料より安いし、壊れたら買いなおすだけでよく、設置・取外料などはかからない。

ただこの場合、スペース、特に横幅を取るのが難点ではある。キーボード型なら立てかけて片付けるという手もあるが。


生ピアノでは曲の表現の練習をする。

電子では主に始めたての曲の譜読み、確実な指の動きができるまでの練習をする、といった感じで使い分ける。

もちろん生が使える時間が多ければ、どちらも生でやった方がよい。


「アップライトは電子と同様、まがいもの、本当のピアノはグランドだけ」という人がいるけど、「ああ、気の毒な耳の方なのだなあ」としか思わない。電子音と生音の違いもわからないとは・・・

「アップライトではトリルも満足に弾けない」とか言う人もいる。それはあなたが下手だからで、アップライトでトリルが満足に弾けない人が、グランドなら弾けるわけがない。

大人だまし

ハ長調で弾ける」「人差し指で弾ける」みたいな、素人向けに簡単にした本はお勧めできない。

年齢的にどうしても無理(70代以上など)という人でもなければ、正統的なピアノの上達コースを踏むチャンスは、まだまだある。60代以上でも可能かもしれない。


これらを私は、子供だましならぬ「大人だまし」と呼んでいる。

要するに指導者自身が大人の能力をなめている。大人にピアノが上達できるわけがないと見下しているのである。

彼らは自分と同じように、幼少からの厳しい努力を積まなければピアノは満足に弾けないと決めてかかっている。そうでないと自分の努力は無駄だということになるから、認めたくないのだ。

(ハノン、ツェルニー至上主義者にもこういった傾向がある。もしハノンやツェルニーが効果的な練習でないのなら、自分の今までの苦しい努力は何だったのか → そんなの認められない → 生徒にも自分が受けたのと同じレッスンを という思考回路である)


「大人のための」みたいのが増えてきたのは、1990年代以降の少子化による。それまではそもそも大人からではピアノは弾けるはずがないという風潮だったと思う。

もちろん大人には弾けないと決めてかかる昔よりは、よほどよいのだが。

大人から始めてどこまで上達できるか

3歳から習わなくてもピアノは弾ける。それもかなりのところまで。

アクロバット的超絶技巧とまでは行かなくても、ショパンのエチュードのうち難曲でない曲、ベートーヴェンなら「ワルトシュタイン」より前のソナタ(悲愴、月光、テンペストなどを含む)あたりまでなら、努力すれば手が届く可能性がある。努力と適性次第ではそれよりもっと伸びるかも。


しかし、できれば30代までに始めた方がよい。30代半ば以降は頭や指の衰えが出てくる。しかも練習の成果が出るころにはさらに歳をとっているから、やはり歳を取るほど不利には違いない。

20代までに始められれば、幼少スタートに比べそれほどのハンディはない。10代ならなおよい。


下のエントリーでも書いたが、女性などで片手オクターブ届かないという人は、やはり上達はかなり困難と言わざるをえない。

しかしこれはほぼ生まれつきと栄養状態で決まるもので、小さい時から練習していても届かない人は届かない。

小さい時から練習していることにより、指が成長する、指を広げる筋肉が発達する、ということもあるかもしれない。


しかしピアノを小さい時から練習している人と、そうでない人の間に指の成長に違いがあるかどうかについては、あまりよくわかっていないよう。そのことについて実証的で根拠ある研究がなされたという話も、今のところ聞いたことがない。

「酢を飲めば体が柔らかくなる」と同レベルの民間療法のようなものではないかという気もする。

「広げることはできないけど、もう片方の手で引っ張れば届く」という大きさの人なら、筋肉を鍛えることで伸ばすことができるかもしれない。ただし腱鞘炎には注意。親指付け根に来ることが多いので、このあたりに妙な疲れを感じる時はほどほどにしておいた方がよい。

大人の限界

即興演奏のセンス、動体視力の速さによる、素早い跳躍や広大な動き(ショパンエチュード10-1, 25-11みたいな)などは、やはり小さい時からの訓練がものをいう分野と思われる。

記憶力の減退も出てくる。覚えにくくなった分は、それだけ余計に繰り返し練習するしかない。

ミスしたときの誤魔化し方、軌道修正の速さなども。

大人は苦労するが、もう手遅れとまではいえない。

まあクラシックピアノを小さい時からやっていても、即興が苦手の方も多いようだけど。


発表会などで場数を踏んだ経験の強さというのも大きい。

大人がピアノを弾けて何になるのか

何にもなりません。ピアノで飯は食えない。ただの道楽。


しかし、では子供にピアノを習わせて何になるのか。就職の役にも立たないのに。まして莫大な費用をかけて音大に進ませて何になるのか。

ピアニストになる条件は「天才であること」と書いている人がいて、全く同感である。

http://music.geocities.jp/petroler/mrn54.html

音大などを卒業してみても、一般の就職もままならない。郷里に戻るにしろ、さらに大学院や留学の道を選ぶにしろ、いずれにしても最終的にいわゆるピアニストになれる見込みは99%以上ない。これだけははっきりしている。なぜなら、本物のコンサートピアニストになることのできる、まず第一の資格は「天才であること」であり、天才ならば小中学生の頃からすでに騒がれて、早くから頭角を現しているはずだからだ。だから一般的な音大生活を過ごして、なおかつ辛うじてピアニストになれたという人は、まったくのゼロではないかもしれないが、これもまた例外中の例外であって、それはもしかしたら天才に生まれつくことに匹敵するほど、確立[ 原文ママ ]としては低い事ではないだろうか。


音大に行かなければならない程度の才能の人は、そもそもピアニストにはなれず、非常に実力があるかコネのある人で音大の教員、かなり実力があるかコネのある人で学校の音楽教師、多くはピアノ教師で正社員程度の収入も見込めない。

(教員の世界は、かなりコネの力がモノをいう世界のようです。とりわけ客観的評価の難しい芸術系や、地方の教職は)

気の毒な方は家事手伝いという名のニート、というご時世である。「お嬢様だから良いところに嫁に」というのも、昨今期待できない。まして男子は。


ピアノにはオーケストラに入団するという道がない。つまり社会はピアニストを大勢必要としていない。極論すれば一流の現役演奏家は世界中で100人くらいいれば充分に足りる。かなりピアノ音楽に詳しい人でも、世界で100人の現役の名手を挙げられる人がどのくらいいるだろうか(現役である。過去の名演奏家は含まない)。

なら日本では10人くらいいれば充分ではないか。

となると世代交代を考えても数年に一人現れればよいのだから、同年齢で一番上手い人以外は必要ないということになる。


東京芸術大学に入るのは、東大に入るより難しい(桐朋などはよく知りません)。東大なら同年齢で上位3000番までに入っていれば入学できる(他の国立医学部に行く人、関西地元だから京大に行く人、留学する人なんかもいるから、もっと低くても可能か?)。

まして同年齢で一番になるのは、どれだけ大変なことだろうか。

そんなに努力するのなら東大に入ったほうが良いのではないか。東大ほどでない大学でも、就職は音大よりずっとましである。


子供にピアノを習わせるのもやはり「道楽」でしかない。

しかし大変良い道楽であることは確か。名曲を自分の手で弾くことができるという喜びは、何者にも代えがたい。


上記と並んで、「ピアノは孤独」

http://music.geocities.jp/petroler/mrn25.html

も考えさせられる。ピアノという楽器が他の楽器と比べていかに特殊かよくわかる。

本当に子供をピアノ漬けにすることはよいことなのか。

学業の合間に楽しく習わせ、就職につながる進学先を選ばせ、就職してからも趣味で続ければればよいのではないか。


プロになるというのは、やりたくないこともやらなければならない、ということでもある。好きでもない曲を聴衆の人気取りのために嫌々弾く、下手くそなレスナー(私を含め)の音を朝から晩まで聴いて指導する、など。


☆ピアノ関係の記事一覧

中途でほったらかしている記事もあるが・・・

ベートーヴェンの中級者向けピアノソナタについて

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20130203

ソナタ形式のアナリーゼ(楽曲分析)

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121022

大人レスナーへのピアノ入門法私案 その2 薬指の動かし方など

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121015

大人がピアノを練習するということ

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121003

大人レスナーへのピアノ入門法私案 その1

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121002

バッハ「インヴェンションとシンフォニア」の練習の進め方について

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20120929

おじきおじき 2015/03/20 13:44 >義務教育の音楽をちゃんと聞いていれば、基本的な楽譜の読み方はわかる。
楽譜の読み方なんて教わらないし、普通覚えてないゾ

管理人管理人 2015/04/08 00:58 「ちゃんと聞いていれば」です。実はちゃんと聞いていると、三和声とか、ずいぶん高度なことも知っているはずらしいのです。
ちゃんと聞いて覚えているはずがありませんが・・・

L&BL&B 2016/05/07 12:01 感慨深いです。こちらの記事に出会えて良かったと思います。感謝致します(o^^o)

牛乳牛乳 2016/08/06 16:58 >>義務教育の音楽をちゃんと聞いていれば、基本的な楽譜の読み方はわかる。
>楽譜の読み方なんて教わらないし、普通覚えてないゾ
(自分も学校で教わって)ないです。

るるるる 2017/04/26 16:42 >義務教育の音楽をちゃんと聞いていれば、基本的な楽譜の読み方はわかる。
全くおっしゃる通りだと思います。私は小学校の音楽の授業で、楽譜の読み方をかなり詳しいところまで教わりました。
ただしほぼ暗記になるので(ドはこの位置とか)、覚える気のない人も多かったですね。
特に、ピアノに興味のない男子生徒は、全く楽譜が読めない子が多かったと思います。
女子生徒は、ピアノを習っている人がもともと多いのと、読めないと恥ずかしいというような風潮があり、ドレミファソラシドと簡単な休符・記号くらいは読める子が多かったです。
私が通っていた小学校では、テストで音符・休符・記号などの種類を答える問題も出ました(普通の公立校です)。
また、文部科学省が定めた小学校の音楽の学習指導要領では、「音符,休符,記号や音楽にかかわる用語を理解すること」とありますので、教わっていない生徒はいないはずです。
「教わっていない」とおっしゃる方は、記憶違いか、興味が無くて覚えていなかっただけだと思います。

管理人管理人 2017/07/13 22:29 るるさんどうもありがとうございます。
自分の記憶だと、小学校高学年の音楽の教科書に主和音、属和音、下属和音(I,V,IV)が出てきて、足踏みオルガンで弾かされました。80年代のことです。
当時の自分にはさっぱり意味がわかりませんでしたし、教師もそれほど熱心に教える気はなかったですね。
楽器を習ってる人はちゃんと出来てました。

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