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不定期雑記

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2012-10-15(Mon) 大人レスナーへのピアノ入門法私案 その2 薬指の動かし方など

長くなってきたので

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121002

の続き。

薬指(4)が動かない

一冊の本が書けそうなくらいの大問題である。

解剖学的に、薬指の筋肉は小指とくっついているのだそうで、これはどうしようもないことのよう。

ショパンも薬指が思うように動かないとボヤいていたくらい。

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むしろショパンなどはたどたどしい薬指の動きを繊細な表現に活かそうとしていたフシもある。

(「別れの曲」の前半部と中間部前半は薬指と小指の練習、強い親指の制御の練習曲でもある。右手薬指と小指を拷問器具にかけているようなパッセージが相次ぐ。芸術性ばかりが強調されるエチュードだけど、大人レスナーはむしろ練習曲としての側面を意識した方がよい。2小節などもゆっくりだが地味に難しいところである。)


小学校低学年の頃、親戚に、

「手をテーブルにくっつけて薬指だけピンと上げてみて。出来ないだろう。小さい頃からこれが出来ないとピアノは弾けないよ」

とか言われ、「ああ、自分にはもう遅いんだ」と結構長いこと真に受けていた記憶があるけど、全くの俗論で、出来ないのが普通である。子供の頃から練習していれば出来るとか、ある年齢を過ぎればもう決して出来ないとかいうことはない。


薬指の腱を手術で切り離したという例も過去にはあるようだけど、そのような人の中で有名なピアニストになった人は確認されていないので、指を壊したか、運良く壊さなかったものの上達には役に立たなかったということだろう。

弱い薬指を強化するという器具などもずいぶんあったとか。シューマンがそういうのの一つを使って指を壊したと言われている。

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に、拷問器具や大リーグボール養成ギプスのような指矯正器具の数々が出てくる。

重りを持ち上げるとかバネ式のトレーニングなども効果は疑わしいし、指を痛める可能性がある。

どうすればよいか

基本的には、「薬指が弱いのはどうしようもない」と認めた上で対策を考えるべき。

○4を使う時は手首で動きの鈍さを補う。

○運指の検討。トリルなどで手首を使えない場合は4を避け53を使う。

○対策の取りようがない動きもあるので、そのためにある程度薬指を鍛える。鍛えるのは最小限でよい。

○鍛えるにしても曲や練習曲、指運動などで鍛えるべきで、道具を使うのは邪道である。効果がないばかりか指を壊しかねないのでやめた方がよい。

どのくらい動けば演奏上問題ないか

おおむね以下くらいに薬指が動けば、演奏に支障はないと思う。別にピンと上がらなくても問題ない。

手首の力や運指だけではどうにもならないことは、だいたい以下の2点である。


1.音階などで345の部分がモタッとした感じでつながらないようにし、一つ一つの音をはっきり分離して弾けるようにする。

初級者は例えば、モーツァルトのK.545ソナチネのソナタ1楽章5小節からの音階地獄とかで、そんな風になりがち。この曲は展開部・再現部で左手にも音階があるので、なかなか厄介。

下の項目の、ピシュナの練習が有効。

このような箇所も、ある程度手首を回すように意識しながら弾くと弾きやすい。9小節のド#を4で弾くところなどで特につまづきやすいが、手首で薬指を持って行って黒鍵にあてがう感じで弾くとよい。


2.3度の和音を35で弾く時、4で間の音を弾いてしまわない程度に上げる。

これは練習というより慣れの問題と思う。以下のように指使いや手首の形に気を付ける。

またこのような音形を含む曲を多く練習することで、だんだん上がるようになる。

○薬指が鍵盤と平行になるくらい上がれば充分。

○小指を曲げると釣られて薬指も曲がってしまう人がほとんどだと思うので、小指はまっすぐ伸ばして弾く。中指は逆に曲げた方が、薬指が上に浮いて上げやすい。個人差もあるが、中指と小指が同じ長さになるくらいに曲げる感じだろうか。

○手首はなるべく低い位置にした方が上げやすい。手首を鍵盤と同じくらいの高さにする。

○手首を低くするためには肘を低くし、肘を低くするためには椅子を低くするのが効果的。椅子は慣れないうちは高いよりは、やや低めの方がよい。高さ可変椅子が重要なのはこのような時のため。

ある程度上達するとそれほど椅子の高さは気にならなくなるが、初級者のうちはかなり気になる。

指のために体の高さを調節してやる。ショパン曰く「腕や体は指の奴隷になるべき」

○鍵盤に4が当たってしまっても、音が鳴らなければ問題ない。当たらないくらい上がればなお良いのだが。

○4のあたりに黒鍵が来る音形だと厄介。運指を変えるか、どうしても他に方法がなければ、当たっても鳴らないようにすればよい。

薬指を上げることと、下げることは問題が逆

これらの2点、つまり345の指が独立して打鍵できる(薬指がちゃんと下がる)ことと、3度などで薬指を上に上げることは、問題が逆であることに注意。

多くの人が薬指を上に上げることを目的にしてしまっているようだが、独立してきれいに打鍵するには、むしろうまく下げる方が重要。

前者の動きが出来ても薬指が上に上がりにくい人もいるし、上がっても独立した打鍵がきれいにできないという人もいる。


大事なことなので二回書きます。薬指を上げるより下げることが大事です。

動かすためのトレーニング

動かない初級者の頃だけやればよい。リトルピシュナ、ピシュナ

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などを使ってトレーニングするのがよい。ハノンは役に立たない。

特にピシュナが有効。ピシュナ1の

右手1でミを押さえながら34でソラソラソラソラ

1を離し、3でソを押さえながら54でbシラbシラbシラbシラ

以降半音上がって同じパターンをオクターブ続ける

というのが結構効く。特に「3でソを押さえながら54でbシラbシラ」。

指がつりそうになるかもしれないが、なるべく手首の力で補って弾く。薬指で溝を掘るような感じ。指を痛めるのであまりやり過ぎない。

4で黒鍵を弾くパターンが最も難しいので、手首を最大限に使いながら無理な力を入れずに弾く。

この練習は345の独立にかなり有効。一方、薬指を高く上げるにはそれほど役に立たないようにも思われる。


ピシュナでは右手のみこのパターンの練習があり、左手にはないが、個人的に左手も同様のパターンを考え、

右手は3でソを押さえながら54でbシラbシラbシラbシラ

左手も同時に3でオクターブ下のソを押さえながら54でミファミファミファミファ

以降両手とも半音上がり同じパターンをオクターブ続ける

という形にして練習していた。極論すれば、ピシュナはこの曲以外練習しなくてもいいような気もする。


一旦ある程度動くようになれば、あとはバッハの3声などを日常的に弾いていれば、ほっといても指は鍛えられるので、特にこのようなトレーニングをする必要はなくなる。


http://nanapi.jp/6158/

「ピアノ 薬指」でググると最初に出てくるけど、こういう訓練はあんまり意味がない。

指を丸く曲げていたら上がらない。私もほとんど上がらない。それから手首の位置が高すぎ。

「上げることばかり考え、下げることを考えていない」「指の形や手首の高さを考えていない」という典型的な訓練のような気がする。こんな訓練、百年やっても全くの無駄です。

くどいが「下げる方が大事」「手の形を最大限考える」である。


http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=9yll7EaSLtg

こちらはピシュナ1の練習に似ている。下げることに重点を置いているので、それなりに効果はあるかも。

http://sakupiano.exblog.jp/2919030

他にもこんなトレーニングを提案している人もいる。

運指の検討

3度については、13-24-35みたいな定石をきちんと弾けるのも大事だけど、それだけでは速い動きには対応できないので、23-15のような形も検討すべき。


インヴェンションのところでも書いたけど、親指を押さえたままのトリルは、手首の助けを借りられないので、5353が弾きやすい。54, 43など、弱い4を使ったトリルは避けた方がよい。

ベートーヴェンの悲愴1楽章174小節、モーツァルトのキラキラ星変奏曲の原典版で第2変奏11,15小節なども同様(古い版だとトリルがない)。

ショパン小犬のワルツ冒頭は、1243としている運指が多いが、やはり手首を使うことを意識して弾くか、弾きにくければ1253でもよい。

小指(5)が弱い

薬指に比べれば小さい問題という気がする。鍛えれば意外に良く動く指だし、見かけによらず結構強い指である。

やはりリトルピシュナ、ピシュナなどが有用。小指に関してはどちらかというとリトルの方が有用だけど、大人が小指を鍛えるのは、力が弱い初歩の段階だけでいいと思う。


小指もやはりバッハやベートーヴェンのある程度複雑な曲を弾くようになれば、うんざりするほど鍛えられるので、あえて練習曲で鍛える必要はだんだんなくなる。


筋力の弱い女性の場合は・・・なんとも言えないが、やはりある程度の難度の曲を日常的に弾いていれば、指は鍛えられると思う。


小指は弱そうに見えるが、腱鞘炎になることは滅多にないようで、あまり心配しなくてもよい。非常に無理な力を日常的に加えると傷めることもあるようだけど、趣味でやっている程度なら問題なさそう。ただオクターブに小指でしか届かない人は、いたわりながら練習した方がよいかも。

危ないのは強そうに見える親指である。

親指(1)

強すぎることが問題。内声を弾くことが多いので、弱く弾くべきところに強い力が入ってガサツな演奏になってしまったりする。

バッハの3声以上の曲などでは親指を弱くコントロールして弾く技術を付けるのが重要。

悲愴2楽章、別れの曲などのように、右手で伴奏を弾く曲もこの技術が重要。


見かけによらず腱鞘炎になりやすい指。特に手の小さい人はオクターブ奏法などで傷めることが多いよう。

腱鞘炎で最も多いのは親指の付け根部分とのこと。手を大きく広げた時、親指の付け根に筋が二本浮き上がるが、この筋を通している輪のような部分が腱鞘で、ここが炎症を起こすらしい。


人差し指、中指については特に問題になることはないと思う。


人間の手は親指など内側の指ほど強く、小指など外側の指ほど弱い。

ピアノは低音、高音など外側ほど強い力が必要になるので、元来の指の力と必要な力が逆になっている。ここがそもそもこの問題の原点である。

指の順番が逆ならよいのにと思う。手を交差させると外側ほど強く、内声は弱くなってちょうどよいのだが、残念ながら人間の指はそうはなっていない。

指強化とハノン

全訳ハノンピアノ教本  全音ピアノライブラリー

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個々の指強化の練習にハノンはあまり役に立たない。ハノンには個々の指の特性を考え、それぞれに合った鍛え方をするという考え方が全くないのが問題なのである。

漫然と全ての指を鍛えるという練習には意味がない。それでは小指や薬指など弱い指も少しは鍛えられるかもしれないが、鍛える必要のない親指などはますます強くなってしまう。バランスが大事なのである。


それにしてもハノンというのは本当に、愚鈍で内容が薄く、著者が頭を使っていない、無能さ丸出しで、おおよそ一流の教師とは思えない、手抜きとしか言いようのない、どうしようもない教本である。日本で何故こんなにもてはやされているのか理解できない。

それでも非常に普及しているので、馬鹿とハサミは使いようで、使い方によっては部分的に役に立つこともあるが、適切な指導を受けなければ独学レスナーなどにとってはむしろ有害である。


本当にこの本は、「人間の知性と尊厳に対する許し難い冒涜[シ賣]」と言いたくなるくらい愚鈍な本である。まともな大人や、賢い子供なら、この本を読んでいると馬鹿にされているように感じるのではないか。


☆ピアノ関係の記事一覧

中途でほったらかしている記事もあるが・・・

ベートーヴェンの中級者向けピアノソナタについて

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20130203

ソナタ形式のアナリーゼ(楽曲分析)

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121022

大人レスナーへのピアノ入門法私案 その2 薬指の動かし方など

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121015

大人がピアノを練習するということ

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121003

大人レスナーへのピアノ入門法私案 その1

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20121002

バッハ「インヴェンションとシンフォニア」の練習の進め方について

http://d.hatena.ne.jp/nenemuu/20120929

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