黒いオルフェ

リオのカーニバルで、オルフェとユーリディスが恋に落ちる。
ユーリディス(ドーン)は、田舎からリオに住む従姉妹・セラフィナ(ガルシア)のもとへ身を寄せる。怖い男に追いかけられているのだという。セラフィナの隣に住むギターの名手・オルフェ(メロ)はミラ(オリベイラ)と婚約したばかりだったが、ユーリディスを見て引き寄せられる。ギリシア神話のオルフェに自分をなぞらえ、ぼくたちは運命の恋に落ちるよとユーリディスに語る。
セラフィナはオルフェとユーリディスの気持ちを察し、自分の顔をヴェールで覆うカーニバルの衣装をユーリディスに着せ、二人がいっしょに踊れるようにする。しかし、カーニバルの夜、ユーリディスを追いかけていた男が死神の扮装で現れる。
冒頭、哀調を帯びたギターの音、続いてサンバのリズムが響き、ブラジル音楽が物語の世界に観る者を引きずり込んでしまう。物語の下敷きになっているのは、竪琴の名手・オルフェが死んだ妻に会うために冥府に降りていくというギリシア神話。いっとき日常の雑事を忘れ、神話や伝説にちなんだ扮装や趣向で人々が踊り狂うカーニバルの夜を舞台に、神話と現実が交錯し、運命的な恋が描き出される。
いかにもお芝居、劇の世界、そんなおはなしなのだが、サンバのリズムに乗って自然に流れていく。カーニバルの喧噪と、電車置き場や病院や警察署などサンバの聴こえてこない場所とをうまく使い分け、こういう場でこの状況ならこんな事が起こってもおかしくないように見せてくれ、その出来事から神話的な図を自然に思い起こさせてくれる。恋の一段面を見せてくれる。そして、カーニバルが終わると正気に戻る、そんな作品だった。
ミラを演じた女優は、パム・グリアを華奢にしたようなべっぴんで踊りもうまい。役柄が最初は道化が入っているが、やがて恋人を奪われ怒り狂う女となる。ユーリディスを演じた女優は若いときの浜美枝みたいな顔だが、ずんどうでもっさりしたかんじで、かわいらしい田舎娘という役をよくやっていたということになるのか。
この映画の主役は、音楽だ。サンバやボサノバの好きな人にはたまらない(苦手な人にとっては拷問かもしれない)、音楽で始まり、音楽で盛り上がり、音楽で終わる、名作。