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2016年-07月-23日

参院選で示した沖縄の民意に対する安倍政権の答え―「ヘリパッド着工」「辺野古再提訴」と在京紙の報道の記録

 沖縄の基地の過剰負担の問題をめぐって7月22日、大きな動きが二つありました。いずれも主体日本政府安倍晋三政権です。一つは、沖縄本島北部の東村、国頭村にまたがる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の新たな建設工事に早朝、着手したことです。二つ目は、米軍普天間飛行場移設先として日米が合意している名護市辺野古の埋め立てを巡り、国の是正指示に沖縄県の翁長雄志知事が従わないのは違法として、新たな訴訟を福岡高裁那覇支部に起こしました。特に北部訓練場の現場では、抗議の市民と、排除する機動隊が激しくもみ合った様子をマスメディアが伝えています。翁長知事はヘリパッド建設の着工に対し「県民に大きな衝撃と不安を与えるものであり、誠に残念だ」「強行に工事する政府の姿勢は到底容認できない」と抗議し、国の提訴にも「国の強固な態度は異常だ。強行に新基地建設を進めることは、民主主義国家のあるべき姿からはほど遠い」と批判しました。

 以下に、沖縄の地元紙の報道の一部を書きとめておきます。

琉球新報「国が高江工事を強行 機動隊が市民排除 10時間超 県道封鎖」=2016年7月23日

 http://ryukyushimpo.jp/movie/entry-321711.html

 【東・国頭】東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設工事で、沖縄防衛局は22日午前、新たなヘリパッドの建設工事に着手した。予定されている工事現場周辺では資機材が搬入され、一部では重機により進入路などの整備が始まった。多くの市民らが抗議する中、約500人とみられる全国から動員した機動隊員を投入し、工事を強行した。政府の姿勢に県民の反発が強まりそうだ。

 資機材の搬入に伴い、東村高江と国頭村安波の2カ所で県道70号が22日午前6時4分から午後4時47分まで封鎖され、報道陣も含め、10時間以上出入りができなくなった。付近の住民生活にも大きな影響を与えた。

 抗議行動中、機動隊員らともみ合った市民の救急搬送が相次いだ。

※琉球新報「国が再び沖縄県提訴 辺野古、違法確認求める」=2016年7月23日

 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-321712.html

 政府は22日、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、埋め立て承認取り消しに対する国の是正指示に翁長雄志知事が応じないのは違法だとして、福岡高裁那覇支部に不作為の違法確認訴訟を起こした。第1回口頭弁論は8月5日に開かれる。国が地方自治体に不作為の違法確認訴訟を提起するのは、2012年の地方自治法改正で制度が設けられて以来初めて。

 新基地建設に関する県と国の対立は代執行訴訟での和解成立から4カ月余りで再び法廷闘争に突入する。協議による解決を求めていた県と国の対立が深まるのは必至だ。

 一方、菅義偉官房長官は会見で「(訴訟と話し合いを並行して進める)和解条項に基づいて手続きが進んでいる証しだ」と、和解条項の範囲内であることを重ねて強調した。

※琉球新報「知事『国の強硬姿勢は異常』 高江着工、提訴を強く批判」=2016年7月22日

 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-321244.html

東京】翁長雄志知事は22日午後、沖縄防衛局が同日早朝に米軍北部訓練場のヘリパッド建設工事を再開したことについて、「県民に大きな衝撃と不安を与えるものであり、誠に残念だ」と述べた。その上で「県民は長年にわたり過重な基地負担に耐えながら日米安保体制に尽くしてきているにもかかわらず、強行に工事に着手する政府の姿勢は到底容認できるものではない」と強く批判した。同日開かれた沖縄振興審議会後、記者団に答えた。

※琉球新報「辺野古提訴、高江着工、同日に 政府『やると言ったらやる』 参院選後、民意無視で『最短日程』強行」=2016年7月22日

 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-321155.html

 21日の政府・沖縄県協議会で、名護市辺野古の埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事を22日に提訴すると伝えた政府。代執行訴訟に続き再び法廷闘争に入る。翁長知事は協議会で、国地方係争処理委員会判断を尊重し、訴訟よりもまず、問題の根本解決を目指した協議を求めたが、菅義偉官房長官は県への提訴で返した。地方自治法で国が提訴できるのは22日からで、国側は一歩も譲らない姿勢で“最短日程”の提訴に踏み切る。併せて22日は東村高江周辺のヘリパッド建設工事にも着手し、さらに近く辺野古陸上部の工事も再開予定で、強硬ぶりをあらわにしている。

沖縄タイムス「<米軍ヘリパッド>『悲しいです。もう限界だ』立ち尽くす市民」=2016年7月23日

 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=179714

 沖縄県東村高江周辺のヘリパッド建設の再開に着手した政府は22日、反対の市民を圧倒する約500人の機動隊員らを投入し、専門家から「法の乱用」と指摘される県道封鎖まで実行した。なりふりかまわずに市民を退けた場面は、戦前の「戒厳令」をほうふつさせた。

 「落ちる!」「危ない!」。N1表ゲート前の車上でもみ合う屈強な機動隊員らの帽子は落ち、抵抗する市民の足はがくがく震えていた。「排除!」。炎天下に号令が響いた22日午前8時55分。機動隊員らが一斉にN1表ゲート前の街宣車2台によじ登り、車上に座り込む市民を引きずり降ろしにかかった。

 車上の激しいもみ合い。小さな街宣車の不安定な足場に機動隊員らが次々押し寄せ、あわや「死者が出かねない」(車上にいた市民)事態に。街宣車周辺には市民の怒号や悲鳴、おえつがごちゃまぜになって響いた。引きずり降ろされたり、余りの激しい「排除」にショックを受けて気を失い、救急搬送されたりする女性も。9時10分、警察側から「ストップ!」の号令がかかり、市民も車上から降りた。

※沖縄タイムス:社説「[辺野古提訴・高江強行]蛮行に強く抗議する 県は対抗手段練り直せ」=2016年7月23日

 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=179706

※琉球新報:社説「ヘリパッド工事再開 許されぬ建設強行 政府は計画見直し話し合え」=2016年7月23日

 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-321704.html


 7月10日投開票の参院選で沖縄選挙区では、現職閣僚だった島尻安伊子氏が、無所属で元宜野湾市長伊波洋一氏に10万票以上もの差で大敗しました。衆参両院で、沖縄の選挙区には自民党議員がゼロになりました。特に参院選では、米軍属の元海兵隊員の男が20歳の女性を暴行目的で殺害したなどとして起訴された事件が直前にあり、基地の過剰負担の問題はまぎれもなく主要争点でした。基地問題に対する民意はこれ以上はないというくらいに明白と言ってよいと思います。しかし、その民意が示されたことに対する安倍政権の答えは、ヘリパッド工事の着工と新たな提訴でした。北部訓練場周辺には、警視庁北海道警大阪府警福岡県警など、本土から機動隊員が数百人規模で投入されているとも報じられています。政府の主張は、外交安全保障中央政府の専権事項ということなのかもしれませんが、それにしてもこれほどまでの民意の無視、地域の自己決定権の否定、抗議に対する直接の抑圧が、沖縄以外で起こり得るだろうか、ということをあらためて考えさせられます。ほかの地域では起こりえないのであれば、それは「差別」と呼ぶほかありません。

 沖縄に対してこうした政策を取る現政権は、民主主義の手続きに基づいて成り立っています。ですから現政権の施策は、現政権を支持する、支持しないにかかわらず、また個々人の政治的意見の差異にかかわらず、日本国の主権者たる国民の総意と言うべきです。ここに、沖縄で何が起きているかが広く知られなければならない意味があると思います。とりわけ沖縄県外、日本本土のマスメディアが、本土に住む日本国の主権者に向けて何を伝えるかは大きな意味を持ちます。

 そうした問題意識の下で、東京発行の新聞各紙が22日から23日にかけて、この沖縄をめぐる動きをどのように伝えたのか、各紙の記事の扱いや見出しを記録しておきます。いずれも東京本社発行の最終版です。


【22日付夕刊】

f:id:news-worker:20160723194143j:image

朝日新聞

・本記1面準トップ「米軍ヘリ着陸帯 移設再開」「沖縄・北部訓練場一部返還の条件」地図

・社会面「反対派排除に怒号」「米軍ヘリ着陸帯工事再開」写真

 ※1面トップは「ポケモンGO 国内でも開始」

毎日新聞

・本記1面準トップ「政府、沖縄県を提訴」「辺野古巡り再び法廷闘争」/「ヘリパッドの移設工事再開」

・社会面トップ「『民意 踏みにじるな』」「工事再開 飛び交う怒号」写真

 ※1面トップは「トランプ氏『米国第一主義』」

読売新聞

・本記1面中「辺野古 国が県提訴」「移設工事 再開目指す」経過表/「ヘリ着陸帯 工事再開」

 ※1面トップは「トランプ氏『米国第一』」

日経新聞

・本記3面「辺野古 政府が再び県提訴」「北部訓練場 ヘリ離着陸帯着工」

・社会面「沖縄 市民が怒りの声」「政府、県を提訴 基地前で座り込み」写真

 ※1面トップは「トランプ氏『米国第一』」

東京新聞

・本記1面トップ「辺野古 沖縄県を再提訴」「政府、参院選終え強硬姿勢」/「北部ヘリパッド着工」写真・地図/解説「翁長知事『民主主義国家から程遠い』」

・2面「政府と沖縄 溝埋まらず」Q&A/翁長知事の発言要旨

・社会面準トップ「『沖縄の声踏みにじるのか』」「再提訴・工事着手に憤り」


【23日付朝刊】

▼朝日新聞

・本記3面(総合面)「反対派排除し工事再開」「国、沖縄のヘリパッド移設急ぐ」写真・地図/「辺野古移設では県を提訴」

 ※1面トップは「ポケモンGO 興奮上陸」

▼毎日新聞

・本記2面(総合面)「沖縄県、反発強める」「政府、ヘリパッド工事再開」「辺野古提訴も刺激」地図・経過表

・第2社会面「『基地押し付けるな』」「工事再開反対派 機動隊ともみ合い 沖縄ヘリパッド」写真

 ※1面トップは「『隠れ待機児童』5万人」

▼読売新聞

・本記1面中「辺野古 国、移設再開へ県提訴」

・2面(総合面)「移設へ 訴訟と対話」「国 和解シナリオ見直し」「知事 徹底抗戦の構え」/「ヘリ着陸帯 工事再開 米軍北部訓練場」写真・経過表・地図

・社説「辺野古再提訴 移設の停滞は看過できない

 ※1面トップは「経済対策 赤字国債見送り」

▼日経新聞

・本記4面(政治面)「辺野古移設 対立再び」「政府が県提訴『工事続行は当然』」

・社説「沖縄との対話もっと丁寧に」

 ※1面トップは「トランプ氏、反TPP明言」

産経新聞

・本記2面(総合面)「県の違法性確認求める」「政府再提訴 来月5日に口頭弁論」「辺野古埋め立て」/「対米公約 北部ヘリパッド移設公開」地図

 ※1面トップは「『米国第一』共和変質」

▼東京新聞

・本記1面トップ「翁長氏『強硬政府に抗議』」「辺野古再提訴 ヘリパッド着工」地図/「400メートル先にオスプレイ」「集落囲むヘリパッド 広がる不安」

・2面「対米優先 埋め立て急ぐ」「辺野古 国が沖縄知事を再提訴」Q&A

・社会面準トップ「反対市民を強制排除」「沖縄ヘリパッド工事 騒然『森汚すな』」

・社説「沖縄の米軍基地 対話でしか打開できぬ」

 東京新聞は22日付夕刊、23日付朝刊ともに1面トップで扱いましたが、ほかに1面トップの例はありません。それでも22日付夕刊では朝日新聞、毎日新聞、読売新聞も1面に入れてはいたのですが、23日付朝刊では、朝日、毎日は1面からは落ちて総合面になりました。朝日は社会面にも記事が見当たりません。相対的に読売の記事のボリュームの大きさが目立ちます。

 22日は米大統領選共和党候補指名を受けた注目のトランプ氏の演説という大きなニュースがありました。将来的に在日米軍や日本の安全保障、ひいては沖縄の基地集中の問題にもかかわってくる可能性があります。マスメディアで大きな扱いになるのは当然でしょう。もう一つ話題になったのは、米国などで大ヒットしたスマホゲーム「ポケモンGO」の日本リリースです。確かに社会現象になっているニュースですが、朝日が22日付夕刊、23日付朝刊とも「ポケモンGO」を1面トップで扱ったのには違和感を覚えました。

 一方、全国紙でも発行本社によって、あるいは制作の時間帯によって紙面内容が異なることがあります。沖縄に近い九州・山口をエリアとする西部本社では、毎日新聞は23日付朝刊12版(締め切り時間が比較的早い版です)は沖縄が1面トップだったようです。ツイッターで知らせていただきました。

 https://twitter.com/otohara1/status/756762177411833856

 北部訓練場のヘリパッド建設着工で、機動隊が抗議の住民らを排除する様子は、動画がネット上にいくつもアップされています。ここではyoutube共同通信の動画を貼りつけておきます。

 https://www.youtube.com/watch?v=_k0kMUI6lqU&feature=youtu.be&t=9

 琉球朝日放送が22日夕方に放映したニュースが、同局のサイトにアップされています。

 「高江で強制排除始まる」=2016年7月22日

 http://www.qab.co.jp/news/2016072281990.html

 以下は現場で取材した記者の報告です。

 ここからはきょう高江で取材した島袋記者に聞きます。現場はどんな所でしたか?

 現場は県道70号、米軍北部訓練場に囲まれた深い森です。これまでも辺野古や普天間基地のゲート前で警察と抗議する人々の衝突を見てきましたが、今回はこれまでとは全くレベルが違う政府の強権的な姿勢を見た印象です。

 ざっと見た感じ、市民は200人くらいいたんですが、機動隊はその倍以上いたように見えました。1人に5人、10人でかかっていく様子、県外からの応援組が多かったこともあってか全く感情を入れず、マスコミの目も気にせず機械的に人々を排除している印象でした。

 また約8キロにわたって県道を規制し、トイレや飲み物の補給も、自由にさせないというやり方をとりました。そして、これまで何年も続いてきた抗議行動を圧倒的な数と力で押さえ込むと数時間後には、その拠点となっていたテントを撤去し新しいゲートを造ろうとしました。

 その姿からは県民に理解を求めたいという姿勢は全く感じられませんでしたし、辺野古、高江と反対する沖縄県民に対して反対しても無駄だという圧力をかけているようにさえ見えました。

 このページの一番最後に動画があるのですが、車上の反対派を排除しようと車によじ登る機動隊員が、反対派を殴りつけているように見えるシーンがあります。2分10秒ごろです。


【追記】2016年7月24日7時25分

 フリージャーナリスト志葉玲さんの7月22日のリポートです。

 「安倍政権の『沖縄潰し』本土マスコミが伝えない機動隊の暴力―高江ヘリパッド建設問題」=2016年7月23日

  http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20160723-00060291/

2016年-07月-20日

「改憲」「3分の2」「4野党連携」では戸惑いも目立つ―NHK世論調査

 NHKが7月16〜18日に実施した世論調査の結果を報じました。

 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160719/k10010601021000.html

 主な項目を書きとめておきます。

内閣支持率

 支持48%(2週間前の前回比2ポイント増) 不支持36%(変わらず)

参議院選挙の結果に満足しているか

 「大いに満足している」8%、「ある程度満足している」43%、「あまり満足していない」28%、「まったく満足していない」16%

自民公明与党憲法改正に前向きな勢力が合わせて、憲法改正の発議に必要な参議院全体の3分の2の議席を占めたことについて

 「よかった」27%、「よくなかった」29%、「どちらともいえない」37%

▽民進・共産社民・生活の野党4党の連携を今後も続けたほうがよいと思うか

 「今後も続けたほうがよい」26%、「今後は続けないほうがよい」24%、「どちらともいえない」43%

憲法改正する必要があると思うか

 「改正する必要がある」28%、「改正する必要はない」32%、「どちらともいえない」30%

安倍政権経済政策アベノミクス」に期待しているか

 「大いに期待している」が9%、「ある程度期待している」37%、「あまり期待していない」34%、「まったく期待していない」14%


 「参院選の結果」「改憲勢力3分の2」「野党4党提携」「憲法改正」「アベノミクス」のいずれも、ほぼ賛否が拮抗となっている点を興味深く感じます。このうち「改憲勢力3分の2」「野党4党提携」「憲法改正」は相互に関連性もある項目ですが、「どちらともいえない」が3割から4割を占めている点にも留意が必要だと思います。世論は決して二分されているのではなく、戸惑いも小さくないように思えます。


※参考過去記事

 読売新聞共同通信:「『改憲勢力2/3超』に世論の評価二分、戸惑いも」2016年7月14日 

  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20160714/1468426393

 朝日新聞:「朝日新聞調査、自公の大勝『野党に魅力ないから』71%」2016年7月15日

  http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20160715/1468539725

2016年-07月-17日

「生前退位」在京紙初報の記録―天皇制報道は憲法を報じることに通じる

 NHKが7月13日午後7時の定時ニュースに合わせて、「天皇陛下 『生前退位』の意向示される」の独自ダネを流しました。新聞各紙も全国紙地方紙を問わず翌14日付朝刊で「生前退位の意向」を大きく報道。その後、政府皇室典範改正を検討していることも報じられ、戦後の象徴天皇制のありようを考える上で、これまでになかった大きな論点が浮上しました。象徴天皇制と皇室報道の観点からは、このマスメディアの報道自体も大きな出来事として記録に残ることになるのではないかと感じます。

 戦後の象徴天皇制は、日本の敗戦を機に日本国憲法で規定されました。時間にすれば敗戦から70年以上がたちましたが、制度としてはまだ2例目です。時代のありよう、社会のありように応じて、さまざまな論点が浮上するのは当然のことかもしれません。天皇制や皇室がマスメディアにとって重要な取材対象であるのは、その報道は憲法を報じることに通じるからとわたしは考えています。「生前退位」の問題がどのように推移していくのかと同時に、この問題に対するマスメディアの報道も注視していきたいと思います。

 ここでは備忘を兼ねて、NHKと東京発行各紙のそれぞれの初報のもようと、若干の考察・感想を書きとめておきます。

 NHKは自局のサイトに「生前退位のご意向」のページを作っており、7月13日19時アップの第一報と見られるニュースの内容がテキストで収録されています。

 ※「生前退位のご意向」のページ

  http://www3.nhk.or.jp/news/word/0000098.html?utm_int=all_header_tag_003

 ※「天皇陛下 『生前退位』の意向示される」=2016年7月13日19:00

  http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160713/k10010594271000.html?utm_int=word_contents_list-items_027&word_result=%E7%94%9F%E5%89%8D%E9%80%80%E4%BD%8D%E3%81%AE%E3%81%94%E6%84%8F%E5%90%91

 冒頭部分を引用して書きとめておきます。

 天皇陛下が、天皇の位を生前に皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を宮内庁の関係者に示されていることが分かりました。数年内の譲位を望まれているということで、天皇陛下自身が広く内外にお気持ちを表わす方向で調整が進められています。

 天皇陛下は、82歳と高齢となった今も、憲法に規定された国事行為をはじめ数多くの公務を続けられています。そうしたなか、天皇の位を生前に皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を宮内庁の関係者に示されていることが分かりました。

 天皇陛下は、「憲法に定められた象徴としての務めを十分に果たせる者が天皇の位にあるべきだ」と考え、今後、年を重ねていくなかで、大きく公務を減らしたり代役を立てたりして天皇の位にとどまることは望まれていないということです。こうした意向は、皇后さまをはじめ皇太子さまや秋篠宮さまも受け入れられているということです。

 天皇陛下は、数年内の譲位を望まれているということで、天皇陛下自身が広く内外にお気持ちを表わす方向で調整が進められています。

これについて関係者の1人は、「天皇陛下は、象徴としての立場から直接的な表現は避けられるかもしれないが、ご自身のお気持ちがにじみ出たものになるだろう」と話しています。


 東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売日経産経、東京)はいずれも1面トップでした。

f:id:news-worker:20160717093808j:image

 ※写真は以下のリンク先にもあります

 https://twitter.com/newsworker/status/753527122828726272

 各紙の1面の主な見出しを書きとめておきます。

朝日新聞

本記「天皇陛下 生前退位の意向」「皇后さまと皇太子さまに伝える」「皇室典範の改正 課題に」「実現には慎重論も」/「宮内庁次長は否定」

解説「継承のあり方 自ら一石」北野隆一編集委員

毎日新聞

本記「天皇陛下『生前退位』意向」「数年以内に譲位」「『お気持ち』表明へ」

サイド「来年にも法整備 政府検討」

読売新聞

本記「天皇陛下 生前退位の意向」「政府、ご負担を考慮」「皇室典範改正など検討」

サイド「『担当チーム』水面下で準備」

サイド「制度上『退位』想定せず」

日経新聞

本記「天皇陛下 退位の意向」「宮内庁、近く公表へ」「皇室典範改正 必要に」「『生前』明治以降初めて」

サイド「天皇制 最大級の変革に」

産経新聞

本記「天皇陛下『生前退位』」「ご意向 数年内に」「政府 皇室典範 改正検討へ」「宮内庁『憲法上、言及されぬ』」

サイド「ご公務の削減 心苦しく」

東京新聞 ※本記は共同通信配信記事

本記「天皇陛下 生前退位の意向」「1年前から示す」「皇室典範改正に数年」

サイド「皇室典範改正手続きは法律と同じ」


 新聞各紙の記事を比較して気付くのは、毎日新聞、読売新聞が、「生前退位」を可能にするための措置として法改正、「皇室典範」の改正の検討に、既に政府が着手していることを報じていることです。NHKの初報は、天皇の意向、考えが明らかになったという点が中心で、法改正については「皇室制度を定めた『皇室典範』に天皇の退位の規定はなく、天皇陛下の意向は、皇室典範の改正なども含めた国民的な議論につながっていくものとみられます」と触れていただけでした。毎日新聞は「必要な法整備についての検討を首相官邸で始めている」と、読売新聞は「政府は、皇室典範改正などに関する『担当チーム』を作り、水面下で検討」と記しています。13日は夜7時にNHKがまず独自ダネとして「退位の意向」を報じ、事前に同じ情報を知っていたメディアも知らなかったメディアも、一斉に後を追って取材する中で、NHKが触れていなかった政府内の水面下の動きにまで迫る取材が、一夜のうちにあったわけです。

 もう一つ、留意しておきたいと思う点があります。宮内庁は13日夜のうちに山本信一郎次長が報道陣の取材に応じ、NHKの報道を否定したとも受け取れるようなコメントをしました。しかし、その紹介の仕方は新聞によっても異なります。例えば朝日新聞は、次長が「報道されたような事実は一切ない」と述べ、さらに「(天皇は)制度的なことについては憲法上のお立場からお話をこれまで差し控えてこられた」と話したことを「宮内庁次長は否定」の見出しとともに紹介しています。東京新聞(記事は共同通信の配信記事)も「そのような事実は一切ない」などのコメントを紹介しています。一方で読売新聞は「天皇陛下が『生前退位』の意向を宮内庁関係者に伝えているという事実は一切ない。そうした前提で、今後の対応を検討していることもない」と話したとしています。「宮内庁関係者に伝えているという事実は一切ない」としている点が朝日新聞などと異なったニュアンスを感じます。

 少し日がたってからですが、共同通信が以下のような記事を配信しています(ここに引用するのは、ネット上で参照できる部分です。実際の配信記事はもっと長文で、地方紙を中心に紙面に掲載されています)。

 ※47news「天皇陛下、早期退位想定せず」「公務『このペースで臨む』」=2016年7月16日

  http://this.kiji.is/126730169875546121

 天皇陛下が皇太子さまに皇位を譲る生前退位に向けた法改正を政府が検討していることを巡り、天皇陛下自身は早期退位の希望を持たれていないことが15日、政府関係者への取材で分かった。

 陛下は例年、年明けと夏に定期健康診断を受けているが、現在は目立った不安は見つかっていない。最近も宮内庁側と公務の負担軽減が話題になった際、陛下は「まだまだこのままのペースで臨む」と明言。側近らにも、退位という文言や時期を明示したことはないという。

 ※47news「陛下『齢重ね、象徴の姿を思案』」「当初、12月に説明予定」=2016年7月17日

  http://this.kiji.is/126994525885220348

 天皇陛下が今年12月の誕生日記者会見で「年齢を重ねる中で、今後どのように象徴としての立場を担っていくのがふさわしいか、思案している」という趣旨の気持ちを語られる計画を宮内庁が進めていたことが16日、政府関係者への取材で分かった。

 しかし、詳しい内容の検討が始まったばかりの今月13日、生前退位について報道が始まったため、宮内庁は前倒しで機会を設け、早期に表明する方向で検討を開始した。ただ、陛下が臨時に気持ちを表明することはあまり例がないため、現在では再び誕生日会見まで慎重に議論する案も含め、日程や内容の調整を続けている。

 天皇が直接「退位」との文言を口にしたことはないのだとすれば、内閣や政府が天皇の心情を忖度して、生前の退位を可能にする法制の検討が必要と考え着手した、それが天皇の意向に適うと考えた、ということなのかもしれません。天皇が直接、退位の希望を口にして、それがもとで法の改正が行われるなら、天皇の政治への関与が憲法上の問題として浮上することになりかねません。宮内庁次長のコメントは、象徴天皇制と憲法のかかわりの中で、「生前退位」の問題の急所がどこにあるかを示すものでもあったように思います。

 

2016年-07月-15日

朝日新聞調査、自公の大勝「野党に魅力ないから」71%

 前回の記事の続きになります。参院選の結果を受けて、朝日新聞も7月11、12日に実施した世論調査の結果を14日付朝刊(東京本社発行紙面)に掲載しました。いろいろと興味深いので、主なものを書きとめておきます。なお、内閣支持率は45%、不支持率は35%でした。朝日新聞は今回の調査から、固定電話に加えて携帯電話も調査の対象にしているとのことです。

▽参院選の改選121議席自民党公明党与党過半数を大きく上回る議席を得たのは

 「安倍首相政策評価されたから」15%

 「野党に魅力がなかったから」71%

▽今後、安倍首相が進める政策について

 「期待の方が大きい」37%

 「不安の方が大きい」48%

安倍政権のもとで憲法改正を実現することに

 「賛成」35%

 「反対」43%

▽参院選で、憲法改正について議論が深まったと思うか

 「深まった」24%

 「深まらなかった」59%

憲法のどの条文を変えるかについて、秋から国会で議論を始めるべきか

 「秋から国会で議論を始めるべきだ」55%

 「その必要はない」29%


 前回の記事で触れた共同通信の調査では、安倍晋三首相の下での憲法改正に対しては「賛成」35・8%、「反対」48・9%でした。朝日新聞の調査結果も同じ傾向を示しています。その一方で、朝日の調査結果では、改正の対象にする憲法の条文については、過半数が「秋から国会で議論を始めるべきだ」としています。やはり世論を総合的にみるなら、国会で改憲が議論されるのは良いが、安倍首相が「自身の任期中に」と意気込むほどには、熱は高まっていないと言えるように感じます。

2016年-07月-14日

「改憲勢力2/3超」に世論の評価二分、戸惑いも

 参院選の結果を受けて、7月11、12両日に実施された2件の世論調査結果が目にとまりました。衆院に続いて参院でも改憲勢力が改憲を発議できる3分の2を超える議席を占めることになった選挙結果について、共同通信の調査では「よかった」24・2%、「よくなかった」28・4%、「どちらともいえない」46・0%です(分からない・無回答1・4%)。読売新聞の調査にも同じ趣旨の質問がありますが、こちらは「よかった」48%、「よくなかった」41%(答えない11%)。「よかった」と「よくなかった」だけを見ると、二つの調査で結果が異なっているようにも見えますが、その差はさほど大きくなく、評価は割れている、とみていいのではないかと思います。また共同通信の調査で「どちらともいえない」が46%にも上っていることを考えると、戸惑いも小さくはないようです。

 読売新聞の調査では、今後、国会憲法改正に向けた議論が活発に行われることを期待するとの回答が70%に上り、「期待しない」の25%を大きく上回りました。一方で共同通信の調査では、安倍晋三首相の下での憲法改正について、「賛成」35・8%、「反対」48・9%でした。国会で改憲が議論されるのは良いが、安倍首相が「自身の任期中に」と意気込むほどには、世論の熱は高まっていないと言ってもよさそうです。

 憲法改正の手続きは、衆参両院の発議を経て国民投票に進むことになっています。国民投票といえば、最近では英国欧州連合(EU)からの離脱を決めました。共同通信の調査では「国政の重要課題を国民投票にかけるやり方をどう思うか」との設問に対し「望ましい」18・9%、「どちらかといえば望ましい」40・7%で、肯定的な評価は計59・6%。「どちらかといえば望ましくない」19・7%、「望ましくない」14・9%で、否定的な評価は計34・6%でした。英国では国民投票の終了後、「離脱」に票を投じた人たちの間で「離脱派にだまされた」などと後悔する有権者の様子が伝えられました。そのため国民投票には慎重な姿勢が多数を占めるかと思っていましたので、この調査結果は少し意外な気がしました。

 内閣支持率は、読売新聞は「支持」53%(前回比4ポイント増)、「不支持」34%(4ポイント減)でした。共同通信は「支持」53・0%(2・3ポイント減)、「不支持」34・7%(1・7ポイント増)でした。