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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

沖縄知事選の在京各紙論調やはり二分

 沖縄県知事選が10月30日、告示されました。立候補したのは現職の仲井真弘多、前那覇市長の翁長雄志の両氏ら4人。日米両政府間の合意事項になっている米軍普天間飛行場名護市辺野古地区への移転をめぐって、仲井真氏は推進、翁長氏は反対と主張が明確に分かれています。元衆院議員下地幹郎氏は県民投票の実施を掲げ、元参院議員喜納昌吉氏は「承認を撤回」を主張。4者それぞれの主張です。自民党県連の幹事長を務めるなど沖縄の保守の重鎮だった翁長氏が、辺野古移設反対を掲げて出馬したことで保守分裂の知事選となったことも、これまでにない特色です。これまでこのブログで繰り返し書いてきている通り、沖縄に過剰な米軍基地の負担を強いているのは日本政府であり、本土に住む日本人は一人一人が日本国の主権者として(その限りで)、そうした政府を成り立たせていることの責任を免れえない、とわたしは考えています。米軍基地をめぐるさまざまの出来事、沖縄で何が起きているかを、本土のマスメディアが報じることに特段の意味があると考えるのも、そのためです。
 そうした観点から、30日の告示に際して、わたしが住む東京で新聞各紙がこの沖縄県知事選をどのようにとらえているか、各紙の社説を読み比べてみました。関連する社説を掲載したのは朝日新聞毎日新聞、読売新聞、産経新聞東京新聞の5紙。毎日、産経は30日付朝刊、朝日、読売、東京は31日付朝刊の掲載で、東京新聞中日新聞と同一の内容です。いずれもネット上の各紙のサイトでも読めます。
 大まかに言えば、普天間飛行場辺野古移設問題について、朝日、毎日、東京の3紙は、知事選で示される民意を尊重・重視すべきだとの主張なのに対して、読売、産経の両紙は、辺野古移設の必要性に力点を置いています。特定秘密保護法の制定をめぐる論議のころから、全国紙では論調が2分化する傾向が顕著になってきていますが、沖縄県知事選をめぐっても同様のようです。
 朝日、毎日、東京の3紙の中でも、東京新聞の社説は「基地負担の押し付け」の視点にも触れ「普天間問題には移設の是非だけでなく、沖縄をめぐる問題が凝縮していると考えるべきだ。日米安全保障体制が日本の平和と安全に不可欠なら、負担は国民が等しく負うべきではないのか、負担の押し付けは沖縄県民に対する差別ではないのか、などだ」と記しています。毎日も「沖縄の過重な負担のうえに日米安保体制の恩恵を享受している本土の人たちもまた沖縄の将来を考える機会にしたい」と書いています。こうした記述は、読売や産経と際立った違いだと感じました。
 以下に、備忘を兼ねて5紙の社説を一部引用して書き留めておきます。

朝日新聞「沖縄知事選 基地を正面から語れ」10月31日付

 沖縄でずっと続いてきた「保革対決」の構図は崩れた。公明、民主は自主投票。保守の一部が革新と組む保守分裂の選挙戦となった。移設問題への立ち位置の違いが、この新たな構図を生んだと言える。
 既成政党の枠組みが壊れ、保守が分裂した背景には、仲井真氏の方針転換がある。
 前回知事選で県外移設を公約して当選したものの結局、埋め立てを承認した。今回は、辺野古移設が具体的で現実的な方策だと、計画容認にかじを切った。仲井真氏の決断を受け、政府は辺野古のボーリング調査に着手した。
 知事の承認に至る過程で、やはり県外移設を公約に当選した沖縄県選出の国会議員自民党県連に、自民党本部が公約放棄を迫り続けたことも、県民に不信感を植え付けた。知事の公約変更に、有権者がどう審判を下すのかが注目される。
 さらに、政権が相次いで打ち出す「基地負担の軽減策」をどうみるかも問われる。
 「過去の問題」と言いながら政府は移設に絡んで、現職の仲井真候補へ露骨な肩入れを続けていると受け止められかねない状況が生じている。
 普天間配備の空中給油機を8月に岩国基地へ移転。オスプレイの訓練も県外へ分散するとも言う。だが、空中給油機は今も普天間に来ているし、オスプレイ普天間での飛行回数は、配備直後の1年間よりこの1年の方が増えている。
 普天間を2019年2月までに運用停止にする政権の約束も、米政府が拒否し、空手形だったことが明らかになった。
 「負担軽減」は本物か。知事選を通じて、沖縄の有権者はじっと見ている。


毎日新聞沖縄県知事選 辺野古移設への審判だ」10月30日付

 翁長陣営は知事選を「イデオロギーではなく、沖縄のアイデンティティーの戦い」と位置づける。冷戦終結から四半世紀を経ても沖縄に基地が集中し、新基地建設を押し付けられるのは沖縄への「構造的な差別」であり、「オール沖縄」で沖縄の将来を勝ち取ろうという考えだ。
 仲井真氏は現実路線で対抗する。「普天間の危険性除去」が最優先だとして、辺野古移設を「現実的で具体的な解決策」として推進する。
 安倍政権は、基地負担軽減策に取り組んで仲井真氏を全面支援する一方、選挙結果が移設に影響しないよう工事の既成事実化を図ってきた。
 負担軽減策のなかには、普天間の空中給油機KC130部隊を山口県の米軍岩国基地へ移転したり、日米両政府が在日米軍基地の環境調査に関する新協定の締結に実質合意したりするなど前進したものもある。
 だが、仲井真知事が昨年末の埋め立て承認の際、最重要の条件とした「普天間の5年以内の運用停止」は、米政府が反対しているとされ、実現は困難視されている。日本政府の沖縄への空手形に終わる可能性がある。
 政府は沖縄県がすでに公有水面埋立法に基づく埋め立て承認をしている以上、重大な法的瑕疵(かし)や明白な環境破壊がなければ撤回や取り消しはできないとの立場だ。とはいえ、選挙結果いかんによっては、移設をめぐる政治的環境が根本から変わる。今回の知事選は辺野古移設に対する事実上の審判となる。
 投開票は11月16日。沖縄の過重な負担のうえに日米安保体制の恩恵を享受している本土の人たちもまた沖縄の将来を考える機会にしたい。


▼読売新聞「沖縄知事選告示 『辺野古』で責任ある論戦を」10月31日付

 辺野古移設は、基地負担の軽減と米軍の抑止力維持を両立させるうえで、最も現実的な選択肢だ。実現には大きな意義がある。
 日米両政府は昨年4月、辺野古移設を前提に、2022年度以降の普天間飛行場返還で合意した。移設が遅れれば、普天間だけでなく、合意に盛り込まれたキャンプ瑞慶覧など他の米軍5施設の返還も先送りされる可能性が高い。
 辺野古移設に反対する候補は、普天間の危険性を除去する具体的な代替策を示す必要がある。沖縄全体の基地負担の軽減が遅れるリスクについても、県民にしっかり説明しなければならない。
 防衛省公有水面埋立法に基づき、必要かつ正当な手続きを踏み、埋め立ての承認を得ている。この法律には、喜納氏の言及する承認撤回などの規定はない。法令に基づく決定の一方的な変更は、行政権限の乱用にあたるだろう。
 疑問なのは、公明党が自主投票を決めたことだ。辺野古移設を支持する党本部は、反対する県本部を説得できず、仲井真氏の推薦を見送った。与党の一員として責任ある対応ではあるまい。
 民主党の姿勢にも問題がある。鳩山政権時代に普天間問題を迷走させた末、辺野古移設の支持に転換した。それなのに、今回の自主投票は無責任ではないか。
 最近は、尖閣諸島周辺で中国公船が領海侵入を繰り返すなど、沖縄県の平和と安全が脅かされている。知事選では、こうした問題も議論することが大切だ。


産経新聞沖縄県知事選 正面から移設の意義説け」10月30日付

 移設先となる辺野古埋め立ての承認は済んでいるが、これを認めない候補者もおり、その理由を語るべきである。
 県民にとって、基地負担の軽減に関心が向くのは当然だろうが、尖閣諸島石垣市)を抱える沖縄が国の守りの最前線になっているという現実もある。
 基地負担のみならず、日本の防衛をどうするかという視点に立って議論を展開してほしい。
 いうまでもなく、辺野古移設は日米両政府間の重い約束事だ。4月の日米首脳会談や昨年10月の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)でもその方針は確認されてきた。
 すでに移設に関連する工事が始まっており、頓挫すれば日米安全保障体制に亀裂が入り、同盟の抑止力低下につながりかねない。
 南西諸島方面で近年、何が起きているかを候補者や県民は直視してほしい。中国は力ずくで尖閣の領有をねらい、中国公船が尖閣周辺の領海に侵入してくる。
 また、中国は尖閣を含む東シナ海の空域に「防空識別圏」を一方的に設定し、中国軍機が、国際ルールを守って飛行する自衛隊機に異常接近を重ねた。中国海軍艦船は射撃管制用レーダーを海自護衛艦に照射した。
 こうした中国の軍事的動向を冷静に考えれば、沖縄における米軍のプレゼンスが、沖縄自身を含む日本の平和と安全、さらには東アジアの安定に欠かせないことはわかるはずである。
 日米同盟の抑止力を保ちつつ、住宅密集地にある普天間飛行場の危険性を除くには、辺野古移設の実現こそが現実的な解答だ。


東京新聞中日新聞)「沖縄県知事選 基地の現実直視したい」10月31日付

 沖縄県知事選は、保守と革新が対決する構図が長く続き、保守分裂選挙は今回が初めてだ。
 在日米軍基地の約74%が集中する沖縄県に、普天間返還のためとはいえ、さらに米軍基地を新設することへの拒否感が、保守層にも浸透しつつあることを物語る。
 安倍内閣は、今年一月の名護市長選で辺野古移設に反対する稲嶺進氏が再選されても、県内移設を進める方針を崩そうとしない。
 そればかりか、八月に海底掘削調査を始めたり、今月二十四日には本体埋め立て工事の入札を公告するなど、県内移設を県知事選前に既成事実化しようとしている。
 菅義偉官房長官は九月の内閣改造で「沖縄基地負担軽減担当相」兼任となったが、県内移設の是非は「もう過去の問題だ」として、県知事選の結果に関係なく、移設作業を進める方針を強調する。
 しかし、民意を顧みない強硬姿勢で、重い基地負担に苦しむ県民の理解が得られるだろうか。
 普天間問題には移設の是非だけでなく、沖縄をめぐる問題が凝縮していると考えるべきだ。
 日米安全保障体制が日本の平和と安全に不可欠なら、負担は国民が等しく負うべきではないのか、負担の押し付けは沖縄県民に対する差別ではないのか、などだ。
 本土に住む私たちも、同じ日本国民として、沖縄県民の苦しみから目を背けてはならない。今回の知事選を、沖縄の現実をともに見つめ、考える機会としたい。

 なお、告示の10月30日当日の夕刊では、朝日新聞東京新聞は1面トップ、毎日新聞、読売新聞も1面でした(日経新聞は総合面、産経新聞は夕刊発行なし)。朝日新聞は翌31日付朝刊でも引き続き1面トップに据えていたのが目を引きます。
【写真説明】朝日新聞の10月30日夕刊(手前)と31日付朝刊