教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する

教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革するは、教育

日本企業が世界最高水準の製造力を培い、あまりか企業を追い抜いていた70年代と80年代に、その理由としてささやかれていたのは、日本の人口はアメリカの4割でしかないのに、数学、科学、工学を学ぶ大学生がアメリカの4倍もいるという節だった。当時アメリカ経済への脅威と広く見なされていた日本の経済力向上は、こうした科学者や技術者によってもたらされたのだと考える人が多かった。

しかし日本が繁栄を遂げると興味深いことが起こった。理工系の学位を取得する学生の割合が低下したのだ。なぜこんなことが起こったのだろうか?その答えは、学校自体とはほとんど関係がない。学校が大きく変わったわけではなかった。原因は繁栄にあったのだ。第二次世界大戦の荒廃から立ち直ろうとしていた頃の日本の学生には、貧困から抜け出し、手厚い賃金を得る手だてとして、理工系の科目を学びたいという明らかな外発的動機づけを持っていた。だが国や家庭が豊かになるにつれて、外からの圧力は小さくなっていった。学校がこれまで教えてきた方法でも理工学は楽しめるように出来ている人、つまり自発的動機を持つ人や、それ以外の外発的動機づけを持つ人たちは、いまも理工学を学んでいる。だが多くの人は、楽しいと思えない科目を我慢して学ぶ必要がなくなった。同じ減少傾向が、いまやシンガポールと韓国にも見られる。経済的繁栄とともに外発的動機づけが失われるため、理系離れが進むのだ。それに、こうした科目の教えられ方を考えれば、自発的動機づけはほとんど存在しないと言ってもいいだろう。
教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する ,pp. 8-9)

こんなキャッチーは冒頭で始まる本書は、問題を破壊的イノベーション研究の観点からとらえた本。

その骨子は大雑把に言うと以下のとおり。

  • 学校(この本ではアメリカの公教育を中心としている)に社会が求めていることは、「民主主義を守り、民主主義の価値観を教え込む」→「一人一人の生徒に何かを提供する」→「アメリカの競争力を保つ」→「貧困の根絶」と移り変わってきた
  • 学校は、これらの社会からの要求を満たすためにその時々の優先順位の高い要求に対応して提供するサービスの質を上げてきた
  • 現在の学校の機能不全が叫ばれている理由は、学校や行政、教員や教員組合の怠慢や不誠実な態度が原因ではなく、社会が学校に求める要求をどんどん変えていることに由来する。
  • 「アメリカの競争力を保つ」要求を達成するために、学校は工場式の教育(生徒に付加価値を与えて社会に送り出す)を採用し(社会もそれを推奨し)、その質を上げてきたが、「貧困の根絶」を達成するためにはすべて生徒の得点向上を図らなくてはならなくなったため、この工場式の教育では対応できなくなっている
  • ガードナーの研究によれば、ほとんどの人が8つの知能をいくらかずつ持っているが、優れているのは2つか3つだけである。また、それぞれのタイプの知能の中にはさまざまな学習スタイルがあり、その上、個々人により学習のペースがことなる。このことから、工場式の教育では、必ず落ちこぼれが発生し、これを救うことはできない
  • 人はそれぞれ学び方が異なるという事実に立脚し、生徒中心の個別化された学習を学校で行うべきである。
  • 生徒中心の個別化された学習を学校で行うためには、コンピュータを用いた破壊的なイノベーションが起こらなければならない

この生徒中心の個別化された学習を学校で行うためにはどうすれば良いのかということを主題とし、現在の学校の状況、なぜ、コンピュータが学校にこれほど導入されているのに学習方法が従来のままなのか、コンピュータを用いた破壊的なイノベーションを起こすためにはどうすればよいのか、生徒中心の個別化された学習を学校で行うために必要なことは何かというのを論じている。

Eラーニングや教育改革などに興味がある人、教育系の研究者にとっては宝箱のような本。破壊的イノベーションの概念を知らなくてもこの本の中で丁寧に説明されているので大丈夫。

このエントリーを書くために再読したのだけど本当に面白い本だった。ただ、この本の主張を教員が受け入れるのはちょっと苦痛。なぜならば、現在の教員自身を否定する内容が入っているため。

生徒中心の学習は、コンテンツを好きな順序で組み合わせることによって、自分の知能のタイプにあったやり方で、好きな場所で好きなペースで学習する未知を生徒に開いてくれる。モジュール性とカスタマイゼーションが転回点に近づくにつれて、もう一つの変化が起こるだろう。これから説明するように、教師は一人ひとりの生徒の前進を助ける、プロの学習コーチ兼学習内容設計者として重要な役割を果たすことができる。教師は壇上にいる賢人ではなく、いつも傍らにいる導き手になれるのだ。
教育×破壊的イノベーション 教育現場を抜本的に変革する ,p. 40)

続き、ガードナーの多元的知能とアメリカの公教育