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桃のとうげんきょう このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-10-05

モーニング娘。らしさを生むフック

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先日高橋愛モーニング娘。を卒業した。彼女個人の長きにわたる功績やパフォーマンスの素晴らしさについては今更語るまでもないので、高橋愛が所属したモーニング娘。最後のシングルについて少し思うところを書いてみたい。

『この地球の平和を本気で願ってるんだよ!(高橋愛モーニング娘。卒業記念盤) 』と題された特別仕様盤はカップリングとして高橋愛のソロ曲『自信持って 夢を持って 飛び立つから』収録されている。今回触れるのはそちらではなく、『彼と一緒にお店がしたい!』が収録されている初回A〜C盤である。上に貼ったyoutube動画を見ればわかるのだが、1曲目の『この地球の平和を本気で願ってるんだよ!』の後奏がフェードアウトしていくのにオーバーラップして目覚まし時計の音が重なり、2曲目の『彼と一緒にお店がしたい!』につながっていく。MV(Long ver)だけの仕様ではなく、CD音源でもこのような構成になっている驚きの仕様である。当然1曲だけ聞いた場合には尻切れ感or唐突なスタートに違和感MAXである。コンセプトアルバムならまだしも、大多数の人がmp3iPodに入れてアーティスト別かプレイリストをシャッフルで聞いているような時代に、シングル曲をカップリングと一緒に2曲連続で視聴することを強要する、リスナビリティを完全に無視した大胆さに思わず笑ってしまう。

発売時にこそ諸事情で『彼と一緒にお店がしたい!』がカップリング曲扱いになってしまったものの、元々は両A面での発売が予定されていたことからしても、この2曲は完全にセットで聞かなければならない曲であり、そうして初めてそれぞれの良さが浮かび上がってくる。

1曲目の『この地球の平和を本気で願ってるんだよ!』を聞いた時、懐かしさを感じる人も多かったのではないだろうか。試験勉強、片思いの相手、食欲、両親といった身の回りの世界から地球の平和とLOVE&PEACEに飛躍(あるいは等値化)するお家芸歌詞パターン。奇をてらうでもないメロ・サビのメロディーラインと一転して大胆な転調。心地いいベースラインと安心のヒラショー(平田祥一郎)アレンジ。思わず失笑してしまうような、宇宙をイメージした半確信犯的に安っぽくキラキラしたMV。ファッションショーのごとく練り歩くメンバーと横で道を作るメンバーのダサいダンス。メンバー全員が寄り添い歌い、手を横に振る簡単なサビ振り付け。そのすべてがどこか懐かしく、「モーニング娘。らしさ」を感じさせ、それでいて不思議と時代遅れ・古臭さはにじみ出てこない。

一方『彼と一緒にお店がしたい!』は非常に可愛らしくコミカル曲調で、これもまたもう一つの「モーニング娘。らしさ」を感じる一曲となっている。この曲ではとにかく道重さゆみの存在がポイントになっている。1曲目では高橋を中心にした温かみがありなおかつ安っぽさに半歩足を踏み込んだ黄金の装飾をまとったモーニング娘。像が描かれ、そのような扉の向こうのキラキラとした空間から高橋愛が一人で帰ってきて部屋戻る=アイドルモーニング娘。を終えると、部屋の中で眠っていた道重さゆみが2曲目を歌い始める。高橋愛時代ではそれほど強調されることが多くなかった「可愛らしさ」とコミカルさがTVバラエティでも活躍する道重を中心に描かれることとなる。高橋から9期、もっと言えば鞘師に焦点を当ててしまうのではなく、10期加入を見据えた過渡期としての道重・田中の6期コンビによるモーニング娘。を高橋時代の娘。からそれこそ目覚ましベルの音で直接的に表現されてしまうほどの連続性をもって描いていることに強い感激を覚えた。

1曲目の『この地球の平和を本気で願ってるんだよ!』はLOVE&PEACEのメッセージは非常にまっすぐであるが、真面目でありつつもその長すぎるタイトルに象徴されるようにまったくもってふざけた内容の曲である。逆に2曲目の『彼と一緒にお店がしたい!』は道重メインボーカルという挑戦、コミカルというか正直ふざけた曲でありながら、よくよく聴いてみると非常に真面目な作りで聴きごたえのある曲である。

『彼と一緒にお店がしたい!』は道重のボーカルをどう料理するかに焦点が置かれている。リゾナントブルーの「help me!」に代表されるように、セリフの色気をメロディーラインにどうにかして組み込んだ跳ねるような道重のボーカルは非常に味があり、一見同じように響いているようで田中れいなのわざと崩した歌い方と明らかに対象的である。半分セリフのような跳ねるボーカルは道重の本気である。本気で歌っているからこそ、我々はそれをフックとして消費することができる。笑いながら聞いていた道重のフックは視聴回数が増えるごとに次第に快感へと変わっていくのだ。

現代のアイドルソングにとってフックとなる部分及び快感原則を用意するのは常套手段となっている。フックとはなにかと聞かれるとそれを正確に定義するのは難しいが、聞く側になにかしらの「ひっかかり」、注目点をとなる音やリズムを用意することである。ここでフックと快感原則の関係性は、前者が聞き手の「発見」に重点が置かれているのに対し、後者は前者が進化して聞き手がほとんど自動的に反応せざるをえない様な仕組みに近づいたものとひとまず定義しておく。とはいってももちろん両者とも作り手の仕込みであることには変わりないのは言うまでもない。SUPER☆GIRLの『MAX!乙女心』を非常にわかり易い例として挙げることができる。

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イントロにあるような「YEAH!」「FuwaFuwa」といった合いの手や、Aメロ始まってすぐの「ビキニ!」「バーベキュー!」と叫ぶ部分は聞く側も一緒に叫びたくなるような単純で強力な快感原則に沿った音が挿入されている。

モーニング娘。もかつてこのようなアイドルソングのフックや快感原則を開拓したものの一人であり、フックや快感原則をばらまくのは曲作りだけでなくアイドルのあらゆる部分で見られる特徴である。フックは「ズレ」に言い換えることができる。かつてモーニング娘。が「非ーアイドル」的な存在だったように、アイドルは常に実在しない「理想の正統派アイドル像」という中心点からいかに面白いズレを生み差別化を図り「非ーアイドル」が既存の「アイドル」概念を書き換え拡張させていくのかが非常に重要なポイントとなっている。

フック=ズレの作り方をどう設定するかで快感原則のターゲットが決まってくる。多少強引だが、快感原則に忠実な作りをして多くのファンを掴んだのがAKB48であり、ズレの振り幅を極端に設定したことが既存のアイドルファン層だけでなく異なる層への快感原則にヒットし、大方の予想に反しいまやじわじわと一般的層への快感原則に侵食しつつある挑戦者がももいろクローバーZであると言えるかもしれない。

ここで今回のモーニング娘。の2曲を初めて聞いた時に感じた「モーニング娘。らしさ」というぼんやりとしたもののヒントがあるように思える。モーニング娘。は一見ファンが喜ばないような、「え、そこ・・・?」と思わざるをえないような形で驚き=ズレを仕込んでくることが多かった。それがアンチを生むこともあるが、ファンの多くは最初は戸惑いつつも次第にその違和感が快感に代わる体験に魅了されているのではないだろうか。モーニング娘。独特のフックにまんまと引っかかっているのである。それらのフックが生きるのは、根本が高い完成度によって固められているからこそである。既存のファン層(内部)に受けることとそれ以外の一般層(外部)に開かれていることのバランスがアイドルがメジャーシーンで活動していくための最大の鍵であり、その閉じ方/開かれ方あるいは両者の関係を脱構築した新たなあり方を各アイドルが模索している。近年のモーニング娘。が必ずしも外部に開かれること=一般に受けることに成功していたとは言えないが、それでも性質として外部への訴求力に欠けていたとは言えないように思える。ズレていることと王道感の両立、その絶妙なバランスが10年以上も諸行無常盛者必衰アイドル界を走り続けてきた秘訣であり、それは奇跡と呼ぶに他ならない。「モーニング娘。」という一つの名前と「モーニング娘。らしさ」という漠然とした精神的な核を持ち続け、それでいて構成要員の変化に伴いそれぞれの時代において全く異なる姿に進化することをやめなかった。


今回もまた高橋愛の卒業という大きな転換点を迎えたが、そんなときに不変の「モーニング娘。らしさ」を兼ね備えつつ、異なる2曲で現時点の完成系と新時代の姿を表現しつつ、その世代交代の連続性を物理的に音で表現してしまう大胆さを見せてくれたモーニング娘。はやっぱりまだまだ面白いのである。