情報化社会の窓

魔のベルボトム

「今日は70年代風のファッションで行こうかな☆」

幸子はベルボトムをはいて出かけた。しかし駅への道を歩いているうちに、急にベルボトムの裾が拡大し始めたのだ。ものすごい末広がりに、三百六十度、真上から見ると円が大きくなっていくようにぐんぐん裾が広がっていく。

「や、やだ…何これ…?」

左右の足の内股側は広がる生地がぶつかり合い、うねうねと波をつくって、やがて湯葉みたいに層を成し始めた。その湯葉の重なりの左右に広がりたい力を、幸子は両脚をがに股気味にして、その湯葉を力一杯挟み込むようにして踏ん張ってどうにか耐えていた。

しかし、やがて耐えきれなそうな感じがしてきた。そこで幸子は歩くことにした。前に歩くことで左右の足の間に層を成して折り畳まれ凝縮されていくベルボトムの裾を、少しずつ置き去りにしていこうと考えたのだ。

「よいしょ☆」

左右交互に足を前に出して、てくてく歩いていく幸子。が、あまりにもベルボトムの裾が広がっており、今もなお広がり続けているため、所詮その広がった裾の中で足を動かしているにすぎず、周りから見れば一歩も歩いていないように見えるのだ。多少は腰から上の位置こそ前進しているはずだが、周りと言っても一番近い野次馬でさえ既に30メートルは離れているので、そんな遠くから見ればわずかな誤差でしかなく、やはり一歩も進んでいないも同然だろう。それが少し、恥ずかしかったと言えば恥ずかしかった。