新潟県ヤギネットワーク

2006-07-09 新潟県ヤギネットワークの仲間たち

niigatayagi2006-07-09

 〜小学校のヤギ指導と体験学習の支援〜                             

 新潟県ヤギネットワーク代表 今井明夫

 新潟県内でヤギを愛好する仲間たちが連絡をとりやすいようにネットワークをつくっている。情報や意見を交換をしたり、繁殖用の雄ヤギの融通もしている。一番大きな役割は近隣の小学校にヤギを貸し出して出張指導することである。新潟県の各地に8人ほどヤギの相談を受けてくれる世話人がいて、40人前後のヤギ飼育者とヤギの診療を支援してくれる獣医さん、そしてヤギを飼育する学校(毎年約20校)がE-メールやファックスで連絡できるようにしている。

1 子供たちと一緒に小学校でヤギを飼いたいんですが・・・・・

  20年ほど前に新潟県松代町(現在、十日町市)の奴奈川(ぬながわ)小学校から相談があり、雄ヤギ1頭と雌ヤギ2頭を軽トラックに積んで入学式に行ったのが、新潟県内の小学校でヤギの飼育指導をするようになった始まりである。このとき、小学校5,6年生の子供たちは、毎日草を刈ってヤギを育て、冬の飼料用にトウモロコシのサイレージ(漬物)や野草の干し草まで自分たちで作った。春には子ヤギが生まれ、乳を搾って飲むこともできた。2年間の飼育で子供たちは教室で学ぶだけの学習から、体験を通した総合的な学習を実践することで大きく成長し、その成果は子供たちの文集に残されている。

  それ以降、わたしのところにヤギやヒツジを飼育したいという各地の小学校から相談がくるようになったが、小学校へ入学させる子ヤギを手に入れることがだんだん難しくなってきた。

2 ヤギを飼っている仲間を探す。

  県内でヤギを飼育している人たちを探して連絡を取り合い、そこで生まれた中から手ごろな子ヤギ(無角の雌ヤギ)を保留しておいて小学校に入学させる。小学校でも秋に種付けをすれば春には子ヤギが生まれる。こうして子ヤギを比較的容易に入手できるようになった。

  六日町(現在、南魚沼市)の富山大和さんは会社経営を引退してからヤギの飼育を始めて熱心に勉強した。家畜改良センター長野牧場での研修会は欠かさず参加し、人工授精の講習会まで受講したのである。そして液体窒素保管器と人工授精器具を購入して長野牧場から凍結精液を配布してもらい、地元の獣医さんの協力を得て人工授精もやっている。近隣に1〜2頭しかいない雌ヤギのために「種付け」用のオスを飼育することは大きな負担なのである。毎年精液を購入して優良な雄ヤギとの交配ができるようになれば、ヤギを飼う仲間を増やすことができる。富山さんの近所でヤギを飼っている勝俣さんと一緒に五十沢(いかざわ)小学校のヤギ飼育指導を続け、子供たちに動物の世話を通して命の大切さを教えている。北海道清水町や福島県郡山市で開催された全国ヤギサミットにも参加している。

3 ヤギネットワークの若い力

新潟県ヤギネットワークはヤギを愛好する仲間作りからスタートした。巻町(現在、新潟市)の長津安生(やすお)さんは家族みんなで力を合わせて有機農業を実践しているが、それだけではなく消費者グループとの交流会を続けている。食べ物を生産する農家と食品を買って食べるだけの消費者の距離が遠くては、農業も農村も理解してもらうことはできない。常に身近な交流が大切なのである。長津さんがヤギを飼育するようになってから交流会に参加する親子はヤギと遊ぶのを楽しみにしている。西蒲原地域の小学校でヤギの飼育が広がり、弥彦小学校、潟東南小学校、小中川小学校、升潟小学校など各地で長津さんの指導によって子供たちが体験学習を続けている。

4 ヤギ指導の先輩、武田さん夫妻

 上越市大島区の武田均さんと勝美さん夫妻は上越地域の小学校に頼まれて毎年、8校ほどの小学校に子ヤギを無償で貸し出している。冬になるとヤギたちは武田さんのところに戻ってきて雄ヤギと交配して妊娠し、翌春にはたくさんの子ヤギが誕生する。豪雪地の大島地区では冬期間ヤギに与える飼料を確保したり、多数の妊娠したヤギの世話をするのは大変な労力である。春先の分娩時期には、農作業とも重なる。「冬の間も学校でヤギを飼育するようにしたらどうですか」とアドバイスしたのだが、期間飼育を希望する小学校が多く、武田さん夫妻は飼育の経費を自己負担しながら今年も数校の小学校へヤギ指導に回っている。

5 子供たちが校外学習に来る佐藤農園

  三条市の佐藤一寿さんはアイガモ農法で稲を栽培しているが、昨年、白根小学校を卒業した母ヤギの「バニラ」を引き取って飼育している。バニラは今年の春に見事な三つ子を産んで立派に育てている。1週間おきに佐藤さんから子ヤギの成長記録がメールで送られてくる。21日目の報告では生まれたときに平均2000gだった子ヤギが5850gになっている。6月11日の報告では28日目に平均7050gと3頭とも順調な発育を続けている様子が伝わってくる。 地元の旭小学校の子供たちは、しょっちゅう校外学習に訪れて佐藤さんから米つくりやヤギのことなどを教わっている。ヤギは人間の食料と競合することが少なく、農村にたくさんあった野草や野菜クズ、米ぬか、豆ガラなど何でも利用して乳や肉や毛皮の恵みを与えてくれる。除草剤をどこでも使うようになってから、農村でヤギを飼うことが難しくなった。

6 「ヤギの学校」

  これまでたくさんの学校で、たくさんの先生たちがヤギの飼育を通して子供たちの成長を見つめてきた。生き物を飼育することで子供たちが「生きる力」を自ら獲得することをどの先生も認めている。そしてたくさんの苦労もあったけれども先生自身が大きな経験をつむことができたと言っている。体験学習は見て触っただけではダメなのだ。一定期間を飼育する動物の生命を感じながら、自分のパートナーとして見つめて世話をすることが大切である。休みの日も子供たちとヤギが中心の生活で旅行にも行かなかった先生、ヤギの具合が悪いと心配で家に帰れない先生、4年も続けてヤギの飼育を希望する子供たちのために同じクラスの担任を続けた先生もいる。

「ヤギの学校」に関係して知り合った先生たちが一様に言うことだが、子供たちは知識の習得だけではなく、人間としての成長が大きいことを評価している。ヤギの飼育を通して体験学習の力を知った先生たちは別の学校へ転勤しても子供たちと話し合ってまたヤギを飼うことを希望する。

各地の小学校へヤギの入学式や結婚式、子ヤギの誕生、そして卒業式に招かれて行き、そのとき必ず話すのだが、「人間は家畜の命をいただいて生きています。皆さんがミルクを飲めるのは、子ヤギや子牛を育てるための母親のミルクです。妊娠して子供を産まなければミルクは飲めないのです。」、「皆さんが食べている肉は生きている家畜を殺すから食べられるのです。殺すということは減ってしまうことだから、妊娠させて子供を産ませ、再生産しなければ肉を食べ続けることはできないのです。」 このことを教えるのは種付け、妊娠、分娩といった繁殖のサイクルを子供たちに理解してもらい、繁殖という動物にとっての基本的な行為なしにはその動物の種の保存がないことを知ってもらいたいのである。そのためにも秋に種付けをしてやり、冬の妊娠期間中を大切に飼育してもらって、目の前で子ヤギの分娩を迎えることが重要なのである。

十日町市の松代小学校では、4年前に1年生がヤギのシロちゃんを飼い始めた。学校の玄関の脇に琉球大学教育学部の小林豊先生からいただいたモダンなヤギ小屋があり、子供たちは登校するとまずシロちゃんに声をかける。下校時も同じだ。全校の子供たちのアイドルであるシロちゃんは町じゅうの人気者でもある。

シロちゃんは11月に雄ヤギと同居して妊娠し、1歳になったばかりの4月にオスの子ヤギを産んだ。子供たちの見守る中でのお産だった。生れ落ちた赤ちゃんを母ヤギは一生懸命になめてマッサージしてやり、しばらくすると自力で立ち上がって母親のおっぱいを探して飲み始める。命の営みの大切な場面に出会えた子供たちの感動はとても大きかった。

 大きく育った子ヤギは秋には他の牧場へもらわれていき、シロちゃんは2回目の妊娠をして次の子ヤギもまた雄ヤギだった。飼育を始めて3年目の子供たちは「大地の芸術祭」に琉球大学の小林先生と一緒にヤギ乳でチーズを作るワークショップにも参加した。

ヤギからの贈り物はそれだけではない。冬の間ヤギ小屋の汚れた敷きわらとウンチは堆肥として積んで切り返し、春になって田んぼの肥料として撒いた。野菜や花の畑にも使った。秋にはみんなで稲刈りをしてお米を収穫することができ、稲わらは次の冬の敷きわらになった。シロちゃんの飼育から始まったものが、子ヤギや乳やお米や野菜になり、たくさんの収穫物を与えてくれた。ヤギ乳はホットケーキ、杏仁豆腐、プリン、チーズなどなど子供たちの料理実習のよい材料になった。

松代町の自然の中で山野の草を利用し、野菜クズなども利用してたくさんの恵みを与えてくれたヤギ、ヤギの飼育を通して子供たちが学んだことはたくさんある。みんなで汗を流して家の人や地域の人たちの協力をもらってやった「協働体験」が、子供たちの生きる力として蓄積されている。それは体験学習でしか得られない成果である。

7 「土の会&ヤギの会」

 三条市(旧下田村)楢山の今井農園は春から秋まで、たくさんの親子がやってくる。三条親子劇場は毎年10月の芋ほりが恒例行事になっている。各地の小学校が校外学習として農園にやってくると、まず「手のひらを太陽に」をみんなで歌う。この歌のようにミミズだって、オケラだって、みんな生きていること、大地の力と太陽や雨の恵みを受けて作物が育ち、それを食べ物とする動物や人間がいる。作物の残り物や動物の排泄物はまた大地に返り、物質の循環と再生産が行われることを子供たちに話す。 

午前中は芋ほりをして午後は自由に遊びを見つける。ヤギと遊ぶ子、木に登る子、土の中で転がる子、さまざまに思いっきり遊んでから帰る。

 食べ物と健康と農業の話は生産現場で体験するのが一番だ。体験して感動したことは子供たちの心にずっと残ってくれるからだ。守門岳の火山灰が降り積もってできた赤い土はサツマイモやサトイモの栽培に適していて、新潟県で一番おいしいサツマイモができる。

 粟が岳を東に見て、西に広がる蒲原平野のむこうに弥彦山と角田山がつながり、空が澄み切った朝には遠くに佐渡島まで見えるのが今井農園の自慢である。

 昭和30年代までヤギは農村のどこでも目にすることができた。牛乳や卵が貴重な畜産物であったころ、周りの草を刈ってヤギやウサギを飼うのは大事な仕事だった。現在の日本の畜産は、飼料のほとんどを輸入に依存している。その一方で耕作放棄地が増えて荒れ放題になっている。

少ない土地資源を利用しないまま、世界的にも恵まれた温暖な気候の中で食料を海外からの購入に任せている日本という国は食べ物の本質を理解していないように思える。

 ヤギを飼い、畑を耕し、大地に根を張って生きることを妻と二人で続けたい。そしてたくさんの仲間たちと交流しながら次の世代の人たちに農業と農村の大切なことを伝えていきたい。

2006-07-08 動物を慈しむということ

niigatayagi2006-07-08

 「動物飼育の体験学習を支援すること」が新潟県ヤギネットワークの活動の中心的な内容である。堅苦しい言葉を使わず、わかりやすくいえば、「動物を慈しむということ」を人格の可塑性に富んだ幼年期から少年期に実際上の体験として積み重ねることが大切だと思うからである。

 合鴨やその他の動物も扱うことがあるが、主に扱う動物はヤギである。新潟県ヤギネットワークでやっていることはおよそ次の通り。

・ 自らヤギを飼い、繁殖をしてみる。    

・ 周辺の子供たちがヤギと一緒に遊ぶ。

・ 地域の学校へヤギの出張授業をする。

・ ヤギの入学、結婚、分娩、哺育、卒業。

・ ヤギの飼い方の指導と支援を行う。

・ 家畜と人間のかかわりを理解させる。


ヤギネットワーク組織・世話人一覧

          

今井明夫(三条市、旧下田村、代表世話人)

富山大和(南魚沼市、旧六日町)

武田 均(上越市、旧大島村)

長津安生(新潟市、旧巻町)

池津伸俊(長岡市王番田町)

宮尾浩史(新潟市、旧豊栄市)

後藤徳蔵(新発田市小坂)

園部 健(朝日村関口) 


ヤギを飼育する小学校

通年飼育10校、季節飼育8校(上越地区)    

飼育を休止中 10校

・ ヤギ飼育農家 35〜40戸

・ 支援する獣医さん 15名

ヤギから学ぶもの

・伴侶動物でもあり、生産動物(家畜)である。

・人間とヤギの共通点や違いを学ぶ。   

・自然の営みと食糧生産の仕組みを知る。

・動物飼育を通して健康管理を学ぶ。   

・いのちの誕生と成長の手助けをする。  

・地域の人たちとの協働体験ができる。

     

なぜヤギなのか

・子供たちと等身大ですぐに仲良しになれる。

・入手しやすく、卒業後の引き取り先がある。

・ライフサイクルが短い。                            

・生産物を通して畜産を理解することができる。   

 ヤギは、自然循環型農業、持続的農業・畜産業を考える上でたいへん優れた良い教材である。 

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