スルタンに仕えたアリストテレス主義者 Monfasani, George Amiroutzes

George Amiroutzes: The Philosopher and His Tractates (Recherches De Theologie Et Philosophie Medievales: Bibliotheca)

George Amiroutzes: The Philosopher and His Tractates (Recherches De Theologie Et Philosophie Medievales: Bibliotheca)

 Monfasaniの新作を手に入れました。15世紀のビザンツ哲学の者の著作(というか集められた草稿)の校訂です。まずはイントロダクションを読みました(5–53頁)。

 教皇エウゲニウス4世がトルコの脅威に対抗するために東西教会の合同を目指し、1438年から39年にかけてフェラーラフィレンツェで会議をひられたことはよく知られています。さらに哲学史に関心があれば、この際にビザンツ側から派遣された人々のなかにプレトン(ゲルギオス・ゲミストス)がいた事を知っているかもしれません。さらにこのあたりの事情に詳しければ同じ使者のなかにゲルギオススコラリオスがいたことも知っているでしょう。しかし使者団にもう一人のゲルギオスであるGeorge Amiroutzes(アモイルーゼース)が含まれていたことを知っている人はほどんどいないのではないでしょうか。かくいう私もこの本を読むまではそのような人間がいることすら知りませんでした。しかしこの人物はブルーニがその学識に心打たれて著作を検定してしまうほどの名声を当時勝ちえていました。

 Amiroutzesは1400年頃に生まれ1460年頃に没したと考えられています。トレビゾンドで生まれた彼はイタリアでの会議に出席したあと1450年頃には(ビザンツを滅ぼした)メフメト2世に仕え、哲学的・神学的問題についての議論相手となりました。Amiroutzesをイスラム教に改宗したとして非難する年代記もあるものの、実際には改宗の事実はありません(二人の息子は改宗したようです)。15世紀の前半にコンスタンティノープルで教育を受けました。教師はJohn ChortasmenosやThierry Ganchouではなかったかと推測されていますが確かなことはわかりません。

 彼の著作『信仰について』はルネサンス期にラテン語に訳されて2回出版されています。これはメフメト二世にたいして受肉や三位一体といったキリスト教の教義が非合理なものでないことを示そうとした作品です。Monfasaniは失われていたと思われていたこの著作のギリシア語版がトレドの図書館の写本に収められていることに気がつきました。このギリシア語本文とその英語訳は近いうちに彼の手によって刊行される予定だそうです。本書に収められているのはその同じ写本に収められた一群の草稿です。これは明らかに完成された著作ではなくて、Amiroutzesの講義ノートやメモが何者か(息子?)によって編集されて15の論考の体裁をとるに至ったものです。

 この中でAmiroutzesはアリストテレス主義の立場からプラトン主義を攻撃しています。プラトン主義によれば世界は一者である神から必然によって流出したことになっている。しかし世界は神の意志によって成立したとみなさなければならない。また新プラトン主義者が考えるように神と被造物のあいだに複数の原理(知性の階層)を想定してはならない。プラトンの輪廻転生理論は不合理である、などなど。このような論駁の背後にはプレトンのプラトン主義に対抗するという動機があったものと思われます。またギリシア語訳されていたトマス・アクィナスの著作を直接的にか間接的にか用いているのも興味深いところです。Amiroutzesによる神の存在証明の特徴、実体形相の単一性の強調、さらには著作における議論の進め方には明瞭にアクィナスから採られたとおぼしき要素が認められます。またアヴィセンナの流出論に非常に近い議論をAmiroutzesは紹介しており、これもアクィナスを経由して彼の知るところになったのではないかと推測されています。