科学史の専門誌 Isis の最新号(Volume 102, Number 4)に掲載された書評のなかから、ルネサンスから初期近代のカテゴリーに収録されている諸作品を選び出して簡単な紹介文を付しました。参考にしてください。
秘密の教授
The Professor of Secrets: Mystery, Medicine, and Alchemy in Renaissance Italy
- 作者: William Eamon
- 出版社/メーカー: National Geographic
- 発売日: 2010/07/20
- メディア: ハードカバー
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『科学と自然の秘密』の著者であるEamonが外科医にして錬金術師のレオナルド・フィオラヴァンディ(Leonardo Fioravanti 1517–1588?)の生涯をたどる。
中世の動物寓話集
- Cynthia White, From the Ark to the Pulpit: An Edition and Translation of the "transitional" Northumberland Bestiary (13th Century) (Louvain: Université catholique de Louvain, 2009).
13世紀に書かれた動物寓話集の校訂と翻訳です。自然世界に関する情報と、その倫理的な解釈を提供することで説教の素材を与え、同時に説教のモデルともなることが目指された著作であるとの解釈を著者は示しています。
コペルニクスとディコの体系のイスラム圏への伝播
Cross-Cultural Scientific Exchanges in the Eastern Mediterranean, 1560-1660
- 作者: Avner Ben-zaken
- 出版社/メーカー: Johns Hopkins Univ Pr
- 発売日: 2010/06/03
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植民地医療
- 作者: Pratik Chakrabarti
- 出版社/メーカー: Manchester Univ Pr
- 発売日: 2011/01/15
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18世紀のイギリスがインドとジャマイカで現地の医療知識と出会ったとき、それはどのようにヨーロッパに入り込み、欧州の理論をいかに変えて行ったのか。植民地医学、啓蒙期の科学、国際交易、帝国主義、そしてカリブ海地域と南アジア研究者必読の非常に水準の高い研究のようです。
産業革命
- 作者: Jeff Horn,Leonard N Rosenband,Merritt Roe Smith,Maxine Berg,Joel Mokyr,Patrick O'Brien,Marta V. Vicente,Robert Martello,Eric Dorn Brose,Peter Gatrell,Kristine Bruland,Peter C. Perdue,Prasannan Parthasarathi,Annie R. Hanley,Ian Inkster,George E. Smith
- 出版社/メーカー: The MIT Press
- 発売日: 2010/10/29
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産業革命についての最新の論集です。イギリスだけでなく、ドイツ、スカンジナビア、ロシア、アメリカ、ブラジル、インド、日本、中国が扱われている模様。
宗教的寛容
The Book That Changed Europe: Picart and Bernard's Religious Ceremonies of the World
- 作者: Lynn Hunt,Margaret C. Jacob,Wijnand Mijnhardt
- 出版社/メーカー: Belknap Press
- 発売日: 2010/03/31
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1723年から37年にかけて出版された『世界の宗教儀式』に関する研究書です。この本ではユダヤ教、カトリック、プロテスタント、ギリシア正教、イスラム教についての情報に加え、インド、中国、アフリカ、南アジアといった諸地域での宗教儀式の解説、さらにはフリーメイソン、理神論、不可知論、無神論についての情報が含まれています。このような諸宗教のあいだでの平等性を示唆する著作が広く読まれたことによって、宗教に関する相対主義と懐疑主義が広まり、結果として宗教的寛容がより広く認められるようになったと著者たちはしています。
神の二冊の書物の分裂
- 作者: Eric Jorink,Peter Mason
- 出版社/メーカー: Brill Academic Pub
- 発売日: 2010/10/01
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神の二冊の書物である聖書と自然のあいだの結びつきがほどけたのは、デカルト流の理性主義の浸透が原因ではなくて、オランダの聖書学者、神学者らのあくなき探求の結果であったと論じる研究です。古代の言語、年代学、新奇なものへの調査を深めていくことが、当初は神へ至るための道の一つととらえられていたものの、次第に調査が自己目的化し、聖書の記述自体までもが懐疑にかけられていくプロセスを描き出しているようです。Outramによる書評のレベルはさすがに高い。
労働者としてのアダム
Labors of Innocence in Early Modern England
- 作者: Joanna Picciotto
- 出版社/メーカー: Harvard University Press
- 発売日: 2010/06/15
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宗教改革以降、アダムが最初の罪人から最初の労働者へと捉えなおされていくにしたがい、エデンの園は罪人を締めだす楽園から、労働がそこで行われる実験室へと性格を変え、このことが集合的な活動によって知識を生み出すというロンドン王立協会やその周辺の実験哲学の理念へとつながった。このような描像を提示する研究書のようです。非常に多くの人物(主に)を取り上げる850ページを超える大冊。
コルベールの情報処理
- 作者: Jacob Soll
- 出版社/メーカー: University of Michigan Press
- 発売日: 2011/08/08
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重商主義と中央集権化というフレーズで有名ではあるものの実はそれほど研究のないコルベールについての最新のモノグラフです。彼が地方や植民地から上がってくる情報、書籍の流通、行政文書をいかに処理していたかを明らかにしています。
エンジニアとしてのガリレオ
Galileo Engineer (Boston Studies in the Philosophy and History of Science)
- 作者: Matteo Valleriani
- 出版社/メーカー: Springer
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ガリレオを16世紀末の北イタリアの都市で、実践的数学に携わった人物として描き出す研究です。ガリレオを自然哲学者ではなくむしろエンジニアとしてとらえる試み自体は古くからあるものの、本書はその網羅的な調査と、イタリア語の書簡や文書の英語訳添付によって、重要な成果として今後数えられることになるだろうとされています。
イランの科学・技術図像
- Živa Vesel, Sergei Tourkin and Yves Porter, eds., Images of Islamic Science: Vol. 1 (Téhéran: Institut Français de Recherches en Iran, 2009).
全近代のイラン世界の写本に描かれた科学と技術関係のイラストを集めた書物です。ユネスコの「イスラム世界における科学図像」シリーズの第1巻。これは手にとってみてみたい。
テキストと図像
- Nathalie Vuillemin, Les beautés de la nature à l'épreuve de l'analyse: programmes scientifiques et tentations esthétiques dans l'histoire naturelle du XVIIIe siècle, 1744-1805. (Paris: Presses Sorbonne nouvelle, 2009).
18世紀後半の自然誌家たちのテキストと図像の関係を探った書物のようです。
ガリレオの無宗教
- 作者: David Wootton
- 出版社/メーカー: Yale University Press
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ガリレオが望遠鏡を製作する前からコペルニクス主義者であった。彼の科学は完全な経験主義ではない。彼は自らの無宗教性を偽装していた。この3つの主張を行なっている主張です。評者によれば最初の2つは目新しい主張ではなく、最後の主張は非常にバイアスのかかった史料解釈に基づいたものであるとのこと。私もそう思います。