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2012-12-06

蒸留技術と自然哲学 Kodera, "The Art of the Distillation of 'Spirits'"

  • Sergius Kodera, "The Art of the Distillation of 'Spirits' as a Technological Model for Human Physiology: The Cases of Marsilio Ficino, Joseph Duchesne and Francis Bacon," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 139–70.

 中世に出現した高度な蒸留技術がいかに初期近代の自然哲学者たちの自然理解を規定したかを論じた論文を読みました。12世紀から13世紀までのどこかで、ワインなどから純度の高いアルコールを蒸留する技術が生み出されます。こうして蒸留された液体は、火によって燃え上がる性質を持っていたために、血液の最も微細な部分であるとされていたスピリトゥス(精気)という医学上の物質と結び付けられるようになり、実際にスピリトゥスという名で呼ばれるようになりました。また高い純度のアルコールが持つ医学上の効用から、蒸留物は「生命の水」と呼ばれるようになり、これが錬金術におけるエリクシルや第五精髄と同一視されるようになります。

 15世紀のプラトン主義者マルシリオ・フィチーノ錬金術師が抽出する第五精髄を、全世界にあまねく行き渡るスピリトゥスと同一視しました。フィチーノは世界を一つの生き物とみなし、蒸留によって得られる物質とは、この世界という身体のなかをくまなく行き渡るスピリトゥス(精気)にほかならないとしたのでした。こうして蒸留技術には宇宙論的な意義が与えられます。ただしフィチーノ自身は蒸留の作業を実際にやっていた節はありません。

 パラケルスス主義者のジョゼフ・デュシェーヌは錬金術を実践する医師でした。彼は人間の体内には蒸留により純度を高められたアルコールと似た生命スピリトゥスがあると考えました。体内のスピリトゥスもまた蒸留過程のようなものを生じさせるため、その過程でときとして体内に時として不純物が生じます。これが病気の原因となるとデュシェーヌは論じました。

 フランシス・ベイコンもまた身体のなかに蒸留技術によって得られるスピリトゥスと同種のスピリトゥスがあると考えました。彼によれば人間が健康を維持するためには体内のスピリトゥスを適切に冷やさねばなりません。そのためには阿片や硝酸の服用が効果的であるとベイコンは論じました。やや効能が落ちるものの、タバコもまたスピリトゥスを冷やし健康を保つのに役立つそうです。

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