13世紀の資本論 大黒『嘘と貪欲』#2

嘘と貪欲―西欧中世の商業・商人観―

嘘と貪欲―西欧中世の商業・商人観―

  • 大黒俊二『嘘と貪欲 西欧中世の商業・商人観』名古屋大学出版会、2006年、51–62ページ。

 フランシスコ会士ピエール・ド・ジャン・オリーヴィ(ca. 1248–1298)によれば、貨幣はある条件を満たすと「資本」という性格を獲得する。その条件とは、所有者が貨幣を用いて利益を生み出すぞと決意し、かつ所有者に利益を生み出す能力がある場合である。こうなると、貨幣は利益を生みだす種子のごとき性格を獲得し、資本となるという。このような性格を獲得した貨幣であれば、資本として売買することが可能である。これにより、貨幣を委託した者は、借りた側が発生させた利益の一部を、正当に要求することができるようになる。これは実質的な利子であるものの、禁止されていた徴利には当たらないという。

 資本を種子になぞらえる理解は、ボナヴェントゥラから来たのかもしれない。ボナヴェントゥラの質料形相論によれば、形相は質料のうちに不完全な形で宿っていて、それを現実態にひきだすのが作用者となる。この不完全な形で宿っている事態を、ボナヴェントゥラは形相の種子的な性格と呼んだ。この理解と、オリーヴィの資本論はパラレルである。種子的に宿る形相に作用者が働きかけて、それを現実化するように、種子的に利益を宿す貨幣に、所有者が決意と能力をもって働きかけることで、利益を現実化するのである。

 こうして、増殖する資本という概念が、質料形相論の枠組みから生みだされたのだった。