「春の椿事」

 日差しのあたたかな水曜の、買いもの帰りだった。見事なパンジーの花壇にひとつ、チンパンジーが咲いているのを見つけて屈みこむと、黒い目がこちらを見ているのが分かった。わたしがじっと見つめてしまったからか、きょろきょろとする。かわいそうに思って、お尻のところからていねいに摘んだ。チンパンジーはするするとわたしの腕を駆け上った。花弁のように軽いのだなど思って感心していたが、目の前にはガクだけを咲かせたパンジーがあり、よその花壇でとんだことをしてしまったと急いで立ち去る。しかし小さなチンパンジーがもぐりこんでしまったレジ袋を左手に持って。