こちらはニセ受験生です

2013-12-31 あきらめと、文体と、それから…

[]あきらめと、文体と、それから… 19:11

園田ダートは荒い

わたしは

すべての他人が

違う顔を持つことを

すこし、恐れる


(藤本哲明「砂」最終連、『現代詩手帖』第55巻3号<2012年3月号>/思潮社、222ページ)



「あきらめ」という言葉で園田競馬場に立つ砂煙を思い出すのは、上に引いた詩が新人作品欄に載ったとき、選者(平田俊子)の評が「藤本さんは一度詩をあきらめたのではないか。獲得した詩の書き方を捨てたことがあるのではないか。そういう人が再び立ち上がったときの静かな気迫。それを藤本さんの作品に感じます」(218ページ)というものであったからで、「谷川君はアルチュウル・ランボオみたいだ。いまに詩すら馬鹿げてるといって書かなくなるよ、きっと」*1からの「私のなかにあった『瞬間の王』は死んだ」「人々は今日かぎり詩人ではなくなったひとりの男を忘れることができる」*2にもそろそろ飽きてきた僕はさっそく“一度あきらめたことがある人”を気取りだしたのですが、しかしそもそも僕はまだ捨てられるほどのものを何も獲得していないし、おまけに砂煙を思い出そうにも園田へ行ったことが実は一度もないのでありました。




内容なんてものは存在しないか、あったとしてもそれに意味を見出せるようなものではなくて、我々に与えられているのはただ文体だけである、というクリアな認識、あるいは諦念を持つのは容易なことではないのです。おまけにそんなことを言っている奴はなかなか銭をふんだくれないという現世的な理由もあるもんですから、僕の「発表」というのは、あたかも砂色の文体からぴかぴかの内容を掘り出すことができるかのように語る山師のそれだったのですが、しかし学位論文だの奨学金だの留学だのを語りながら、一方で同じ大学で開発された自動作曲システム「Orpheus」のコード進行「あきらめ」が脳裏をよぎるのも、また事実でありました。“♪カトゥッルスが年代記燃やしつつウォルシウス馬鹿にした”*3




11月20日に「2014年度以降の障害競走については、2場開催時や主要オープン競走を除き、原則として第3場での編成を基本とし、同日に2競走編成する場合は同一場で編成することといたします」というJRAからの発表があり、ジャンプレースはまた一歩廃止に近づいたのでありますが、そのすぐ後の30日には「イルミネーションジャンプステークス」で最終障害の飛越に失敗して転倒、競争中止したマジェスティバイオ(11年中山大障害、12年中山グランドジャンプ優勝)が右前浅屈腱断裂で予後不良となってしまいました。思えば今年は4月27日にマーベラスカイザー(12年中山大障害優勝)も放牧先で腸捻転のために急死しており、フルゲートなだけで内実はスカスカな「第136回中山大障害」のメンバーをパドック最前列で眺めながら、この世界にもう二度とスターは現れないのではないかというあきらめの気持ちが僕の胸の内に広がっていました。出走馬の中でJ・GIを勝ったことのあるのは、6枠11番メルシーエイタイム(11歳)と同12番スプリングゲント(13歳)だけだったのです。

そして発走。直後、メルシーエイタイムが最初の障害で転倒して競争中止。左第2趾関節脱臼という生死に関わる大怪我*4を負ったにも関わらず、放馬してスタンド前の障害を飛越する姿を僕はこの目で見ました。結局メルシーエイタイムは、通常なら予後不良安楽死というところを、手術して生存の可能性に賭けてみることに。手術は成功し、今のところ経過良好のようです。あきらめないでくれてよかった。

それから、最後のダートコースを横切るあたりで一頭、砂煙を舞わせながら後続をぐっと引き離し、今回圧勝したアポロマーベリック、君は生き延びろ。あの日からそれが君にとっての義務となったのだから。






テレビ朝日が初の年間ゴールデンタイム年間視聴率首位を達成したようですが、そんな中でも年末恒例の特番『ビートたけしの禁断のスクープ大暴露!!超常現象[秘]Xファイル*5の下らなさはいつも通りでした。番組冒頭からいきなり「宇宙人に予約ができる男」宇宙名「武良ラムゥ」さんが登場し、UFOのエンジン音なんだという「きゅんきゅんきゅんきゅん」「ゆんゆんゆんゆん」等の擬音を空に向かって唱えながらUFOを呼ぶ始末。見届け人としてテレビ朝日屋上で立ち会ったいつものニラサワさんも、「彼のその無邪気さに私も最初とまどってしまった」*6と書いていらっしゃるくらいです。

それでもなんとUFOらしきものが出るのですが、これが肉眼で見えるか見えないかの小さな小さな光点(群)なのです。出演者一同が屋上に移動して、みんなで例のエンジン音を唱えます。



なんだこりゃ。

けれどそんな状態でも、武良さんは嬉しそうだったのです。


「おーッ!!たくさんいるな… 全部で8機も飛んでるぞ!!」と、だれもが驚きました。


武良さんは、感激して涙を浮かべています。

私もついつい喜んでしまいました。*7

大竹まこと「良かったね?」「今まで色んな迫害を受けてたんだよね?」「みんなに、家族とかにね、怒られて大変だったんだよね?」*8


しかし武良さんも武良さんですが、一方でUFOをめぐる情報操作やらなにやらの大きな物語をぶちながら、他方であんな小さな光の点を空から見つけようとして目を一生懸命こらす韮澤さんも韮澤さんだと思います。

そして、すでに髪もだいぶ白くなっている2人の男が、やたら窮屈な文体と陰鬱な内容を背負ってしまったUFO神話の総体からはいったん離れ、観念的なのぞみやあきらめは一度捨てて、ただ屋上で砂埃のような粒々の到来を待っている、そのエストラゴンとウラジミールの背中には、なにか感じるところがあったのでした。




内容なんて存在しないも同然で、我々に与えられているのはただ文体だけである、という諦観に到達しうるのが、僕にとっては成年コミックを読んでいるときだけなので、やはりエロ漫画は偉大なのであります。限られた内容の組み合わせの中からどれとどれを選び、それらを陳腐すぎも奇を衒いすぎもしないような文体で処理する職人芸こそがその場では問われていて、僕たちは技術が材料に打ち勝っている*9ことにうっとりとするのです。



そういうつもりで青木幹治『抱きしめなさいっ!』(コアマガジン<ホットミルクコミックス>/2013)を読めば、アタマからシッポまでこれすなわち文体遊びという短編「劇的な夫婦」はもちろん、ちょろいツンデレヒロインというモティーフを展開させた表題作の中編「抱きしめなさいっ!」シリーズも、物語の快楽をどばどば垂れ流してくれていることに気づくはずです。

そもそも、今作ではツンデレが、前作『Only You』(コアマガジン<ホットミルクコミックス>/2011/asin:4864361266)ではもう少し直球な純愛路線が表紙や宣伝文句で強調されていますが、そういう個々の要素はこの作家にとってあまり意味がないのではないかと、ずっと思っています。どちらかというと、それぞれの登場人物が恋だの愛だのを一度あきらめたことがあるような、どこか冷めた表情をしていて、それがメタ的にとらえれば、この種の成年漫画というジャンル自体への懐疑にもなっているところに、僕はこの作家の魅力を見るのです。


さらに言うと、キャラクターたちのあきらめはたいてい確固とした根拠があることではなく、観念的な単なる気分にすぎません。

そんな『抱きしめなさいっ!』の中で唯一、重苦しい背景をもっているヒロインは短編「君の顔が好き」に登場します。「符音風遊(フォンデュ)」という超弩級キラキラネームをつけられていること自体に彼女の生まれた環境が示唆されているのですが、とにかく遠縁である主人公の父方の実家に引き取られた彼女はそこで性的虐待を受けたという、エロ漫画誌をいくつか読めば一定の割合で必ず見つかる類の設定がなされています。

ところがその虐待は、すでに過去の話だというのがポイントです。虐待のさなかから少女を救い出す、という大事件が起きるわけではないのです。物語自体は事後から始まり、就職を決めてやっと実家からヒロインを連れて行こうとする主人公に、彼女は不機嫌そうな顔でこう答えます。

「あなたの罪悪感をなんとかするのに付き合うつもりはないわ/あるいは保護欲か同情か/そういうのを恋愛感情と混同するのってよくないわよ」

(中略)

「あの頃子供だった私たちには問題を解決できなかったし/大きくなる頃には解決すべき問題はなくなってた/それだけの話…全部 今更の話よ」*10

こうして安易なヒロイズムと陳腐なロマンティシズムから距離を置いたこの作品がどういう経過で丸く収まるかについては、実際に読んでみて頂きたいのですが*11、いずれにせよ作中人物が予めあきらめてくれているので、僕たち読者は安心して文体を味わうことが出来るのです。


しかし翌朝、やっぱり不機嫌そうな顔ながら、すっかり家を出る支度を整えて主人公を待つヒロインの姿を、短編の最終ページ*12で見たとき、やはり文体の砂塵の中になにがしかがあってほしいものだ、と思ってしまうのも確かなのでした。




2013年は、春から夏にかけて普通の男の子に戻りたい病にかかり、英国滞在を挟んで秋はいつにもまして元気になれたんですが、年末になってまた逆噴射状態になってきています。

とまれかくまれ、来年もどうせ希望と諦念に挟まれながら生きることになるのは、どなた様も同じでありましょうから、どうぞ引き続きよろしくお願い申し上げる次第でございます。

*1:『谷川雁詩集』(思潮社<現代詩文庫>/1968)所収、安西均「むかしの痣」119ページより、岡部隆介の言葉として。

*2:『谷川雁詩集』(国文社/1960)の「あとがき」より、最初と最後の一文。

*3:カトゥッルス第36番を参照のこと。

*4:今年の阪神ジャンプステークス競争中止し、予後不良となったドングラシアスの故障は右第2指関節脱臼でした。

*5:「[秘]」の正しい表記は「○」の中に「秘」。

*6韮澤潤一郎ブログ「ニラサワ研究室」:「テレ朝上空にUFO出現! 立会報告」http://nirasawa.seesaa.net/article/383315303.htmlより。

*7:同上

*8:番組内の発言を文字起こし。

*9:「技術が材料に打ち勝っていた」materiam superabat opus: オウィディウス『変身物語』第2巻5行目より。

*10:158、159ページ

*11:タイトルがちょっとしたネタバレになってはいるのですがね。

*12:174ページ