しなやかに、したたかに、無責任に・・・西中眞二郎雑記帳

2006-04-23 題詠百首選歌集・その17

 4月下旬とは言え、比較的底冷えのする日が続く。選歌集その17をお届けします。


016:せせらぎ(105〜131)

  (里坂季夜)せせらぎは潮騒になるおしゃべりなきみが無口になる帰り道

  (飛鳥川いるか)春闇を耳鳴りとほく眠るときわれは色なきせせらぎとなる

017:医(100〜125)

  (方舟)聴診器ポケットに入れ鄙の医師爺や婆の愚痴聞きおりぬ

 (田丸まひる)泣き出せばにじむアネモネ 先生と呼ばれたくない女子医学生

 (飛鳥川いるか)樹木医の熱きてのひら千年ののち朴の花となりて匂はむ

 (舞姫)「生きたい」を医者より医王に真剣につたえる静かな朝の薬師寺

020:信号(94〜119)

  (文月万里)信号が青に変わった もうここで引き返そうと決めていたのに

 (ひぐらしひなつ)信号が滲んで見える雨の日の草をふるわすようなくちづけ

 (里坂季夜)ゆっくりと手旗信号振るように言葉をつなぐ モ・ウ・ヤ・メ・ヨ・ウ・ヨ

042:豆(29〜55)

 (水須ゆき子)にんげんの子しか産めないつまらなさ病んだかたちにうずら豆炊く

 (原田 町)甘納豆やたら食べたきことありて電話もひとも誰も来ぬ日は

043:曲線(32〜59)

 (ハナ)何もかも解り合いたい訳じゃないその曲線に直線を挿す

 (水都 歩)大空に飛行機雲が真っ直ぐに地球と同じ曲線描く

 (西宮えり)ももいろのひだをふるわせさよならはスイングバイの曲線にのる

 (翔子)ブレーキを踏みて過ぎゆく曲線のミラーに映る桜と過去と

 (青野ことり)直線と曲線だけでできているこの星にいま点の雨ふる

 (みゆ)柔らかな曲線文字のひらがなが優しさ運ぶ携帯メール

45:コピー(30〜54)

 (暮夜 宴)鮮やかなカラーコピーの夏空を引き千切るたび零れゆく蒼

  (青野ことり) 何枚もおなじ言葉を吐き出してコピー機の声かすれはじめる

 (原田 町)コピー機より出できし紙の温もりを持ちて歩めり花冷えの街

 (みゆ)似なくてもいいとこまでもそっくりで親子のあかし縮小コピー

046:凍(26〜50)

 (animoy2)いつの間に解凍覚え子どもらは個食に走る母を残して

 (花夢)凍えてく心ばかりにとらわれて鳥籠はいつのまにかからっぽ

 (夜さり) 凍て蝶が息絶えてゐる後朝の窓の向かうは有明の海

 (ゆあるひ)端っこの凍ったマグロを頬張れば海の記憶が歯茎にしみる

 (秋野道子) にょきにょきと買い物袋はみだした独活を見上げる凍てついた道

 (野良ゆうき)「解凍」のボタンを押せばすみっこのほうから順に溶けて行く空

047:辞書(27〜51)

 (暮夜 宴)辞書にない言葉を話す少女らの若さこぼれる夜のコンビニ

 (ハナ)眠れない夜が嫌いじゃない君のいついつまでもめくられる辞書

048:アイドル(27〜52)

  (翔子) チクチクと毛糸を刺して固めゆくアイドルの顔自由自在に

  (夜さり)アイドルの昔と今がイグアスの滝壺ほどの落差で映る

 (ゆあるひ)新孫が生まれる度に爺婆のアイドル年譜書き換えられる

049:戦争(26〜51)

 (ふしょー)種の明日を賭けた戦争 蟻たちは人間よりも正義が似合う

 (愛観) 語らない瞳の奥の凪の海深く沈んだ戦争が在り

078:予想(1〜25)

  (美山小助) 予想する 災いごとに 備えてか 離婚届を 握りて帰る

  (船坂圭之介)予想だにせぬ白梅の顕はれて今朝の散歩のあゆみ止めしむ

 (丹羽まゆみ)告げられし余命は予想 ゆふぐれの個室に苺タルト分け合ふ

 (ほにゃらか)予想だにできぬ未来がそこ此処にかくれゐるともわれ米を研ぐ

 (animoy2)うまいこと君の予想を裏切れば澱んだ日常(とき)が弾みはじめる

079:芽(1〜25) 

 (行方祐美)胚芽米のお茶漬けに香る厨辺を真昼が寡黙なひかりを泳ぐ

 (丹羽まゆみ)わが胎はぬばたまの海うまれざる子が芽のやうな手足動かす

 (暮夜 宴) 芽きゃべつの中の小さな神様に「ちゃんと生きろ」と叱られている

080:響(1〜26)

 (ねこまた@葛城) 波の間に響き合いたる船方の声をくぐりてうみねこ遊ぶ

 (みずき)水おとに響く羽音の漲りて 翔(た)つ鳥すでに白き朝靄

 (まつしま)傷ついた今ならわかる響けずに零れ落ちてく音の哀しみ

 (丹羽まゆみ)鉛筆の響きが描きゆくきみの似顔を撫づる海からの風

 (春畑 茜)売られゐるひよこのこゑが響きあふ記憶の初夏の駅のゆふべに

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[題詠百首]