しなやかに、したたかに、無責任に・・・西中眞二郎雑記帳

2006-04-29 題詠百首選歌集・その19

  今日からゴールデンウィーク。もっとも、仕事を離れた身にとっては、常の日と同じことだし、かつての開放感が味わえないのは残念なことだ。勝手な「ないものねだり」には違いないが・・・。

 選歌の対象になる在庫が大分減って来たので、この数日で在庫が増えることを期待しつつ、選歌集・その19をお届けします。


004:キッチン(183〜211)

  (落合朱美)つかのまの逢瀬は街の雑貨屋でキッチンツールを選ぶまねごと

  (黄菜子)キッチンにうつわを洗ふ夜の底ひとひのうれひを流しこみつつ

010:桜(150〜174)

  (癒々) くちきかぬふたりの合間の鉄板に黙って散っている桜エビ

  (なかはられいこ) ほどかれてしんと冷たいてのひらにしずかに満ちる桜の気配

  (今泉洋子)日の辻に男三人(みたり)を誘ひて歌会と銘打ち出羽桜呑む

  (村本希理子)春はやき胸に桜樹のひろがりて枝の先までともるともしび

030:政治(66〜91)

  (新野みどり)新聞の政治欄など眺めずに連載小説読み耽る夜

  (濱屋桔梗)表舞台追い落とされてうなだれて去りゆく姿 これも政治

  (松本響) 雨降りのランチタイムにしたたかな恋の政治がうごきはじめる

  (小原英滋) つぎつぎと政治判断迫る夜スコンスコンと大根を切りぬ

031:寂(59〜83)

 (夜さり)寂寥の壁に言葉は跳ねかへる李朝青磁の壺のくらやみ

 (紫峯)約束を果たせば寂しカレンダー時空をつなぐ扉も開かず...

 (新野みどり)寂しくはないと自分に言い聞かせひとり電車で帰途につく夜

 (秋野道子) 失恋を水辺の街の片隅の寂れたダンス教室に置く

 (佐藤紀子) 暖かくほのぼのとして寂しきは薄紫の母の想ひ出

 (みあ) よもぎ摘む母の背中の寂しさを知るか知らぬか卯月の空は

032:上海(57〜82)

 (野良ゆうき) 路地裏に少年の居て上海のそらは四角い夢のすて場所

 (新野みどり上海の地から流れて辿り着く雲が降らせる今日の粉雪

 (斉藤そよ)似合わないことばこぼれて手拭いでぬぐえばしみる上海ブルー

 (佐藤紀子)上海帰りのリルを見かけたキャバレーにアルトサックス聞きし夏の夜

 (菜の花の道) 上海を語るあなたが眩しくて恋歌ひとつ口ずさむ夜

050:萌(26〜51)

 (暮夜 宴)春だから(そんな理由でいいのなら)手足の爪を萌葱に染める

 (夜さり)青葉の笛・萌葱匂(もえぎにほひ)を忘れねば胸にとほ鳴る須磨海風

 (ゆあるひ)芽吹く春草萌える夏枯れる秋何も無い冬何も無い我

 (ドール)萌え出ずる緑を少しずつ重ね描かれてゆく北国の春

 (秋野道子)萌黄色した半袖のセーターを母に選べばはつなつの街

051:しずく(27〜51)

 (スガユウコ) 「好きなもの選んでみて」と母に言い栗のしずくを探す店内

082:整(1〜24)

 (はこべ) 丹南にとき整いて翁舞い 能のはじまる雪の篠山

 (みずき)整ひし母の函よりありし日の単(ひとへ)と春の予感とりだす

 (春畑 茜) いちまいの鏡に髪の整はぬ四月の朝の混沌は見ゆ

083:拝(1〜25) 

 (はこべ)日想観拝みておりぬ弱法師 うしろ姿に夕陽が赤い

 (みずき)魂(たま)からむ糸の苦しさ拝んでも帰らぬ明日がまた絞めつける

 (丹羽まゆみ)手のひらの音を渡らせ拝む子の背に狛犬の視線やはらか

 (春畑 茜)崇拝のための弥勒の片頬を花時ひとり灯のもとに彫(ゑ)る

084:世紀(1〜25) 

 (行方祐美)新しき世紀も五年生き継ぎて桜のつぼみの柔さにおりぬ

 (船坂圭之介)ひたぶるに生きしよ二十世紀とふ一世(ひとよ)に悔いを多く残すも

 (春畑 茜)世紀より世紀へ渡るみづのうへ春のをはりを花散りやまず

085:富(1〜25)

 (船坂圭之介)ひとひらの恋を拾ひぬ富といふものに縁なき・・されど青春

 (みずき)慟哭の野を富ましめよ追憶は父に抱かれし揺籃のなか

 (ほにゃらか)夕焼け富士の山をも薔薇色に染めてしづかに夜を溶かすらむ

 (丹羽まゆみ)木漏れ日をわれに落として春昼の空に富有柿(ふいう)の若葉ふれあふ

086:メイド(1〜25)

 (みずき) 咲きなづむ切り花を手にメイドなる時間を青きグラスに挿しぬ

 (春畑 茜) 雨に立つメイドの髪はぬれてをり枕辺の灯にひらく洋書

089:無理(1〜25)

  (ねこまた@葛城) 無いものを出せとは無理というものよ色気も悋気もとうに品切れ

 (みずき)無理かさね逝きしは父かかげろふか耳に残れる秋の幽けし

 (ほにゃらか)「無理」といふ答へに何も見えぬ午後 やはらかくなれ まあるくなあれ

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[題詠百首]

黄菜子黄菜子 2006/04/29 23:45 はじめまして。黄菜子(きなこ)と申します。
拙歌を取り上げていただきまして、ありがとうございます。
自己流の詠みで末席を汚していると思います。
お目に留まったことにただただビックリしております。
亀の歩みではありますが、完走できるように頑張りますので、よろしくお願いいたします。

黄菜子様 西中黄菜子様 西中 2006/04/30 00:38 御丁寧な御挨拶恐れ入ります。私も無所属・自己流です。至って気ままで勝手な選歌ですが、お喜び頂けると私の励みにもなります。どうもありがとうございました

今泉洋子今泉洋子 2006/04/30 08:43   拙作を採りあげていただき有り難うございました。西中さまのお作品で、医、コピー、オペラ、告白、砂糖なども題詠ならではの発見がありいいお歌だとおもいました。11,13,25,31,51,64にも印をつけています。難題が多く、完走するのは気の遠くなるような道のりですがぼちぼちいきたいと思いますので宜しく
お願い致します。

今泉様 西中今泉様 西中 2006/04/30 10:31 御丁寧なコメント、厚く御礼申し上げます。御作、ぼちぼち拝見させて頂きたいと楽しみに致しております。

みずきみずき 2006/05/02 12:11 私の拙い歌を、たくさん採って頂き、ただ感動しています。
西中さまに選んで頂くことが、どれだけ励みになったか知れません。心から厚く御礼申し上げます。
選歌以外のページとても重厚で、いつも拝読しています。緻密な人口移動のデーター、凄いです。
西中さまのポリシィに共感すること多々です。、これからもずっと楽しみに読ませて頂きます。
今後とも宜しくお願いします。

みずきみずき 2006/05/02 12:21 ↑、書く欄を間違えました、選歌集20の方へ書いたつもりでした。はぁ?
慌てもの、恥ずかしいです。

みずき様 西中みずき様 西中 2006/05/02 14:10 過分な御評価頂き,恐縮しております。みずきさんの素晴らしい作品にいつも敬服しております。「人口移動」と言えば、この百選に「市町村人口動向気になるは我も一種のおたくなるべし」との腰折れを投稿しましたが、私の正直な気持です。ところで、みずきさんはぐっとお若い方だと想像していたのですが、「匂」の歌から見るとそうでもないような気がしないでもありません。それとも実生活とは関係ない「創作」なのでしょうか。余計なことをお尋ねして申し訳ありません。別に御返事を「強制」しているわけではありません。今後ともよろしくお願い申し上げます。

みずきみずき 2006/05/02 16:34 はーい、有難うございます。もう孫もおります。西中さまと同世代です。ぜんぜん、なんであります。短歌の方は我流の5歳児くらいです。ということで、宜しくお願いします。

みずきみずき 2006/05/02 16:56 「匂い」の母は、33歳で夭折した生母のことです。
「美」の八十路の母は継母のことです。それに気がついて、八十路なる義母(はは)と訂正再投稿しました。

みずきみずき 2006/05/02 17:16 拙歌へ過分なご評価いただきまして、本当に嬉しく有難うございます。お陰です。
素晴らしいブログ、また立ち寄らせて頂きます。よろしくお願いします。

みずき様 西中みずき様 西中 2006/05/02 17:29 御丁寧な御返事ありがとうございました。思い起こしますと、そちらの「掲示板」に私の名前を発見してお邪魔したのが対話のはじまりだったかと思いますが、その掲示板から受けた印象から、まだ20代の方だと思い込んでおりました。「お若いにもかかわらず、豊かな短歌的情感(?)をお持ちで、表現もこなれている」と思っていたのですが、御返事伺って納得致しました。それにしても、蓄積の中にも若々しさをお持ちの御作が多く、あらためて感服致しております。腰折れを一首。「若き人と思いていしが孫を持つ人と知りたり それもまた良し」。失礼しました。今後ともよろしくお願い致します。

みずきみずき 2006/05/02 18:16 恐れ入ります。気分だけは、とっても若くはしゃいでおります。
恥ずかしいです。