しなやかに、したたかに、無責任に・・・西中眞二郎雑記帳

2010-03-08 題詠100首選歌集(その11)

          選歌集・その11


011:青(87〜112)

(穂ノ木芽央) 果てのなきゼブラの道を追ひかける青信号は点滅のまま

(橘 みちよ)群青のラピスラズリの玉に触る死者の額撫で別れし日のごと

(すいこ) それぞれの瞳に棲む色は違うからただ詩を紡げ夕焼けの青

(珠弾) 青ざめた騎手に応じて鞍下の鹿毛も瞳を曇らせている

(A.I) 青柳をぬたに沈めてひとやすみ 陶器の匙の白やわらかき

(鳥羽省三) 青子とふ祖母の名見ゆる過去帳に見せ消ちのあり紙魚喰ひの在り

012:穏(76〜109)

(さむえる)語らいはふた言三言静穏な夜が更け行く暦の終り

新田瑛) 平穏に生きたいのですこころから まちはみどりの埃積もらせ

(青野ことり) 穏便に済ませつづけてきょうはこのピースをどこに嵌めこめばいい

高松紗都子)行きましょう春は名のみの寒さでも喫水線が穏やかならば

(橘 みちよ) 保護されし熊鷹の眼は挑みくるこの安穏に慣らさるるなく

青木健一)穏やかな春の陽だまり古書店背表紙朽ちた革命年鑑

(鳥羽省三) 穏やかな日和でしたと妻は言う長女桃子の七回忌の夜

(牛 隆佑)穏やかな日であるさては戦争が始まるのかと覚えるほどの

(本間紫織)穏やかな光を知った おかあさん今日からわたし妻になります

013:元気(68〜98)

原田 町)正月は帰れないよの電話のみ息子元気と思ふほかなし

秋月あまね) 決心の言葉の軽さ「元気で」にいともたやすく挫かれている

(リンダ) 「おかあさん」と上手く言えずに泣いた子が「おかん元気か?」と逢うたびに言う

(青野ことり)起きぬけに船底にいる心地して 元気なふりはしないですごす

(A.I) 元気かと聞かれて頷くしかなくて靴先で蟻踏みにじりつつ

014:接(64〜93)

新井蜜)接点はまうないのだと諦める後ろ姿を見掛けたときも

原田 町) 交接のかたちのままに凍らせたアオイトトンボの標本を見き

中村成志) 争いの終わりて帰る道なれば接尾語のごと月は従う

015:ガール(61〜88)

野州青空にとどけと跳ねるスカートの丈も短し恋せよガール

(さむえる) 重力を持たぬ世界の夢を見る恋人たちのマルク・シャガール

016:館(57〜82) 

(氷吹郎女)地図見つつ沈没船のお宝を探す気分の図書館の地下

梅田啓子)日曜の雨の図書館みな黙しひとりの時間をとり戻しゆく

(リンダ) ひとり見る映画館にて夢想して帰途は悲劇のヒロインである

(藻上旅人) この坂の上の館の飼い犬の声が遠のく月曜の午後

(駒沢直) 夕暮れの図書館で見る稲光 君は近頃本を読まない

新田瑛) 書架を見上げながら歩けば図書館の一部となって過ごすひととき

023:魂(27〜54)

(コバライチ*キコ)器にも魂ありぬ春の菜を盛れる白磁が清(すが)しさを増す

(翔子)魂を恋に吸はれたともだちの苦悩の底に小石投げたし

(船坂圭之介)夕さりて他界のひとを想ふとき離ればなれし魂(たま)の相倚る

(氷吹郎女) お互いに秘めた魂胆さぐり合い確かめ合って不敵に笑う

(周凍) こころより遥かに遠くおよばざるいのちよりなほあはき魂

(行方祐美)ほんはりと春の魂あるならむ萌花すこやかに明日ひな祭り

024:相撲(26〜56)

(わたつみいさな) わたしらしく在りたくなんてない午後に紙相撲する犬を見ている

(アンダンテ)ゆび相撲する子ら笑い声ひびく ひだまりのなか風だけ二月

(綾瀬美沙緒) 光らない 液晶見つめ 泣き笑い 一人相撲の 夜は更けゆく

025:環(26〜51)

(綾瀬美沙緒) 痩せた胸も 指環の跡も 吾なりと 少し震えて 君の前に立つ

(周凍)春の夜の霞か雲か月の環のけぶりてあかき山ぎはの色

026:丸(26〜53)

(綾瀬美沙緒) 夜空から 丸を描いて 舞い降りる 君の吐息に 似たなごり雪

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