アレック・ロス『20世紀を語る音楽』2

アレックス・ロス『20世紀を語る音楽』(2)

 2冊目はヒットラーの音楽観から始まり、2000年までの音楽を語る。冷戦時代の50年代ブーレーズとケージの音楽、バーンスタインブリテンの音楽、60年代のメシアンリゲティの作品から「ベートーヴェンは間違っていた」というミニマリズムの音楽さらに武満徹ジョン・アダムズのオペラ「ニクソン・イン・チャイナ」まで扱っている。読み応えがある。これを読むと20世紀はヨーロッパ古典・ロマン音楽が脱構築され、インド・アジア・アフリカ音楽と混合し、さらにクラシックとポピュラー音楽の境も曖昧になり、電子テクノロジーも導入されたが、この多くの流れが果たして西欧古典音楽を乗り越えたかは疑問である。多くの実験音楽の時代といってもいい。未来にどういう音楽がでてくるかは定かでない。
私が面白かったのは冷戦と50年代の戦後派の前衛としてのブーレーズメシアンの過激な音楽である。クラシックの伝統は、使い古されたキッチュであり、その脱構築として偶然性まで作曲に入れられる。ケネディ時代12音音楽と「万人のための音楽」とが極端にわかれ、後者はバーンスタインの「ウェストサイド物語」であり、そこにはビバップ、ラテンのリズムとともに後期ロマン派のマーラー的スタイルがあるとロスは言う。ロスは英国の作曲家ブリテンに一章を割き、作品「ピーター・グライムズ」「ヴェニスに死す」を論じる。ブリテンの同性愛が(コープランドも)音楽にどう影響したかの考察も面白い。鳥の鳴き声を作曲に取り入れたので有名なメシアンは、多面性・世俗的なものから崇高なものに一瞬に移る秘密が解き明かされる。70年代のミニマリズム音楽に、ロスはイーノの言葉「反復は変化の一形式」を引き、自然への回帰としている。とすればCM音楽こそミニマリズムだ。
ロスによると21世紀のひとつの可能性は、最終的な「大融合」だという。ビートルズコルトレーンからビョークまで。2005年ジョン・アダムズの最初に原爆実験をあつかったオペラ「原爆博士」は、20世紀の多様なスタイルを並べ、原爆の朝の畏怖と恐怖を呼び起こす。(みすず書房柿沼敏江訳)