ミル『自由論』

「自由論を読む②」
J・S・ミル『自由論』

 近代自由主義の基本になった本である。現代アメリカのリベラリズム思想の基本になっている。ミルの自由主義は二点からなる。一つは「公・私」二分割の考えだ。個人の私生活と私的行為の領域は「自分にしか影響を与えない部分こそが、人間の自由の固有領域」ということになる。そこで自由に自己決定し潜在能力を可能なかぎり、調和的に好きなものに「成長」させる自由があり、幸福を得るという理想的個人主義がある。二つは「他者危害原則」というもので、他者に危害や迷惑をかけないため社会の公共的領域(政治や法)に原則に「自由が従う」社会干渉の面とである。ミルの時代と違い現在では「私的のものは政治的である」(ケイト・ミレット)で公私二分も崩れ、生命倫理、介護の社会化、児童虐待家庭内暴力、など私的領域への社会干渉が進んでいる。ミルもこの本で、最後の2章で個人の私的領域への社会の権威的干渉を考察しているが、歯切れが悪い感じを受けた。
 ミルの自由論で力を入れているのは、「思想と言論の自由」と「幸福の要素としての個性」である。個人の自由の原点は、その個人の生き方、考え方の自由な思想・信条の形成であり、意見表明の自由である。その多様性が社会に活力を与える。真理は相対的であり、人間は間違いやすいから、多様な意見を論議・討論していくことが重要視される。その場合、社会の体勢の意見の順応である「多数の専制「「世論の専制」をミルは自由を阻害するものとして避け、少数派や「変人」の意見の重要性を指摘し、それが自由の根幹と考えている。多数の専制はトックビルの思想を、大衆社会の世論への従属の危惧はオルテガの思想を連想させる。
ミルが幸福を快楽や利得などのベンサムの「効用」思想よりも、個人潜在能力の最大化による「個性」を重視したことは、アマルティア・センの経済思想の先駆者だと私は思った。(『自由論』斉藤悦則訳、光文社古典新訳文庫『自由論』塩尻公明・木村健康岩波文庫