トッド・チャン・中野剛志ら『グローバリズムが世界を滅ぼす』

トッド・チャン・中野剛志ら『グローバリズムが世界を滅ぼす』

  フランスのトッド、韓国のチャン、日本から柴山桂太、中野剛志、藤井聡堀茂樹の各氏が語り合った本である。5氏ともグローバリズムに危惧を抱き、自由貿易批判者であり、新自由主義経済学に対する抗議では一致している。国民経済を守り、どちらかというとリスト経済学に近い国民経済保護主義だと思う。
   グローバル化で国による多様性はなくなり、民営化、行政改革規制緩和、緊縮財政、関税や輸入制限撤廃、輸出を増やし、外国人に門戸開放、株や資産の保有比率を増やし公益事業まで外資導入するというような、政府にたいする「黄金の拘束服」がおきると柴山氏はいう。5氏ともグローバリズムは経済成長を阻止してしまうし、雇用の流動化や労働者失業、賃金停滞を招き、不安定化させるという点では同じ見方である。
   さらに格差社会化が進み、1%の富裕層が20%の所得を持つという社会が作られるとも見ている。国内だけでなく、金融による先進国と途上国の格差も広がっていくともいう。
   トッド氏は、自由貿易主義は国民と国民の販路を求める熾烈な戦争になるといい、EUが隣国同士の経済戦争を引き起こし、結果ではドイツの覇権による不平等な階層的共同体になってしまったと指摘する。さらにトッド氏は、アメリカはいまや自由貿易を信じていず、国家を利用する企業界と利権誘導が重視され、疑似ネオリベラリズムに成っていると分析している。
   5氏ともグローバルな新自由主義が、政治家、官僚、知識エリートに長期的目的を喪失させ、無責任な統治の放棄になる「劣化」が起こっていることを憂えている。中野氏によると、「保守主義」は新自由主義と結びついて死んだという。
   だが、脱グローバリズムや脱自由貿易・脱新自由主義を果たすとしても、この本では将来の見取り図がなかなかつかめなかった。国内で統制されたグローバル化は可能なのか。果たして保護貿易ブロック経済圏の復古思想で解決できるのか。国民経済は、鎖国モンロー主義ではもはや再生できないのではないか。もしトッド氏のいうように、少子化や高齢化がグローバリズムによって生じるとすれば、解決するのもグローバルな連帯でしかないのではないかとも思った。(文春新書)