川端裕人『「研究室」に行ってみた』

川端裕人『「研究室」に行ってみた』

   この本で取り上げられている研究者は、文理の壁や枠を突破した自由な研究精神の持ち主である。外国の研究室で学び、フィールドワークや実験など「冒険心」を持つ。川端氏が描いた6人の研究者像は、魅力的である。
   前野ウルド浩太郎氏は、アフリカ・モーリタニアのサワラ砂漠にいる野生のサバクトビバッタの研究をしている。このバッタが大量発生すると農産物などに大被害を与える。その駆除のためにも、前野氏のバッタ生態研究は重要だ。バッタの「孤独相」と「群生相」の相違や、その卵も接触することにより相変異する。サワラ砂漠で研究するには、バッタだけでなく、語学、文化、宗教の「教養」の必要性を前野氏は述べている。
   高橋有希氏は、カリフォルニア大学バークレー校在学中、宇宙物理の博士課程の研究のため南極点の基地に4年連続10カ月滞在した。その後民間企業スペースX社に入り、ダラゴン宇宙船開発にたずさわる。「宇宙」と「冒険」に生きる高橋氏は、大学の研究者や企業のエンジニアとも違う新しい研究者だと川端氏は見る。宇宙飛行を望んでいる。
   飯田史也チューリッヒ工科大バイオロボテック室長は、生物にヒントを得たロボット研究をしている。脳だけでなく、脳が体中に分散し、条件反射で歩く昆虫など生物のようなロボットを作る。二足歩行には人工知能のアイデアが詰まっており、さらに3Dプリンタを操り、自己成長する究極なロボットも手掛ける。
   理化学研究所森田浩介氏は、17年間かけて、地球に存在しない周期表元素113番の超重元素を創り出した。大林組エンジリニアリング本部の石川洋二氏は、地球から上空10万キロのカーボンナノチューブのケーブルを直立させる「宇宙エレベーター」を構想している。それが鉄道のレールの役割をする。地上3万6千キロに静止軌道ステーションをつくるこまで具体化してきた。
  地理学者・堀信行氏は、従来の地理学でなく、人と地面、地形の総合的な把握を目指し、サンゴ礁の分布の現地調査から,熱帯雨林の土壌調査研究(ラテライト)から、そこで生活ヌバ山地民族研究という民族学まで行き着く。文理融合の研究者である。川端氏は、研究の最前線では、これまでの文系、理系の意識はなくなってきていると指摘している。面白い本だ。(ちくまプリマー新書