岸見一郎『アドラー 人生を生き抜く心理学』

岸見一郎『アドラー 人生を生き抜く心理学』

岸見氏は哲学者だが、20世紀精神医学のアドラーの心理学を重んじるのは、ソクラレスやプラトンの思想が根底にあるためだろう。フロイトとの出会いと決別を読むと、その相違がよくわかる。いま何故アドラー復権しているかも。
フロイトがリビドー(性的欲求)と、過去の体験の原因決定論悲観主義的、エディプスコンプレクス重視に対し、アドラーは劣等感―優越感、未来への変革としての目的論、楽観主義的、共同体感覚などを重視する。
アドラーは、人間の人生に「意味付け」と「共同体感覚」を重んじている。「意味は状況によって決定されず、われわれが状況に与える意味によって自ら決定する」という人生に意味をみつけることがライフスタイルを作り出すという。その弟子だったフランクルに似ている。神経症を、①私には能力がない②能力とは人生の課題解決に立ち向かい、他者に貢献する③人々を私の敵と思うというライフスタイルという。価値は、他者を支配せず、依存せず、課題解決をすることだとアドラーはいう。
自分の執着を超えて、自分が他者になにか貢献できるかを重んじる「共同体感覚」は、個人の自立と相補的な価値心理となる。岸見氏の本でも他者への貢献感が、神経症に陥らない価値とされている。
岸見氏によれば、戦争は人と人を反目させるから共同体感覚の対極だというフロイトは、「死の本能」を考え、自己破壊衝動があり、生得的に他者を攻撃する本能とした。アドラーの他者を、「仲間」とみる見方と違う。アドラーは理想価値をもつ。フロイトは隣人愛は文化の制止命令にすぎない。
アドラーは甘やかされた子が、自己中心性になりやすく、他者に注目され、評価され、承認欲求が強いという。支配と依存の二重性。アドラーは個人の独自性と他者との共生をいかにつくるかを、優越でなく対等関係で、貢献を承認されなくても、自己価値としておこなうことを、教育論として述べている。
アドラーは自分に与えられた課題解決に楽観主義で立ち向かうことを「勇気、率直さ、信頼、勤勉」などの性格特性として選び、自分の課題が解決できずと逃避する悲観主義を「臆病、小心、自己を閉ざす、不信」として、変革の教育を推奨している。死や困難に対し、連帯のなかで生の喜びの今ここで生きるアドラーの精神医学は、現代でも興味深い。(NHKブックス)