2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』

高野秀行・清水克行『世界の辺境とハードボイルド室町時代』 高野氏は「謎の独立国家ソマリランド」の著者で、世界各地の辺境に滞在し、ノンフィクションを書く。清水氏は、「喧嘩両成敗の誕生」など書いた民衆史の日本中世史学者。辺境ソマリランドと室町時…

金子勝・児玉龍彦『日本病』

金子勝・児玉龍彦『日本病』 経済学者と生命科学者の共著らしく、経済市場と生命の複雑なシステムを多重な制御原理によってどう周期性をもって動くかを解明しようとする。さらに生命や市場の周期性が「病気」に陥った時の治療という「予測の科学」を目指そう…

石巻プロジェクト『石巻学』

石巻学プロジェクト『石巻学』(創刊号) 東日本大震災から、もうすぐ5年になる。政府による復興新興都市の姿が、石巻にも均質な形を生み出している。だが、記憶・歴史・伝統をもった個性ある地域都市という文化復興がなおざりにされてきた面がある。歴史や…

鶴間和幸『人間・始皇帝』

鶴間和幸『人間・始皇帝』 東京・上野の東京国立博物館で、今「始皇帝と大兵馬俑」の展覧会が開かれている。音声ガイドの壇密氏は、始皇帝の埋葬時の思いやりや、あの世への思いを当時の人が自由に表現した最上級の偲びという。(「朝日新聞・2016年1月…

シェリー『鎖を解かれたプロメテウス』

シェリー『鎖を解かれたプロメテウス』 英国ロマン派詩人シェリーの詩劇である。30種以上の詩型を駆使したというが、残念ながら、訳詩で読むから私には、その格調の高い響きはわからない。だが、石川重俊氏の重厚でありながら、抒情に満ちた訳詩でも、興奮…

四方田犬彦『テロルと映画』

四方田犬彦『テロルと映画』 私たちはテロリズムの時代に生きている。四方田氏は、映画がいかにテロを描いてきたかを、9・11米国テロを中核に置いて考えている。この事件が既視感をもって迫ってきたのは、ハリウッドのパニック映画に似ているからだ。 四…

砂原庸介『民主主義の条件』

砂原庸介『民主主義の条件』 衆院議長の諮問機関「衆議院選挙制度に関する調査会」は、1月14日に小選挙区6人、比例区4人の定数削減を答申した。一票格差の最高裁判決「違憲状態」を受けたものである。18歳選挙権とともに、今後の選挙制度は大きな転換…

乗松亨平『ロシアあるいは対立の亡霊』

乗松享平『ロシアあるいは対立の亡霊』 ソ連解体以後のウクライナ危機までのロシア現代思想を、探究した力作である。乗松氏の問題意識は鋭い。1991年冷戦終結により、東西対立、資本主義と共産主義の二項対立の亡霊が復活し、1968年の権力対反権力の…

上岡伸雄『テロと文学』

上岡伸雄『テロと文学』 アメリカ9・11テロは、21世紀の幕開けに起こった。その影響は現在まで続いている。アメリカ文学者・上岡氏は、テロ暴力の持つ圧倒的力、映像や音声を駆使したマスコミやノンフィクションに対し文学は無力だが、一過性のメッセー…

草野隆『百人一首の謎を解く』

草野隆『百人一首の謎を解く』 国文学者・草野氏は、多くの謎が百人一首にはあるという。いつ誰が何のためにという基本から、不幸な歌人の歌が多く、「よみ人しらず」はなく、実績無い歌人が収録され、有名歌人も代表作が入っていない謎がある。当時流罪され…

武井弘一『江戸日本の転換点』

武井弘一『江戸日本の転換点』 武井氏は、江戸時代を水田稲作を中心に持続可能なエコ・循環経済としてとらえ「日本近世型生態系」と考えている。その上で17世紀から18世紀にかけての日本列島改造としておこなわれた新田開発が、表層的には収穫量が増え、…

難波和彦編『建築家の読書塾』

難波和彦編『建築家の読書塾』 重要な現代建築思想いや現代思想の読書会で、建築家が読み解き、東大名誉教授・難波氏が総括していく。モダニズムからポストモダンを経過して、建築からデザイン、都市論まで中核となる考え方が浮かび上がり、3・11東日本大…

中島みゆき『中島みゆき全歌集』

中島みゆき『中島みゆき全歌集』 私は。昼カラで中島みゆきの「宙船」が好きで詠う。作詞もいい、詩人としても優れていると思う。(1875年―1986年)と(1987年―2003年)の歌集を読んだ。 初期は「別れ歌」や「恨み歌」といわれたが、それは…

三上修『身近な鳥の生活図鑑』

三上修『身近な鳥の生活図鑑』 拙宅の小さ庭にも、多くの鳥がやってくる。柿の実を残しておくと、色々の鳥がついばみに来る。だが私は、あまり生態にくわしくない。三上氏の本は、身近にいるスズメ、ハト、カラス、ツバメ、ハクセキレイ、コゲラの生態を観察…

クロウトヴォル『中欧の詩学』

クロウトヴォル『中欧の美学』 クロウトヴォル氏はチェコの美学者・評論家である。中欧ヨーロッパの文化論である。とくに20世紀20―30年代第一次共和国を中核に論じている。第一次世界大戦後ハプスブルグ帝国の解体以後、民族自立で民族諸国家に分裂し…

小説トリッパー編集部編『20の短編』

小説トリッパー編集部編『20の短編』 現代日本の作家はどのような短編を書いているのか。日常の孤独な人間がいかに「他者」と分かり合える・繋がりあえるかというテーマがある。他人の痛みを知り、自分の恵まれたことを分かち与える。 29歳の時芥川賞を…

吉村武彦『蘇我氏の古代』倉本一宏『蘇我氏』

吉村武彦『蘇我氏の古代』 倉本一宏『蘇我氏―古代豪族の興亡』 偶然なのか2015年12月に6−7世紀古代の豪族・蘇我氏の本が同時に出版された。ヤマト王権で繁栄をきわめた栄光の豪族・蘇我氏が、大化の改新(乙巳の変)というクーデタで滅亡した歴史の…

矢部宏治『戦争をしない国』

矢部浩治『戦争をしない国』 副題に「明仁天皇メッセージ」とあるように、明仁天皇のお言葉や行動の戦後70年の軌跡を追って書いている。この矢部氏の本を読み、私は日本国憲法をもっとも忠実に体現しているのは、象徴天皇そのものだと思った。民主主義と天…

マアンクーゾ『植物は知性をもっている』

マンクーゾ+ヴィオラ『植物は イタリア・フィレンツェ大学教授で植物学者マンクーゾ氏の研究による、植物は「知性」をもつという面白い本である。地球の多細胞生物の99・7%は植物で、人間・動物は0・3%にすぎず、地球は植物支配の「緑の星」である。…

柄谷行人『坂口安吾と中上健次』

柄谷行人『坂口安吾と中上健次』 「知性と闘争の文学」といわれる坂口安吾と中上健次を論じた柄谷氏の文学論である。この評論は1996年に出ているが、80年代以降こうした文学は見かけなくなったといえる。 だが、坂口や中上の再評価は起こっていると思…

加藤浩子『オペラでわかるヨーロッパ史』

加藤浩子『オペでわかるヨーロッパ史』 オペラには、近世ヨーロッパ史を扱った歴史オペラ・グランドオペラが多くある。加藤氏が、史実と対照させ、検閲やフィクションでいかに史実が変えられていったかを丹念に描いていて面白かった。私はこの本を読みながら…