ベン・アフレック『夜に生きる』


いやこれすげーよ。今こんな映画撮る人いる?

これポール・トーマス・アンダーソンじゃん…って思ってたら、エル・ファニングの凄まじい演技が炸裂して…『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のダニエル・デイ=ルイス、『ザ・マスター』のフィリップ・シーモア・ホフマンを挙げてしまいたくなるほどとんでもないことになっている。そして役者はどの人も最高。クリス・クーパー、ラストの姿が完全に「REPENTおじさん」だ…と思って見てた(なんじゃそりゃなんだけど本当にそうなっている)。

確かにちょっとひっかかるところはある。例えばナレーションの使い方とか、豊かな経済をもたらす多様性最高!という主張とか(確かにそうなんだけど、めっちゃグローバリズムじゃん、というか)。でもそれを圧倒的なカメラワークと画の構図、演技でなぎ倒されていくと、いつの間にかとんでもないところまで連れてかれている…。例えば銃撃戦の音の処理やカメラの動かし方、暴力の見せ方なんかを見てしまうと、THE BATMANをベンが監督してよ〜という気持ちになってしまう。

『アルゴ』や『ザ・タウン』や『ゴーン・ベイビー・ゴーン』以上に、明らかにジャンルを越境的に作ってて、複数の映画が1つの作品の中に盛り込まれてる。

でもその"複数"性は整理されておらず、そのものとしてゴロッと提示される。映画なんだからリニアに繋げれば一つになる、と言わんばかりの豪胆さ。そしてあまりに唐突に挿入されたと思ってしまう、あるクソ野郎への罵りのシーンはまさに『ベン・アフレック 怒りのデス・ロード』…。

整理されてなさ、は例えば、同じようなシーンが繰り返し描かれるところにもあって、それは、それなりの地位を確立した男たちが、弱みを突きつけられ狼狽し崩れるシーンで、だがそれはこの作品のクオリティによって、ただの雑さではなく、最早作品の作り手が自分に取り付いたオブセッションを語らずにはいられない過剰な振舞いのように思えてしまう。

あとどうしても思ってしまったのは、例えば編集のテンポや画の繋ぎ方なんかが特に顕著なんだけど、これもしかして、北野武監督作品なのでは???と。そう考えると、妙ちきりんな質感も腑に落ちてしまうというか…。KKKの白い頭巾と燃え盛る十字架を映し出すカット(超絶やばい!)に、『龍三と七人の子分たち』の遺体や米軍基地が現れるカットを思い出した。何かとんでもないものを見せられてる感(そしてそれに一切の躊躇を感じさせない)、というか 。