トレドの広場で(西班牙と葡萄牙 其ノ二十)


トレドはタホ川に囲まれた岩の多い丘に築かれていて、要塞都市としてはこの上ない条件に恵まれていた。いまここは古い町並みと遺跡の残る観光都市で、ヴェネツィアとおなじく車では入れず、入り組んだ路地があり、狭い道をあちらこちらさまよっているうちに広場へと出る。
永井荷風は『日和下駄』で、東京の西洋まがいの建築物、ペンキ塗りの看板、痩せ衰えた並木、至るところ無遠慮に立っている電信柱と目まぐるしい電線の網目を挙げ、これらにより静寂の美を保っていた江戸市街の整頓は失われたと嘆いたが、トレドはその反対で、極力かつての町並みの保存に努めることで世界中から観光客を呼んでいる。
狭い道をあるいていると、各所で建物のあいだからランドマークである大聖堂が見える。正面から見るのとは違った趣がある。小さな広場へ出て近くのカフェに座り、のどをうるおした。わずか半日のトレドだったので夜の町が見られなかったのが惜しい。