チンパンジーの「死」の意識

科学誌「カレント・バイオロジー」にチンパンジーが仲間の「死」に接した時の振る舞いを観察した研究が2件載ったそうな。

【4月27日 AFP】人間に最も近い霊長類とされるチンパンジーについて、人間と同じように「死」に接していることを示す2つの研究結果が26日、米科学誌カレントバイオロジー(Current Biology)上で発表された。
1つは、スコットランドのサファリパーク内の小さな群れで暮らすチンパンジーが、高齢の雌チンパンジーが死に接した際の行動を観察した研究で、もう1つは、野生のチンパンジーが自分の子どもが死んだ後もミイラ化した遺体を数週間にわたって持ち運び続けていたことを明らかにした研究。
サファリパークでの調査を行ったチームを率いた、英スターリング大学(Stirling University)のジェームズ・アンダーソン(James Anderson)氏は、「われわれ人間と他の種との境界は、これまで考えられてきたように明確に区別できるものでは決してないということを、科学が証明した」と述べた上で、「死の意識は、そうした心理的現象の1つだ」と語った。
アンダーソン氏によると、「チンパンジーが死んだ、もしくは死にかけている仲間への対応」についての観察結果も考慮すると、チンパンジーがもつ死の意識は恐らく、通常考えられているよりもより高度なものであることを示しているという。

■母親の遺体のそばで一晩過ごすチンパンジー
アンダーソン氏らの研究によると、高齢の雌チンパンジーが死亡する数日前から、仲間のチンパンジーは静かになり、この雌チンパンジーに対する気遣いを見せていたという。死亡する直前には、仲間のチンパンジーが毛づくろいを行ってあげたほか、まだ生存していることを確認するために何度も抱きかかえたりしていた。
その後、雌チンパンジーが死亡したら群れは遺体から離れたが、その直後、その雌の娘である大人のチンパンジーが遺体のそばに戻り、そのまま一晩を明かしたという。
アンダーソン氏は、「チンパンジーは死に対する宗教的観念や宗教儀式などは持っていないけれども、死にかけている仲間に対するチンパンジーの行動に、人間の同様の行動との類似性を確認することができた」と語った。

■ミイラ化した子どもの遺体を持ち運ぶチンパンジー
2つ目の研究は、英オックスフォード大学(Oxford University)のドラ・ビロ(Dora Biro)氏率いる研究チームが、アフリカのギニア・ボッソウ(Bossou)周辺の森林にある半孤立化したチンパンジーコミュニティーで行ったもの。
ビロ氏によると、子どものチンパンジーが死亡した場合、母親のチンパンジーは遺体を数週間、時には数か月にわたって持ち運んでいたという。持ち運んでいる間に遺体はミイラ化してしまったが、母親はまるで遺体が生きているかのように、どこへ行くにも遺体を持ち運んでいたという。
その後、母親は徐々に遺体を手放し始め、他のチンパンジーが遺体を扱うことを許した。他の子どものチンパンジーが遺体で遊ぶ姿も見られたという。(c)AFP

野生チンパンジーの母親は、子供が死んでミイラになってもそばに置いて生前とほぼ同じように接することを、京都大学霊長類研究所松沢哲郎教授(比較認知科学)らの研究チームが初めて発見し、27日(日本時間)付の米科学誌「カレント・バイオロジー」に掲載された。子供に対する母親の愛情が死後も変わらない証明といえ、研究チームは「チンパンジーの死生学の解明の一歩になる」としている。
研究チームは、1976年から、ギニア共和国の山に住む約20頭のチンパンジーの群れを観察。約30年間の観察期間中、2頭の母親の子供3頭(1歳〜2歳)が呼吸器系の伝染病などで死亡した。
その後、母親2頭が死後19〜68日間、死体をそばに置いて毛繕いをしたり背負って移動するなど、ほぼ生前と同じように接しているのを確認。ミイラ化するまでの死後約2週間は強い腐敗臭が漂っていたが、嫌がる様子は見られなかった。
最終的に子供の死体は、母親が木に登る最中などに誤って落として見失うなどしたといい、故意に捨てられることはなかった。
研究チームは「死んだ子供を引きずるなど、生きた子供にはしない行為も見られ、死は理解しているとわかる」と指摘。その上で「子供が死んでも愛情を注ぎ続ける習性が確認された。同じ群れの他のチンパンジーも子供の死体に攻撃的な行動をしないなど、母親の行為を理解していた」としている。

これを読む限り、チンパンジーは仲間の死を理解して上で行なった高次行動なのか、チンパンジーが死んだことを認識できずに抱き続けていたのかどうかはっきりしないような気がする。

P.S.

仲間の死に接した動物がどう振る舞うか観察記録がモーリス・バートン著「動物に愛はあるか」という本に多数あげられている。