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2007-04-17 (Tue) 文明崩壊

このところずっと忙しくてろくに本も読めず、活字禁断症状で手が震えて幻覚も見えそうな勢いだったので、久しぶりにまともな本を読んで充電。

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)

『文明崩壊』はジャレド・ダイアモンドによる、文明が崩壊してゆくメカニズム考察したベストセラーである。昨年、氏の前著『銃・病原菌・鉄』を読んでとても感銘を受けたのでこちらも読んでみることにしたのだが、前著に負けずこちらも抜群に面白い。

この本の根底にある問いはこうだ。

「ひとたび栄華を極めた社会が、どうやって崩壊の憂き目を見るに至ったのか?」

本書では、マヤ北米アナサジ、ノルウェーグリーンランドなど、数々の文明とその崩壊について考察している。その中でもとっつきやすいのは第2章のイースター島の事例だろう。

イースター島と聞くとモアイばかり思い浮かべるが(どう考えてもコナミの功罪だ)、このイースター島の事例からはそれよりも遥かに深遠な物語を読み取ることができる。イースター島総体的に描けば、これは世界的にみても森林壊滅の最も極端な事例であるようだ。なにしろ、森林が丸ごと姿を消したうえ、全種の樹木が絶滅したのだ。本来は背の高い樹木と低木の茂みからなる亜熱帯性雨林の島だったと聞けば尚更のこと驚きである。

かつてイースター島では11あるいは12の領地に土地が区分されており、民族間の闘争を経てある程度統合されていたらしい。モアイは身分の高い先祖の象徴であり、時とともにその大きさが増していったという事実から、敵対する首長同士が互いに相手の石像に負けまいとして競い合った様子をうかがい知ることができる。

しかしながら森林の乱獲が続いたため、結果として島民に襲い掛かったのが、原料の欠乏、野生食糧の欠乏、作物生産量の減少という事態だった。そこから波及して飢餓が始まり、突発的な人口の激減を経て、最後には人肉食(カニバリズム)へと堕していくことにさえなったという。17世紀後半には、モアイ建築競争の内容が、より大きな石像を建築することから、敵対する氏族の石像を引きずり落として破壊する行為に変わっていく。こうして、人口重要建築物、環境への侵害が最盛期に達した直後に、イースター島社会は崩壊したとみられる。

さて、本題はここからだ。なぜ、イースター島は崩壊したのか?森林の破壊が樹木の再生を上回る速度で進んだのはなぜなのか?島民は何も気付かずに島の環境破壊し続けたのか?

この問題には人間社会の行為のみならず、環境面の脆弱性などの数多くの要素が絡み合っている。それらに対する考察こそが本書の醍醐味であり、その要素を総合的に俯瞰することで、急速に崩壊する社会のありようが鮮やかに描き出される。

そして著者はイースター島と現代の世界との共通点を指摘している。

イースター島と、総体としてみた現代の世界との間には、瞭然たる共通点がある。現在地上にあるすべての国々は、グローバル化、国際商取引、ジェット機インターネット恩恵によって、イースター島の多数の氏族たちのように、資源と意識とを共有している。先住ポリネシア人時代のイースター島は、現在宇宙における地球のように、太平洋のなかで孤立していた。イースター島民には、窮地に陥ったときに逃げる場所もなければ助けを求める相手もいなかった。わたしたち現代の地球人にも、事態の深刻さが増したときに頼っていける先はない。だからこそ、イースター島社会は、わたしたちの前途に立ちはだかりかねないものの暗喩として、最悪のシナリオとして、わたしたちの目に映るのだ。

私達の属するこの豊かな社会にも、いずれそいういう運命が降りかかるのだろうか?今日のわたしたちが鬱蒼たる樹林に覆われたマヤ文明諸都市の古蹟を眺めるように、いつか後世の旅人が、ニューヨークの摩天楼の朽ちゆく姿に見とれる日が来るのだろうか?

科学の発達した現代社会に生きる我々にとってみれば、いくらなんでもそんなことはありえないと思うかもしれない。自分も最初はそう思っていた。だが本書を読み進めるにつれ、私は自身の考えに幾らかの楽観論があったことを自覚することになった。高度な科学技術を持つ我々は優れているので大丈夫だ、という慢心は見る目を曇らせる。

イースター島環境破壊し、ひいてはその社会破壊するのに、石器と腕力だけを持つわずか数千人の島民で事足りたなら、金属製の道具と機械の動力を持つ数十億もの人間が、もっと過激な自滅の道をたどらないとどうして言い切れるだろう?

しかしながら、本書はその暗い題材から陥りがちな悲観的な展望ではなく、そこから学び取ることができる解決策を模索して未来へと目を向けている。過去の文明がなぜ崩壊したのかの理由を知ることで、現代に生きる我々は失敗しない道を選ぶことができるはずである、と。

過去の失敗の原因を深く考察することによって、わたしたちも、過ちを正し、将来の成功へと歩を進めることができるかもしれない。

詳しい現地調査と、著者の生物学地理学に関する豊富バックグラウンドを土台に語られる本書の内容は、紙面の上でありながら現地の情景が目に浮かぶように表現豊かである。そしてまた同時に、各章の内容から導かれる鋭い考察も一読の価値があると思う。

我々に必要なのはテクノロジーではなく、過去から学ぶ姿勢を失わないことだ。