The Equalizer 3-5 「再会」 その2

 
タイトルの後、カメラはマンハッタンのあるアパートメントに切り変わり、棚に飾られている写真とトロフィを順番に映していきます。BGMに "Alenoo" のピアノ版がさりげなく流れます。この映像と続くシーンで、主要登場人物のバックグラウンドが語られるのです。

ピーター・キャピック博士(マイケル・モリアーティ)とこのアパートメントに住む夫妻の三人は、大学で同級生だった。夫のウェイン・ジェニングズ(ジェイミー・シェリダン、Law & Order: CI のディーキンズ警部です。髪はまだ黒い)はアメリカ人、いまは大学教授をしている。妻のアレナ・ポリブカはチェコの元テニス選手、両親とともにアメリカへ亡命してウェインと結婚している。(アレナのモデルはマルチナ・ナブラチロワ選手でしょう・・・ちょっと美人すぎますが。)

オープニングでロシア人ボディガードから逃走したキャピック博士はウェインのアパートメントを訪ねてくる。自分が生涯をかけた研究を悪用しようとする勢力から逃れるため「こっちに永住するつもりで来た」と明かします。(この再会シーンで、博士はアレナのことを「アレヌー」と呼んでいます。)

ここから、博士を亡命させようとする国務省と、彼の研究成果を西側に渡すまいとするソ連の争いになります。アメリカ側は博士をホテルにかくまう。しかしマタ・ハリみたいなKGBの女スパイが登場し、アレナの両親が誘拐される。アレナは両親の命と引き換えにピーター・キャピック暗殺に協力するよう強要され、マコールに助けを求める。これがストーリーの核。

もうひとつの核がピーター、ウェイン、アレナの関係。大学時代、ピーターもウェインもアレナを愛していたが、アレナはウェインを選んだといういきさつがあります。彼女は、いまだに自分を愛している男を殺さないといけなくなるわけです。

アレナの苦悩が頂点に達するのが、モリアーティがピアノを弾く場面です。ある夜、ピーターが保護されているホテルの部屋を訪れたアレナ。女スパイから渡された毒薬を隠し持っています。"Alenoo" はピーターが若い頃にアレナのために書いた曲、それを一緒に歌ううちに二人はキスするのですが・・・ ピーターはそれ以上何もしないで、二人で乾杯することを提案します。

スリボビッツ*1のグラス(実はアレナが毒を入れた)を挙げながら、ピーターは自分の気持ちを語る。

When you make a commitment, you have to follow through with it. I wish it had been me, but it wasn't. I can't ask you to betray the trust.
いちど立てた誓いは、守り通さなきゃいけない。その相手は僕であってほしかったが、そうはならなかった。きみに信頼を裏切らせることはできない。

アレナには辛い言葉です。何をしようが、誰かを裏切ることになる状況なのに。彼女は緊張に耐えきれずにピーターの手からグラスを叩き落とし、泣きながらすべてを告白する・・・

「星の炎」とは反対に、ドラマとしてのクライマックスの後にスパイ・ストーリーのクライマックスがあります。マコールがアレナの両親を助け出し、ピーターを狙った女スパイをウェインが射殺(のちの警部の腕前はさすが!)。マコールはコントロールの助けを借りて博士に新しい身分を与え、「誰も知らないどこか」へ船で送り出します。これで、博士は西側にも東側にも利用されることはない。"Alenoo" がふたたびBGMで流れる中、彼はアレナとウェインに「またいつか会おう」と言って去っていきます。



最後のお別れのしかたは、セティにもちょっと通じるものがあります。(「星の炎」その5を参照)

このシリーズの魅力のひとつに、クライム/スパイ・ストーリーに加えて、人間ドラマがきっちり書き込まれていることがあると思います。「星の炎」では宇宙人セティと少女アンバーの友情に、マコール自身がセティに入れ込むというおまけまでついていましたが(笑)

あと、モリアーティの“わがまま”がところどころに現われているのがなんか可愛かったです。国務省の人間に、「ピアノを弾きたいから」ってわざわざホテルの部屋まで調達させる博士もそうですが、このホテルの玄関が映ったところをみると、キャノピーに Westbury Hotel と出ているのです。これはモリアーティが自分の小説で主人公を出没させている場所のひとつ(「J.C.カミナー」を参照)、お気に入りホテルと思われます。景色からするとミッドタウンのようです。地図を見るとセントラル・パークまで1ブロックですが、ドラマで部屋から公園を見晴らせる設定になっているのは本当かな?という感じでしたね。
 

*1:東欧のすももブランデーです