時子のパタゴニア便り

1994年パタゴニア アンデス山脈の麓の村の5’5ヘクタールの土地に移住。ささやかな自然との暮らしの中で感じた事を書いていきます。

「ひきわたす未来」

Río azul リオアスール。直訳すると「青い川」ですが、私は「透き通った川」と頭の中で意訳しています。アンデス山脈からお隣のチュブット州のプエロ湖に流れ込んでいて、流れが速く冷たく、水も底が見える程透き通っていました。夏には川沿いのキャンプ場に多くの人が訪れ、ラフティングやカヌーが出来、アンデス山脈登山には長い木の吊り橋を渡って行かなければなりませんでした。勿論歩いて川を横切る事は出来ませんでした。
でもそれは全て過去形となりました。アンデス山脈の山頂の氷河がどんどん後退し、降水量が減ってくると、川は水かさが減りました。
町から歩いて行くには遠いので、観光客の少なかった頃は、夏に友人が来るとお弁当を作って、車で行って、半日を川沿いでのんびり過ごしていました。でもエルボルソンの観光地化が進むにつれ、自家用車で行く人も、タクシーなどを使って行く人も劇的に増え、私は行かなくなりました。
暑い日が続いた先日、久しぶりに友人を案内して行ってみました。以前は藪や林だった所に、不法滞在の家が建っていたのに驚き、車の多さに驚き、土道にモウモウと舞い上がる土煙に驚きましたが、川に着いて流れを見た時、その水量の少なさにもっともっと驚きました。
それでも水が流れ、木のある場所は心が落ち着きます。お弁当を食べ、ゆっくりしていた時、1人の男性が川の中央に行って、鉄の棒で川底から大きな石を持ち上げ、浅瀬に運び始めました。
何をしているんだろう?金探しでもなさそうだし、石のコレクションでもないし…。
気になって、川の中で遊んでいた友人の子に、「おじさんに何をしているのか聞いてきて」と頼みました。
子供でも歩いて行ける程水量が減っています。彼女がその男性のところに行って話をすると、彼は川岸にいる私たちに向かって「ラフティングのボートが通れる様に川底を深くしているんです」と大声で答えてくれました。
短い夏になるべく稼ごうと、町で山で湖で川で、いろんなツアーが用意されています。ラフティングも人気ツアーの1つです。それが水量の減少で、ボートが川底の石に引っかかる様になったと言うのです。と言うか、この水量ではラフティング自体が難しくなっています。以前は冷たくて入れなかった川も、今年は猛暑が続いたので、川の入って遊ぶことができます。
都会から避暑に来た人達は自然の中で楽しい日々が過ごせたと満足して帰って行きますが、見えない所で大きな変化があるのだと改めて気が付き、恐ろしくなりました。
冬に40年ぶりの大雪が降り、初夏まで割と雨が降って降水量も増えたと安心していましたが、それだけじゃ回復出来ない程、自然は悲鳴を上げているのかもしれません。
あの轟々と流れる川を知らない子供たちは、今の現状を当たり前と思って育つのでしょう。変わらない事なんて何も無いけれど、それが「良くなったね!」とみんなが言える様な変化であって欲しい、そう言う未来を引き渡して行くべきだと思いました。


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