羊飼いの暮らし

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季

イギリス湖水地方で今も続く伝統的な羊飼いの暮らし。
よく考えてみると「羊飼い」という仕事は子供でも知っているメジャーなものなのに、具体的になにをするのかあまりイメージが沸かない。牛や鶏だったらなんとなくわかる・・・でも羊だとあのモコモコの毛を刈るだけ?それ以外はなにしてるんだろう?

そんな疑問に答えてくれたのが美しい装丁のこの本、ページをめくれば羊飼いの暮らしの一片に触れることが出来る。
夏・秋・冬・春という4つに分かれた章は詩的でありながらノンフィクションの面白さ。自然と動物を相手にした仕事は過酷で、「仕事=金銭を得るための行為」そして「仕事=効率を求めるもの」になりがちな現代とは少々勝手が違う。残業代なんて出ないし、そもそもタイムカードなんて無い。仕事が生活に密接にかかわっている、関わっているというか生活そのものが仕事と言ってもいい。労働、それもタフな肉体労働でありながら、著者ジェイムズ・リーバンクスはこの仕事に大きな魅力を感じ、誇りをもっている。

羊飼いの家系に生まれた著者は当然のように大人になったら立派な羊飼いになることを夢見て成長するが、父親との確執(思春期特有のやつ)から勉強を始めオックスフォード大学へ入学する。一度、離れたからこそ客観的に語ることができる農場の暮らし。他人からは低くみられがちな仕事でも当人にとっては厳しくも楽しい天職だということは多々ある*1。名も知らない先祖から脈々と受け継がれてきた技術と知恵、そして羊。同じような1日、同じような1年を繰り返してゆく日々にふと感じる自然の美しさ。季節の移ろいや夕日に染まる草原。家族全員が協力しなければ太刀打ちできないから必然と強くなる家族の絆。帰属意識という自己肯定感は今の時代には貴重なものなのかもしれない。

そして、そんな羊飼いへの想いとともに語られる羊飼いの仕事。
ただ、羊を放つだけではない。健康を管理して、質を向上させてゆく。干し草ロールを作ったり、雪のなかで立ち往生した羊たちを助けに行ったり・・・頭の中は羊でいっぱい。このあたり、アリステア・マクラウド*2やソロー*3が好きな人*4にはたまらないとおもう。

もちろん、楽しいこと良いことばかりではなく伝統と改革とのジレンマや、湖水地方の現実と内部の乖離なども触れられていますが、こうやって情報を発信できる人が居ると、未来はずいぶん明るいような気もする。ちなみに著者のツイッター↓がこちら。イギリスの羊飼いのツイートが日本にいて読めるってすごい時代!羊と牧羊犬たちがかわいい。
Herdwick Shepherd (@herdyshepherd1) | Twitter
2017年にこういう生活をしてる人が居るというのは、なんだか勇気を貰える。地元への愛、仕事への愛、家族への愛にあふれた素敵な本でした。エコラの毛布を出すときにまた読み返そう。

ジャケ買い→大当たりだと喜びもひとしお。

*1:

斧・熊・ロッキー山脈: 森で働き、森に生きる

斧・熊・ロッキー山脈: 森で働き、森に生きる

前に読んだトレイルドッグのクリスティーンもそう。

*2:

彼方なる歌に耳を澄ませよ (新潮クレスト・ブックス)

彼方なる歌に耳を澄ませよ (新潮クレスト・ブックス)

*3:

森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫)

森の生活〈上〉ウォールデン (岩波文庫)

*4:つまり私