医療過誤事件

医療過誤事件にはいろいろな特殊性があります。まず,専門家訴訟であること。被告となる医師はいわゆる専門家でその分野の専門的知識を有し,カルテや医学文献や統計データなどの証拠類を独占的に保有しています。また,個人の医師であっても医療過誤に備えた保険に加入している場合が多く,保険会社が持つ情報量は膨大です。これに対して,原告となる患者は一般人であり医療の素人で,カルテすら自分では見たことがないと言う人がほとんどです*1から,専門家の情報量の前に圧倒されてしまうことも多いと思います。また,原告につく代理人も医師ではありませんから,往々にして素人原告団対プロ被告団という対決構造になりがちなのです。ですから,代理人活動も情報不足を解消し,アドバイスをくれる専門家を捜すということが先決となります。本当の素人考えでは太刀打ちできないというのが実状なのです。ところが,アドバイスをくれる専門家を捜すのがまた一苦労です。医師の世界には出身大学や医局と呼ばれる組織を中心とした学閥のようなものがあり,例えば,大阪大学出身の医師の医療行為について,大阪大学出身の医師が論評することはなかなか出来ないことのようです。問題の医療行為を論評し,アドバイスをしてくれる別の医師が見つかって初めて,同じスタートラインに立てるのが,医療過誤訴訟事件です。

*1:最近は個人情報の開示と言うことでカルテが開示されるようになりましたが,かつてはカルテは「医師の物」と考えられ,カルテを患者が参照することすら抵抗された時代もあります