ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ このページをアンテナに追加 RSSフィード

2012-02-08

マーズ・アタック!

 そこは先輩の部屋。僕の家にきた宇宙人と同じ宇宙人が二体、先輩と何か話している。火星人だ。

「だって俺の場合さぁ。この惑星(ほし)に生まれてさぁ」先輩は両手を後ろにつき、体育の時にリラックスした男子高校生のような体勢でいながらも、心は戸惑っているのがポテトチップスの食べこぼし具合でわかった。

「どうしてですか。火星いいですよ。赤くてきれいだし」

「だからさぁ、行かないよ。大体あんたしつこいよ」先輩は火星人を指さした。「俺は地球が大好きなんだよ。四季もあるし」

「そんな四季でおして来られても。出たよ。ていうか、いっつも変わり目に文句言うじゃないですか」

 火星人の方も先輩を指さしたので、先輩は明らかに気分を害したようだった。火星人の指はギンビス・アスパラガスビスケットのようにヒョロヒョロしており、ペンだこが出来ていた。

「なんでだよ、別に文句言ったことなんか無いよ」

「今年の風邪は鼻に来るとか言ってるくせに」

 先輩は一瞬黙ったが、こたつを両手で叩いて叫んだ。

「それは関係ないだろ!」

 その音と声、飛び上がったみかんに火星人の連れがビクッと体を震わせた。特にみかんに驚いたようだ。こっちの火星人は赤いリボンをつけており、メスである。

「あ、ごめんね」先輩は片手を上げて、ちらちらメスの方を見て謝った。「にしても、火星人ってのはみんなこんなにわからず屋さんなのかい。人にものを頼む時の態度ってものが……あっ、あちあち、下半身が!」

 どうしたのだろう。大騒ぎの先輩は小さく二回、尻だけで飛び上がってから、慌ててこたつをめくりあげた。中は真っ赤っかになっていた。

「火事場コントかよ!」

 先輩はやけに丈夫なコードのついたコントローラーを手さぐりで探したが、ないようだ。

 やったな、という目で火星人を見る先輩。そして、火星人のとこの布団をめくりあげた。

 火星人の細い指が1から8までの数字がナンバリングされたクルクルにかかっている。人ん家のこたつの強さを勝手にマックスまで上げた決定的証拠を見られても、火星人は落ち着き払った様子で、口から何か白いものをチュルチュル出した。どうやら、それが余裕しゃくしゃくの印らしい。

「わからず屋さんはこっちの台詞だよ」火星人は突如としてタメ口になった。「ぼやぼやしてないで火星に来ればいいじゃんか。黙って素直に。こんな人類初のチャンス無いよ。そこをわからない奴と会話していたのかと思うと力が抜ける。いつまでもくだらないスカした文句言って……うだうだ言う前に、来い! 火星に!」

「いやだ」

「うだうだ言う前に、来い! そんな気持ちで、こたつをフルパワーにさせてもらったんだ」

「自分たちだけ事前に足を抜いてなんて奴らだ」

「それだけじゃない。この省エネ時代に電気代をも莫大に消費させる。それがこのマーズ・アタックの恐ろしさだ」

「B級映画じゃねーか!」

「ジャック・ニコルソン出てる」

「うるせー! だいたいずっと失礼なんだよ。もう帰ってくれよ。俺は地球人だよ!」

 火星人は真顔になり先輩をじっと見つめた。先輩も負けじと、火星人の引き締まった細い首にいっぱい入った筋をじっと見つめている。どうして負けじとそんなところを見ているのか。

「失礼か……」火星人は急に顔面から力を抜いてつぶやいた。「それは確かにそうだ。お詫びの印というわけでもないが、お土産を持ってくるからちょっと待っててくれ。持ってくるのを忘れていたんだ」

 火星人は立ち上がって、メスに向かって手を出した。

「キー」

 メスは慌てて振り返り、後ろに置いていたピンク色のポシェットから青色のでかい鈴やキーホルダーがついた鍵を取り出した。チリンチリンと鈴が鳴り、ジャラジャラと高い音がにぎわう。キーには、完全にTOYOTAをパクったと思われるマークがついていた。受け取って、火星人は出て行った。

 先輩と火星人のメスが二人で残され、何やら気まずいような、よくある雰囲気になっていく。先輩は目を合わせようとしないで、部屋のあっちこっちに目をやったり、物を取ったり置き直したり、やたらポテトチップスを食べて、そしてこぼしている。

「火星のお土産ってなんだろうな」しばらくして先輩が半笑いで言った。

「ゴーフル」メスが答えた。

「へぇ……」

 会話が続かない。僕は、先輩、男としてどうなんですか、という思いもあったが、自分の立場を考えるとどうすることもできなかった。

「火星にもゴーフルってあるんだぁ」

 先輩、なんてくだらないことを言うんだ。そんな、何にもならないことをどうして言ってしまうんだ。火星人相手とはいえ、いつまでもそんなことを言っていたら男を下げてしまう。

「寒くない? 平気?」

「ええ……大丈夫」

 またしばらく静かになった。すると、火星人のメスが首をすくめて恥ずかしそうに手を前に伸ばし、上目遣いで先輩を見た。

「私は、あなたに、火星人になって欲しいの」火星人は強調した。

「えっ」

「あなたが好き…だから……」

「で、でも俺は地球人で、君は火星人で――」先輩は平静を装うとしていたがダメ、てんてこ舞いになって手に取ったポテトチップスを握りつぶした。

「こっちを見て」

 火星人のメスは、いや、火星人の女は、体を起こすと先輩をなんともいえない不思議な瞳で見つめた。微笑むような、憂うような、全てを包み込むような熱い眼差し。

 そして、おっぱいが丸出しになっている。実は来た時からずっとそうだったのだ。これがまたいいおっぱいなのだ。

 先輩は火星人の情熱的な瞳に釘付けになりながら、おっぱいの吸引力で黒目を下に引っ張られ、ぐらぐら振動させた。

 見かねた火星人の女がおっぱいをそっと両手で持ち上げた。

 ああ、ああ、エロい! 先輩の口が震えて開いた。先輩、ダメです。先輩!

 僕は隣の部屋でモニターを見つめながら叫ぼうとしたが、不思議な薬を飲まされて、声を出すことが出来ない。

 先輩、ドッキリなんです! しかも火星人の! これじゃ、これじゃ僕の二の舞だ! ダメです! その乳首には不思議な薬が塗られていて……先輩、あっ、う、うわーーーーー!

2012-01-25

社長の息子マジックショー

 社長の息子(二階堂)は前に出てくると、吉野家に通い慣れた人のような横柄な態度で教室のみんなを見回した。真ん中あたりに座っているノブヒコは、両肘を突いて不穏な顔。その憎きダブルのスーツをじっと見つめていた。

「社長の息子です。ではマジックショーを始めます」

「ほら、みんな!」

 先生に促されるようにして拍手が起こり、社長の息子はうんうんと頷き、両手を前に出した。そしてそのまま前に歩いていって、一番前の小島君のところまでやって来た。

「僕が合図をすると、小島はもう動くことが出来なくなります。ハイいくよ、ズンズンズンズンズンズンズズン」

 ミスターマリックのテーマを口ずさみながら、社長の息子は片手を内ポケットに突っ込んだ。それからその手を抜くと、机の上にたたきつけた。バシンと大きな音がした。そして、小島君は動かなくなった。

 いや違う、小島君の右手だけがまだ動いている。ノブヒコを含むクラスの何人かが、小島君の右手と二つにたたんだ一万円札が、一緒になってポケットにすべりこんでいくのを目撃した。

「ジャンジャジャーン」

 社長の息子は、拳を握った両手をあげて少し横に引く動きで、一つ目のマジックが見事成功したことを示した。また先生をはじめとして、拍手が起こった。

「小島ぁ、マジかよ。お前本当に動けないのかよー!」

 教室の後ろの方から石井のいぶかしげな声が飛ぶ。

「う、動けないー」

 小島君は言った。

「す、すげーな!」

 石井はそこで初めて大きな拍手をした。

「じゃあ次、その石井君いっちゃおうかな」

「まじで!」

 社長の息子は石井の方にずんずん歩いていく。ノブヒコは社長の息子が横にきた時、すっころばしてやろうと足を出した。社長の息子はそれをまたいだところで、ノブヒコの方に首を回して、すぐに戻した。小さい声で言った。

「よしてよ。亀山君」

「嘘つきめ」

 社長の息子は何も言わず、そのまま歩いていった。唇を真一文字に結んだノブヒコのことを、隣の的場さんが心配そうに見つめている。その視線に気づくと、ノブヒコはこんな時でも少しドギマギしてしまうのだった。

「石井君、じゃあいくよ」

 みんなに背を向けるような場所に立つと、社長の息子は石井に語りかけた。その時、石井の「えっこんなに」という小さい声が、また何人かに聞こえた。

「石井君は、ひっくりかえったカブトムシになる!」

 石井の声をかき消すように、社長の息子は大声を出した。みんな、マジックを見ようと、椅子の上に膝で立った。

「ズンズンズンズンズンズズン」

「う、うわー!」

 石井はそのまま椅子ごと倒れてひっくり返った。そして、勢いそのまま椅子から放り出されると、床に仰向けに寝転がり、肘と膝を内側に曲げて、一斉に上下へ動かし始めた。

「起こしてくれー。お願いだー」

 感心するような声がところどころから上がった。「トリックだ」が口癖の石井が、ここまでどっぷりマジックにかかってしまうとは予想外だ。

 ノブヒコだけは、その様子を見ずに、座って前を向いていた。しかし、拍手が起こり始めると、怒りに任せて立ち上がった。イスが飛んで、後ろの席にぶつかる大きな音。

 一瞬にして静まった教室をノブヒコは石井のところまで歩いていった。社長の息子は、それを避けるように石井のそばを離れた。

「嘘だろ石井君! おいてめえ石井!」

 ノブヒコは石井の頭のそばに立ち、のぞきこんで声をかけた。

「か、亀山ー。お願いだ起こしてくれー。俺はカブトムシだー。子どもたちの茶色いアイドルだー」

「まだ言ってんのかよ!」

「樹液」

 それから石井は目を閉じて黙った。

 パン、パン!「みんなこっちに注目!」

 社長の息子の声と手を叩く音で、ノブヒコも、みんなもそっちへ振り返った。石井がひっくり返っているちょうど対角線上の席、その机の上で、花形君がビートたけしのギャグ、コマネチの動きを繰り返していた。

「やばい。止まらないよ。コマネチが止まらないんだ。よせよ二階堂君、ほんとによせって! 二階堂君、まったく!」

「花形君……学級委員長の君まで」

 ノブヒコは立ち尽くした。コマネチを見てこんなに沈んだ気分になってしまうなんて初めてだった。花形君は視線を逸らして斜めに俯いたが、コマネチは決して止まらなかった。

「みんな、本当にこれでいいのかよ」

 ノブヒコはみんなを見回してから、足元でカブトムシになっている石井を見下ろした。手と足はまだ動いていた。

「先生、こんなこと、許されるんですか」

 小川先生は女の先生でまだ二十代と若く、生徒にからかわれてしまうタイプだった。カーディガンの一番上のボタンをいじりながら、小川先生は二歩、前に出た。

「あのねえ、亀山君。なんでも疑ってかかるのは先生、よくないと思う。心の目で物事を見るように、4月に約束したはずね」

 ノブヒコは黙り込んだ。

「二階堂君のマジック、凄いと思わない? どうしてそんな態度を取るの。先生は、飼育係をしている時の亀山君の目がキラキラ輝いてて、大好きなんだけどな」

「そんなこと今関係ないだろ!」

 ノブヒコは先生に近づいていった。すると、先生の動きが止まった。いや、少しだけ動いている。

「亀山君、先生、動けないわ」

 先生は震えながら、なんとか社長の息子、二階堂の方を見て、そっちに向けて手を出した。

「やめなさい、二階堂君、先生にマジックをかけるのはやめなさい」

 社長の息子はその瞬間、サッと先生に向けて手をかざした。

 ノブヒコは、川を渡ろうとしたら仲間がワニに食べられた草食動物のような悲しげな目になって、そこで立ち止まった。そして言った。

「先生、一つだけ聞かせてください。先生はどうして小学校の先生になろうと思ったんですか」

 ノブヒコが言い終わらないうちに、先生は、今完全に動くことも喋ることも出来なくなった、とでも言うように、やや下を向き、目を見開いたまま、ロボットダンスのような体勢で「かは」と言い、一切の動きを止めた。

 実を言うと、ノブヒコには、先生の机に厚みのある茶封筒が置いてあるのはずっと見えていた。最初は板チョコかなとも思ったがすぐに思い直した。ノブヒコは孤独な戦いになることを承知で立ち上がったのだ。

「先生はそのお金で何を買うんですか。まったく、日本の教育は腐りきっている」

 そこまで言っても先生は、大人の本気のパントマイムを続けていた。

 そして、ノブヒコは席に戻っていった。全身の力が抜けたような気がして、このあとの給食当番がだるかった。

「ていうか、マジックじゃなくて超能力か催眠術じゃないか……」

 ノブヒコは、机の端におでこだけを乗せ、頭を腕で囲い、床をじっと見ることで5年2組の全てをシャットダウンした。そして、自分だけの世界へ帰っていった。その世界では、ノブヒコの大好きな恐竜たちが全員うつむいて歩いていた。今、ノブヒコの心はかつてないほどやさぐれていた。

 いつの間にか、社長の息子が近寄ってきていたらしく、すぐ近くで声が聞こえた。

「僕の家の会社は既に一部上場しているよ。ウサギだ。的場さんはウサギになります。ズンズンズンズンズンズズン」

 少しして、ノブヒコは隣でがたがたと椅子が動く音を聞いた。

 的場さんは、ノブヒコからはそれが見えないが、頭の上にウサ耳代わりの手をつけており、その左手(左耳)から今もらった三万円がはみ出している。ノブヒコに見えるのは的場さんの細くしなやかな腰から下だけだった。

 的場さんの最初のウサギ跳びで、机の横にかかっていたノブヒコの道具袋が的場さんの足に引っかかった。道具袋がもっていかれるのがノブヒコにも見えた。的場さんは気にする様子も無い。

「ピョンッ。ウサギがピョンッ」

 ウサギを演じられているかどうか不安になったのか、的場さんはそう言うと同時にもう一度跳んだ。ノブヒコの道具袋が勢いよく戻ってきて机の足にぶつかり、ガチャンと大きな音がした。

 わからない、わからないけど、とうとうノブヒコの目から涙がこぼれた。

2012-01-23

自分の好み

 生かしておいているやつで一定のクオリティのありそうなものは1日1個のせていきます。

ませてないガキから退場

 既に、鼻血を出してぶっ倒れてしまった子供たちが何十人も医務室に担ぎ込まれていた。残っている子供は、五人。各々、やや斜めを向いて腕を組み、野球帽のツバを後ろに向けたいわゆるスケベかぶりで、鼻の穴をふくらませている。

「パンチラ」

 スタジアムの上の方に設置された非常に音質のいい巨大スピーカーから、おじさんの声が飛び出した。

 残された五人の子供たちは、それがどうした、全然興奮しないぜ、という顔をして、手を頭の後ろに組み、口笛が吹ける者は口笛を吹いた。さすが、ここまで勝ち残ってきただけはあって、どんどんエッチになっていく言葉にも、誰一人、鼻血を出すことはなかった。

 間違いなく、この五人の中に本物のマセガキが、いる。

 そしてまた、スピーカーから声が響き渡った。

「2連続パンチラ」

 同じく余裕の態度を見せるマセガキ候補達だったが、その時、「た、たまんねえ」と声を出して、一人が下を向いた。

 それは、パンチラ大好きヒロキだった。パンチラ大好きヒロキの鼻からは、タラリと鼻血が垂れていた。

「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」

 判定員がやって来て、赤い旗をあげて叫んだ。場内からため息がもれた。

 パンチラ大好きヒロキはパンチラが大好きで、パンチラを崇拝するあまり、公の席ではきちんとパンティーチラリと正式名称で呼ぶのである。パンチラの感想文を書くときは、パンティーチラリ現象とする念の入れようだ。

 パンチラ大好きヒロキは、上を向いてティッシュを鼻にあてながら、スタッフに支えられて退場していったが、途中で、残された四人の方を振り返った。

「俺はここまでだが……誤解しないでくれよ。俺は二連続パンチラ、二回連続でパンティーチラリする幸運に屈したわけじゃねえ。お前らはわかってないかも知れないが、今のはただの二連続パンチラじゃなかったんだ。つまり、その前のソロ・パンチラ・ホームランと合わせて、1+2のパンチラ・ターキーだったのさ。2度あることは3度ある、なんてパンチラには通じねえ。だって普通、1回チラリしたら注意するだろ。それが3回……この国はどうなってんだ。そんな起こっちゃいけねえ奇跡が、今、現実に起こったんだ。人知を超えれば鼻血も出るさ。まさか、俺のパンチラ好きがあだになるとはな。キング・オブ・マセガキにはなれなかったが、これで満足だよ……だって、優勝したら、ミサコちゃんにケーベツされちゃうからな……」

 他の四人は、その後姿をじっと見ていた。ソロ・パンチラ・ホームランとかターキーとか、何をわけのわからないことを言っているんだ。でも、パンチラ大好きヒロキ、お前は大した奴だったぜ。そして、ジェントルマンだった。お前は決して、どうせ隠すならミニスカートをはくな、とは言わなかった。なぜならお前は、隠してもいいからミニスカートをはいて下さい、というへりくだった考えの持ち主だったから。

 しかし、感傷に浸っている暇など無かった。

「ボインちゃん」

「や、やべえ。モーレツ!」と叫んで鼻血を出したのは、ボインマスターケンタロウだった。

「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」赤旗が上がった。

 ボインマスターケンタロウは、世界遺産を訪れるよりもボインを優先する考え方で、この前、学校遠足で牧場に行った際の乳しぼり体験で、ただ一人、終始ドスケベな顔をしていたという厚顔無恥と想像力で広く知られている。そして、ボインを絵に描く時は、普通の小学生なら完全な円を描いてしまうところを、半円。それほどボインに造詣が深いのだ。

「不意打ちのボインちゃんはやばすぎるだろ。心臓が止まるかと思ったぜ……。しばらく何も食べてなくていきなり味の濃いもん食べたら胃がびっくりする、あれのボインバージョンさ……。でもよ、ギネスブックに乗るようなメガトン級ボインあるけど、もうあれボインとかそういう問題じゃねえ、し……。うう、あと……俺がボインに夢中なこと、お母さんには内緒な……ていうか、お前らのお母さんにも言っちゃダメなんだぜ……だって…お母さん同士で情…報……交換が……」

 そこでボインマスターケンタロウは気を失った。

 残された三人は、担架に乗せられて運ばれていくその姿を見送った。ボインマスターケンタロウ、お前は本当に、真のボインマスターだった。一番好きな擬音であるゆさゆさを班の名前にしようとして女子から猛反対されたこと、決して忘れないぜ。

 そして、しばらく静かになった。次なるスケベな言葉を待っている緊張感に耐え切れず、観客が二人倒れた。その小さな騒ぎの中、次の言葉が発表された。

「バカ殿」

「あふっ!」鼻血をふきあげたのは、今回の優勝候補と目されていた、むっつりオールラウンドシンジだった。会場がどよめいた。

「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」意外な展開に、赤旗も心なしか勢いよく上がった。

 むっつりオールラウンドシンジは瞬時に横になり、ティッシュを何枚も何枚も取りながら、次々と鼻にあてがった。そして、残された二人の方を向いて、力なく喋り始めた。

「笑えよ……俺を笑え。思い出しちまったんだ……そんなバカ殿なんて聞かされたら、思い出しちまった。俺のスケベアーカイブが開かれたんだ。俺がもっと小さかった頃、バカ殿では確か……その……おっぱい……? うん、その、おっぱいが…そう、出てたんだ。誤算は、その記憶が今の俺でなく、小さい頃の何も知らないまっさらな俺と結びついていたってことさ。俺自身が仕掛けたスケベ時間差にやられるとは、しくじったぜ……そうか…志村は全てわかっていたんだ……俺がバカ殿を熱心に見るのは笑いを隠れ蓑にしてエッチなシーンを見たいからだって、志村の奴はとっくにお見通しだったんだ……熱いお灸をすえられたぜ……」むっつりオールラウンドシンジは顔を赤らめながら言った。

 とうとう二人になったが、その二人は、むっつりオールラウンドシンジが背中を丸めて歩いて退場していくのを見て、一つの時代の終わりを感じていた。しかしこれからは、自分達がスケベ小僧の時代を背負っていかなければならないのだ。むっつりオールラウンドシンジ、お前こそ、特に何にこだわりがあるというわけでもなく普通にむっつりスケベだったぜ。きっとお前のような奴が、一番父兄から気味悪がられるんだろうな。

 いよいよ次で、マセガキの中のマセガキが決まる。やがて、スピーカーが震えた。

「キッス」

「やべえ!」

「鼻血出ちゃう!」

 出ちゃうというかもう出ていたが、予想外の事態がおきた。なんと、勝ち残った二人、エッチ本欲しすぎ王者トシヒロと、ブラジャーに思いを馳せるコウイチ、が二人同時に卒倒し、そのまま気を失ったのだ。

「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな! 家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」

 マセガキを決める勝負はノーコンテストとなり、二人は医務室に運ばれた。後に、気が付いたブラジャーに思いを馳せるコウイチは記者に対してこう語った。

「キッスは反則だろ。やべえよ。ドキッとしたよ。赤ちゃんできちゃう。だって、キッスしたら、赤ちゃんができちゃうんだろ。そんなの、小学生だし、まだ……まだ早すぎるだろ!」