ジム・ケリー「火焔の鎖」を読む


ジム・ケリーの「水時計」に続くシリーズ第二作「火焔の鎖」を読みました。
同じイギリス東部の沼沢地帯が舞台ですが、「水時計」は凍てつく厳冬の季節、今度は砂塵風に襲われる炎暑の夏の出来事です。
主人公の新聞記者ドライデンは、4年前の自動車事故から意識不明で入院中の妻ローラを仕事の合間に見舞う日々が続いています。先の見えない日々の繰り返しに悩み暗い気持ちになりがちです。
ローラと同室に、死を間近にした農場主マギーが入院しています。
27年近く前に、農場の近くにあるアメリカ軍の空軍基地から飛び立ったばかりの輸送機がマギーの農場に墜落炎上し、マギーの両親は死亡、赤ん坊のマシューと二人だけ残されます。
この飛行機に乗っていた、アメリカへ帰省する軍人や家族達は全員死亡しますが、その中にいて死亡した赤ん坊リンドンと、マギーは自分の息子マシューをすり換えて引き渡します。

リンドンとして、アメリカで祖父母に育てられたマシューは、27年後やはり空軍パイロットとしてずっと連絡のあったマギーと、事故後に生まれたマギーの娘のエステルの前にやって来ます。
知人のドライデンと、エステル、リンドン(マシュー)に、瀕死のマギーはこのすり換え子の事実をテープに吹き込み残します。
この事実を知った為に、残されたリンドン(マシュー)とエステルの運命は大きく変わって行きます。
マギーは、どうしてこんなすり替えをし、また27年も経ってからそれを告白したのでしょうか。
マギーの心残りは解消されたとしても、マシューの幸福を思えば、告白すべきでは無かったのではないかと思えます。
それにしても、マシューがリンドンとして成長、軍人になるまでの過程で、どうして容姿や血液型とか遺伝上の問題も疑問を持たれる事無く済んだのか、ちょっと不思議ではあります。
この沼沢地にある戦争時の遺物であるトーチカの一つで、拷問殺人死体が発見されます。
ドライデンが新聞記者として追う、アフリカからの不法入国者の斡旋業者や、違法ポルノ写真の売買問題が絡んで、複雑なストーリーとなっています。
重苦しい展開の中で、ドライデンの足として雇われているタクシーの運転手ハンフが、時間待ちの間に、次々とテープで外国語をマスターして行く様子がユーモラスに描かれ、ほっとさせられます。
また、ドライデンの妻ローラは全くの脳死状態ではなく、近くで人がしゃべっている事が少しは分かっている様で、手に取り付けられた制御装置で画面に文字を打ち出す事が出来る機械を使って、時たまほんの僅かですが断片的に言葉を発信する事も出来るようになった様です。
ドライデンの暗い心に、少しは明かりが見えて来たかと、次作からの良い展開が待たれます。
このドライデン・シリーズはあと3作あるようで、翻訳出版が楽しみです。

火焔の鎖 (創元推理文庫)

火焔の鎖 (創元推理文庫)