東京・新宿区での二酸化炭素(CO2)増加分を、中央アルプス南アルプスに挟まれた長野県伊那市の森林整備で削減しようという試みが、両自治体間で始まる。温室効果ガス排出量取引自治体間版とも言えるもので、林野庁研究・保全課は「このような自治体連携の例は珍しい」としている。
 新宿区は2006年2月、温暖化対策として「環境指針」を策定し、2010年度にはCO2排出量を1990年度比で5%増に抑えるという独自の目標を掲げた。達成には約10万トンの削減が必要という。同区では、省エネの取り組みのために中小企業に助成金を出したり、アイドリングストップを呼びかけたりしているが、これだけでは目標達成が難しいのが現状だ。一方、伊那市には、ヒノキやスギなどの市有林約2800ヘクタールがある。毎年、1500万〜2000万円をかけて約30ヘクタールの間伐を行っているが、全体の整備を終えるには数十年かかってしまう。
 新宿区の試算では、30ヘクタールの整備で、年間約2000トンのCO2吸収効果が見込まれるという。新たな試みは、新宿区が森林整備費を補助し、間伐材を区で使う印刷用紙や、道路の防護柵などに利用、一方の伊那市が区民を対象に森林作業体験学習などを行うというもの。10日に「地球環境保全協定」を締結し、08年度中に整備費の補助額などについて協議、09年度にスタートさせる予定。元々、伊那市と新宿区が友好提携を結んでいたことから、区が持ち掛けた。区環境保全課では「取り組みがうまくいけば、ほかの自治体との連携も進めたい」としている。

同記事では、新宿区と伊那市との間で森林整備補助に関する環境協定が締結されることを紹介。
試みとしては高く評価。今後も注目。また、同仕組みは、自治体間の協定を通じた「水平的」な財政調整の仕組みとも見れば興味深い。
しかし、制度として整理をしてみると困難。例えば、両市間で、総排出量を事前に設定しているわけでないので、キャップ・アンド・トレードとは異なる。比較的ベースライン・アンド・クレジットの考え方に近い方式のようだが、厳密見れば、排出権取引と位置づけることは難しいようである。また、当面は良いが、財政力に任せて、排出自治体側に抑制のための意向が減退することは懸念される。抑制のための誘因を持続させるための仕組みが必要。また。自治体財政の現状からすれば、都心部自治体を除けば、汎用性は限られるのではないだろうか、とも思われる。
仮定として全自治体間で排出権取引を成立させるためには、まずは、自治体単位で排出権を割り当てることが必要となる。ただその場合、当然ながら、国による義務付け・枠づけ論と自治体への分権論(特に「自由度の拡大路線」)との間でのディレンマに直面することは避けられない。ディレンマの解決には地方分権改革推進委員会の『中間的なとりまとめ』にあるメルクマール④「地方自治体相互間又は地方自治体と国その他の機関との協力に係る事務であって、全国的に統一して定めることが必要とされる場合」*1に該当するかによるが、これまた国としての立場次第か。