環上の代数(前編)

環上の代数についての疑問が解消したのでそれについて書く。

堀田良之「代数入門―群と加群―」で環の基礎について学んでいると、序盤で「代数」という代数系が次のように定義されていた(文字等は原文と異なる)。


(H) 2つの環 R,A の間に環準同型

{\quad f:~R \rightarrow A}

が与えられ,それを固定して考えるとき,特に,A を R 上の(結合的)代数といい,f をその構造射という.
通常は,R が可換環で,f(R) の元がすべての A の元と可換である場合を考えることが多い.
(この場合,R 上の多元環ともいう.)

直後に多項式環 R[x1,...,xn] が R 代数の例として挙げてあったので、多項式環を一般化した概念なのかと思ったのだが、定義の後には例と命題が1つずつ載っていただけですぐにイデアルの節へと移ってしまい、そのときは結局のところ「代数」がどういう代数系を表しているのかよくわからないまま放置して先に進むことになった。

それから暫く後、松坂和夫「代数系入門」で環論に再入門した際、体 K 上の代数について次のように書かれていた。


(M) 体 K 上のベクトル空間 A において,さらに乗法が定義され,加法とこの乗法に関してAが環をなし,すべての x,y∈A およびすべての c∈K に対して

{\quad (cx)y = x(cy) = c(xy)}

が成り立っているとき, A を K 上の線型環または多元環,あるいは代数という.

この1文を読んで、加法と乗法とスカラー倍(とそれらの演算の関係を定める条件)が定義されたベクトル空間(あるいは環)を拡張したようなものなのかと合点がいき、「どういう代数系なのか」については納得したものだったが、(H)の定義とはかけ離れていて関連が見えない。

先日、雪江明彦「代数学2 環と体とガロア理論」で環論に再々入門していた際、再び代数の定義に出くわしたので、今度こそ理解しようと思って調べることにしたのである。

…と、導入まで書いた時点で、思った以上に記事が長くなりそうなので続きは次回としよう。