国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲変動(2015年5月)

この月刊シリーズ記事も今回で第12号。2014年5月下旬に、国立国会図書館デジタルコレクション(以下、NDLデジコレ)の全メタデータ刈り取って以来、毎月、NDLデジコレの変動を記事にして1年を迎える。

国立国会図書館デジタルコレクション書誌メタデータ 2015年5月の変動

NDLデジコレのメタデータについて、2015年5月1日から2015年5月31日までに変更のあったレコードは23,839件であった*1

4月末時点のデータにおいては、「資料種別」*2が「図書」であるもののうち、「著作権に関する情報」*3に「インターネット公開」を含むものは349,905件であったが、5月31日までの更新を適用したデータにおいては350,401件となっており、496件増加している。

資料種別が「図書」であるものについて、資料数内訳は以下の通りであった。

著作権に関する情報 (dcterms:rights) 4月末 5月末
インターネット公開(許諾) 6995 7456 +461
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2009/12/18; 2010/12/27 1 0 -1
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27 48522 46741 -1781
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010-12-27 0 1 +1
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27; 2012/03/01 28 27 -1
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27; 2015/02/09 8 8 0
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01 32485 31287 -1198
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012-03-01 0 416 +416
インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012-03-01 0 7 +7
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2015/02/09 53 53 0
インターネット公開(保護期間満了) 261813 264405 +2592
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 506780 506767 -13
館内公開 62168 62442 +274
(総計) 918853 919610 +757*4
(内、インターネット公開分合計) 349905 350401 +496

文化庁長官裁定を受けて公開している資料の「著作権に関する情報」に表記揺れが発生している。

「(裁定)」と「著作権法」の間に半角スペースを含めるか否かは、過去にも揺れがあり、いったんは含めない書き方に統一されていたが、再び両者が見られるようになった。今回は、さらに年月日の区切りを「/」とするのか「-」とするのかの揺れも登場している。

さらに「著作権に関する情報」変動の内訳を見てみる(表示スペースの都合により、「著作権に関する情報」の設定値を略記した)。

5月末 総計
許諾 裁定
2010/12/27
*5
裁定
2012/03/01
*6
保護
期間
満了
館内
公開
4月末 許諾 2*7 2
裁定
2009/12/18;
2010/12/27
1*8 1
裁定
2010/12/27
3638*9 3638
裁定
2010/12/27;
2012/03/01
1*10 1
裁定
2012/03/01
1193*11 17*12 1210
保護期間
満了
1856 423 36*13 2315
図書館
送信
7*14 5*15 1*16 13
館内公開 456*17 1*18 12*19 68*20 537
総計 463 1858 435 4907 54 7717

この表は、例えば、4月末時点では館内公開であった図書で、5月末にはインターネット公開(保護期間満了)になっているものが68件あると読んでほしい。

裁定に関する表記揺れにより全体の傾向が掴みにくくなるため、実質的に同内容のものは代表的な表記のものに合算した。

この表の他、4月6日付けで資料種別が「静止画資料」「図書」から「静止画資料」に変更され、ここでの集計対象に含まれなくなったプランゲ文庫の資料757件(全て館内公開)が、5月18日付けで再び「静止画資料」「図書」に変更され、再度、集計対象に含まれるようになった。このため、「図書」としての館内公開の件数が増加している。

パブリックドメイン図書の増加

4月の公開範囲変更に引き続き、5月もパブリックドメイン図書の増加が見られた。

5月にインターネット公開(保護期間満了)に変更された資料4,907件の一覧(tsvファイル)を作成したので、共有する。

館内公開から保護期間満了に変更された図書は、著作者が1964年に没し、2015年にパブリックドメイン入りした次の図書であった。

以下、※印を付した資料は、同一資料の重複デジタル化と思われる(片方は白黒2値、片方はグレースケール)。

今月は、天狗倶楽部の尾崎行輝や満鉄副総裁・八田嘉明などが新たに加わっている。

帰山教正『映画の性的魅惑』は、3月にグレースケール版が公開されたが、今回公開されたものはカラースキャン版。この資料は、2006年に復刻版が出版されている。これまでのNDLデジコレWatchのなかで、復刻版が出されている保護期間満了資料は、いつの間にか人知れず館内限定へ変更されてしまうことがあったので、気になる方はチェックしてみると良いかもしれない。

また、上記の著作権保護期間が満了した著作者の著作物を含む、『良心 : 詩集』(三木露風 著、坂本繁二郎 装幀・口絵・挿画)、『論語と組合経営』(川端巌 著、八田嘉明 序)、『船底の秘密』(北村小松 著、伊藤幾久造 絵)が、館内公開から許諾に変更されている(伊藤幾久造が許諾で!)。

エミリオ・アギナルド著作権は戦時加算対象か?

図書館送信から保護期間満了に変更された図書には、『フィリピン独立正史』(仲原善徳 編)が含まれている。

これは、仲原善徳や平山周が本文を執筆、頭山満 題字、本間雅晴 序文、葛生能世 序文という錚々たる顔ぶれによる図書で、この「第二篇 比律賓革命の真相」は、フィリピン共和国初代大統領であるエミリオ・アギナルドの手記*23を平山周が翻訳したものである。

アギナルドは1964年没なので、2015年にパブリックドメイン入りしたものとしてインターネット公開(保護期間満了)に変更されたものと思われるが、著作権保護期間の戦時加算は大丈夫なのか疑問に思ったので少し調べてみた。

戦時加算の対象となるか否かは、「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」(以下「戦時加算特例法」という。)に基づき、アギナルドが「連合国の国籍を有する者」であり(フィリピン独立を目指して戦った本人の立場を考えると、米国国民とされたくはなさそうだが)、かつ、「日本国との平和条約」(サンフランシスコ平和条約)発効時までに日本が当該連合国・国民の著作権を保護する義務を負っていたか否かによる*24と考えられる。

ある米国の判例を見ると、米国がフィリピンに対する統治権を得た1899年から、独立を認める1946年までは、フィリピンの人々は“non-citizen United States nationals”(米国市民権を持たない米国国民)として扱われていたようだ*25

一方、1935年に成立したフィリピン・コモンウェルスは、1942年6月10日に連合国共同宣言に加入しており、1946年に独立を果たしたフィリピン共和国は、1950年6月29日にベルヌ条約に加入、1951年8月1日に発効している。しかし、「著作権に関する問題点と動向」によれば、フィリピン共和国は(サンフランシスコ平和条約締結直前にベルヌ条約に加盟しているにも関わらず)戦時加算の対象国とはなっていないそうだ*26 *27

米国国民として考えれば戦時加算の対象となり、フィリピン国民として考えれば戦時加算の対象とならないようだが、もちろんこれらは一般論なので、アギナルド個別の事情は分からない。NDLが戦時加算を見逃すとは考えにくいので、戦時加算の対象外と考えて良いのであろう。

裁定から保護期間満了へ、保護期間満了から裁定へ

5月20日から著作者情報公開調査が始まった。公開調査著作者リストのExcel形式での提供が行われるようになったり、これまで調査期間限定で掲載されていた調査内容が常設されるようになったりと、調査している対象へのアクセスが便利になっている。

これに関連してメタデータの見直しや更新を行ったのか、裁定から保護期間満了への変更が4,832件、保護期間満了から裁定への変更が2,279件と多数の変動があった。

裁定であれ保護期間満了であれ、インターネットで閲覧できることに変わりはないが、NDLデジコレの画像を保護期間満了として2次利用していた場合は、裁定に変更されていないか確認した方が良いかもしれない。

保護期間満了から館内公開へ

インターネット公開(保護期間満了)から館内公開に変更された図書36件のうち多くは、いつものように図鑑や辞典などの集合著作物であった。しかし、36件中29件の資料*28において、メタデータに記載の識別子(国立国会図書館サーチの書誌詳細画面URL)でNDLサーチにアクセスしても「ページが見つかりません。」となり、識別子(国立国会図書館で付与した永続的識別子)を用いてNDLデジコレにアクセスしても「書誌が見つかりません。」となっている。

例えば、『新聞等に表はれた各政党その他の憲法改正案』(内閣法制局)という資料について、NDLデジコレではエラーになる。NDL-OPACでは原資料がヒットし、関西館に所蔵されていることが分かるが、「利用上の注意」には「利用不可」とある。

これまで著作権保護期間満了としてインターネット公開されていた資料が、ある日突然アクセスできなくなり(NDLに行けば閲覧できる館内公開という形ですらなく)、紙の原資料も利用不可になっているとは、少し怖いことに思える。

スキャンに不備があって、デジタル化資料の公開を停止し、再度デジタル化作業を行っているため原資料が利用停止になっている、というような理由であれば心配はないのだが、そういうことでもないようだ*29

古典籍資料の公開範囲変更

資料種別が「和古書」であるものについて、今月も公開範囲に変動があったか調べてみた。

著作権に関する情報 (dcterms:rights) 4月末 5月末
インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27 13 13 0
インターネット公開(保護期間満了) 68652 68652 0
国立国会図書館/図書館送信参加館内公開 17679 17679 0
館内公開 447 447 0
(総計) 86791 86791 0
(内、インターネット公開分合計) 68665 68665 0

5月にメタデータが更新された古典籍資料546件の変更内容を見ていくと、「著作権に関する情報」に変化はないが、タイトルやタイトルよみ、著者などの修正や情報付加に加え、「要約・抄録」*30が追加されたものも多く、96件の資料で要約・抄録が追加されている。

なじみのない古典籍資料に対して要約・抄録が設定されていることは大変ありがたく、読んでいると面白いのだが、著作権的に転載はできないので、ここではタイトルに変更のあった資料から、一点気になったものを取り上げる。

『ひとり發句 2巻』([1][2])は、タイトル「独発句」別タイトル「ひとり発句」の書誌設定から、タイトル「ひとり發句 2巻」別タイトル「����ほつく」に変更されている。

NDL-OPAC書誌情報を見ると、「����」と文字化けしている部分は「𤢜」(U+2489C)であると分かる。

MySQLのutf8mb4問題のように、UTF-8で4バイトになる文字が正しく扱えていないのかもしれないと思ったが、例えば、この資料では、目次に「𠌃」(U+20303)という文字が使われており、これはUTF-8で4バイトになる文字だが、正しく表示できている。

NDLデジコレのキーワード検索で、「�」(U+FFFD)を検索すると、6月1日現在、2,400件ヒットする。サロゲートペアの文字が正しく表示されているものもあれば、「�」になっているものもあり、システムが対応していないのではなく、資料ごとに設定がまちまちであるようだ。

*1:国立国会図書館サーチが提供するOAI-PMHを利用した。

*2:dcndl:materialType

*3:dcterms:rights

*4:プランゲ文庫の資料757件について、再び資料種別が「静止画資料」から「静止画資料」「図書」に変更され、「図書」の集計対象に含まれるようになったことによる増加。

*5:「インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2010/12/27」に加え、「インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2010-12-27」を含む。

*6:「インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012/03/01」に加え、「インターネット公開(裁定)著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開 裁定年月日: 2012-03-01」および「インターネット公開(裁定) 著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開裁定年月日: 2012-03-01」を含む。

*7:邑井貞吉 講演、加藤由太郎 速記の2件(『大岡名誉松野三政談』、『菊池誠忠録 : 勤王美談』)

*8:和漢洋家屋諸造作応用図案 下巻

*9:本文中記載のtsvファイル参照。

*10:ペスト菌検査法

*11:本文中記載のtsvファイル参照。

*12:経済科学概論』、『テクノクラシー』、『是でも米国か』、『是でも米国か』、『是でも米国か』、『頭脳トラスト』、『花道』、『東京 第1部』、『東京 第2部』、『人を殺したが』、『大菩薩峠 第5冊』、『古代の漁猟 : 考古学及び化石動植物学上より見たる日本古代の食糧と漁猟の話』、『就職戦線をめがけて』、『官省・会社・銀行・新聞社就職試験問題集 昭和6年版』、『子供の見た欧羅巴』、『木彫の技法』、『創作版画名作集 1

*13:図鑑や辞典などの集合著作物など。

*14:北村友圭の著作6件(『新撰高等実用数学』、『初等微分方程式 : 附・変分学』、『確率及最小自乗法』、『実用高等数学初歩』、『実用高等数学綱要』、『統計数学』)、蓮沼門三の著作1件(『道を求めて』)

*15:フィリピン独立正史』、『フィリピン独立正史』、『竜龕手鏡 : 竜龕手鏡解説附』(解説

*16:日本大文典

*17:多くは環境庁による報告書等(「大規模デジタル化(国立国会図書館支部環境省図書館)」由来の資料)。他に、『良心 : 詩集』(三木露風 著、坂本繁二郎 装幀・口絵・挿画)、『論語と組合経営』(川端巌 著、八田嘉明 序)、『船底の秘密』(北村小松 著、伊藤幾久造 絵)。

*18:通俗農家副業全書 巻3

*19:世界少年文学名作集 第1巻』、『世界少年文学名作集 第11巻』、『聖帝仁徳天皇』、『市制町村制逐条示解』、『最近防長の教育』、『三学級二教員制の樹立』、『輝く南海』、『育児日記 : 附・育児の巻』、『所沢より』、『仏印探険隊 : 科学探険小説』、『篠崎小竹』、『包装荷造展覽會報告書

*20:本文中に列挙した。

*21:洋画家。1964年没。

*22:鶴見祐輔(1973年没)の『南洋遊記』からの引用を含んでいる。『南洋遊記』は著作権保護期間内であるが、インターネット公開(許諾)されている。他にも、鶴見祐輔の著作物には許諾に基づいて公開されているものがあり、『全高等小学読本の本質的研究』も許諾を求めた方が良いのかもしれない。

*23:元になった手記は、“True version of the Philippine revolution”(もしくは、そのスペイン語版“Reseña Veridica de la Revolución Filipina”)であろう。

*24:戦時加算特例法第6条による。「著作権の保護期間に関する戦時加算について」に解説あり。

*25:フィリピン独立法(タイディングス・マクダフィー法)を見ると、1935年のフィリピン・コモンウェルス成立後は、米国移民法の目的において、フィリピン諸島の市民であって米国市民でないものは外国人(aliens)と見なされ、米国への移民には厳しい制限が付いたようだ。しかし、これをもってフィリピン諸島の市民が米国国籍を失ったとは読めない気がするのだが、実際はどうだったのだろうか。

*26:「日本における戦時加算に関するCISAC総会決議(2007年6月1日)」(和文英文)で挙げられている戦時加算対象となる15か国には、フィリピンは含まれていない。CISACへの加盟団体であるJASRAC資料には同じ15か国が列挙してある。文化庁の「著作権なるほど質問箱」における「昭和16年12月8日から平和条約の発効する日の前日までの日数」例示では、ページによって15か国であったり、16か国であったりしているが(後者ではルクセンブルグが加わっている)、フィリピンについての例示はない。

*27:昭和16年12月7日時点で、日本が当該連合国・国民の著作権を保護する義務を負っていなかった(当該国がベルヌ条約非加盟または個別協定を結んでいなかった)場合は戦時加算の対象とならないのでははないか?という素直な疑問も生じるが、ベルヌ条約発効が1947年9月30日であるレバノンは戦時加算対象国として挙げられており、(昭和16年12月7日時点でレバノンとの間に個別協定がなかったとすれば)先の疑問は当たらないことになる。

*28:鵠沼海岸』、『最新外国為換論』、『最新外国為換論』、『銀行會社記簿證書及例式 第1卷』、『伸び行く日本』、『車屋本之研究』、『東亜聯盟建設綱領』、『新聞等に表はれた各政党その他の憲法改正案』、『諏訪史料 第2輯 1巻 下』、『諏訪史料 第2輯 1巻 上』、『機織法集 第1編』、『誇示から示範へ : 国民勤行総動員論攷』、『皇国国民主義 第1輯 (神聖政府とは何ぞや)』、『皇国国民主義 第1輯 (神聖政府とは何ぞや)』、『日本学の建設に就て : 外小論四篇』、『開拓村ヲ現地ニ見ル』、『日本国体新講座 坤巻』、『春色かしく物語』、『日本歴史大観』、『化学工業大辞典 1巻』、『化学工業大辞典 2巻』、『化学工業大辞典 3巻』、『化学工業大辞典 4巻』、『化学工業大辞典 5巻』、『化学工業大辞典 6巻』、『化学工業大辞典 7巻』、『化学工業大辞典 8巻』、『電氣工業大辭典 第4卷』、『電氣工業大辭典 第5卷

*29:デジタル化作業に伴う原資料の利用停止の場合は、NDL-OPACでは「作業中」の表示になるそうだ。一般に、デジタル化資料が提供されているものは原資料は「利用不可」となるので、デジタル化資料が見当たらなくなってしまっても、原資料が「利用不可」のままになっているということだろう。

*30:dcterms:abstract