白のカピバラの逆極限 S.144-3

長文コメントはこれを歓迎します。
とりあえず、quizでも解いていきませんか、古いものほど面白いです

2014-03-15

小保方論文の本当の憂鬱

小保方晴子さんが iPS 細胞を超える STAP 細胞という大発見をしたとして、2014年1月にマスメディアの寵児となった。しかし、翌月には、論文に怪しい箇所があると雲行きが怪しくなり、そろそろ論文撤回*1が決まりそうだ。

その論文の疑惑については、小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑 というページが詳しい。ただ、図や文章がコピーというようなところは誰でも分かるように書かれているが、致命的な箇所は専門家と思しき人の掲示板への書き込み*2の引用しかない。だから、誰にでも分かるように解説してみたい。


まず、生物は細胞からできている。細胞の材料はかなりがタンパク質だ。タンパク質の設計図が、遺伝子。人間の遺伝子は3万くらいしかない。

一つの遺伝子から作られるタンパク質はだいたい一つに決まっているのだけれども、大きな例外が免疫システム。免疫システムでは、外来からのいろいろ侵入物を認識するために、いろんなタンパク質に結合できる様々な形の"抗体"を作るんだ。抗体ももちろんタンパク質でできている。

この多様な抗体を作る原理を説明したのが、利根川進ノーベル賞に選ばれた業績、V(D)J遺伝子再構成(遺伝子再編成)というやつだ。

遺伝子再構成っていうのは、要するに、本来必要なよりもずっと長い遺伝子を用意しておいて、無駄なところを後で捨てると、捨て方によって、色々な種類ができるということ。

例えば、英文で {I You He She We} {ate drank killed} {books chairs tables trees}. というのを考えると、これだけでも5*3*4=60通り作れる。

これが、免疫細胞ができる(分化する)ときに遺伝子に起きているというのが遺伝子再構成で、それまでの常識を覆すものだった。1976年の話ね。

つまり、免疫細胞になる時に、ある遺伝子は、その大部分を捨て去ることで抗体のタンパク質を生み出せるようになり、その捨て方によって色々な抗体を持った免疫細胞ができるという話だ。

さらに、遺伝子再構成以外にも免疫細胞の種類を増やす方法があって、諸々合わせて、最終的に作られるタンパク質は10^18通り以上とかあるらしい。1キロ=10^3、1ギガ=10^6、1メガ=10^9、1テラ=10^12、1ペタ=10^15、1エクサ=10^18だね。


小保方さんの Nature の論文は、さらに衝撃的で、遺伝子再構成されたものが、元に戻る万能細胞になる*3って言っているんだ。酸につけるだけで。

これ、食いかけのゆで卵をお酢につけたら、生卵まるまる一個に戻ったみたいなものだよ。だって、遺伝子の大半は捨て去られてるんだもん。「過去何百年の細胞生物学の歴史を愚弄するものだ」ろ?

「誰も信じてくれなかったことが何よりも大変だった」というか、信じないよね。これが本当だったとすると、元の遺伝子がどこかに隠してあって、元に戻せるようになっていたこれだけ複雑な変化をしたものが、簡単に戻るように作られていた*4ということだから。

というわけで、実は、Nature 論文が出た直後から話題になっていたけれども、医者みたいな生命科学のユーザーは大絶賛して夢が広がりんぐしていたけれども、近い分野の研究者は追試がなされるまでは信じないと言っていた人のほうが多そうだった。そりゃ、マスコミにマイク向けられたら、そんなこといわないけどね。「誠に驚くべき内容で、続報に期待する」とかいうでしょう。揉めたくないもん。

Nature は今でこそ権威があるけども、商業誌でもともとはゴシップ誌に近い。とある助教は、Nature に出たということは嘘だと冗談めかして言っていた。別にいいんですよ。論文っていうのは、研究者同士のコミニケーション手段だから、別に論文がでたところでどうということはない。あと、査読だけど、一流研究室だと、論文を出していいという教授の許可のほうが大変で、そこを通れば査読にはまず落ちない。まあ、だから、Nature に出た程度で信じない、ってことね。


ここまでが前提で、その捏造が疑われている箇所というのが、STAP ができている直接のSTAP 細胞が免疫細胞由来である証拠とされているんだけれども、よく考えると、とんでもなく不思議。

簡単にいうと、「細胞の中の特定の遺伝子だけ選んで、その長さの分布を測る」ことができる技術があるの。それを使うと、

{I You He She We} {ate drank killed} {books chairs tables trees}. <- 長い

She killed tables. <- 短い

と、細胞内にどういう長さの遺伝子があるかが分かる。

論文によるとね、遺伝子再構成の前(ES 細胞)の遺伝子の長さをはかると、長い。遺伝子再構成後(免疫細胞)の遺伝子の長さをはかると、短い。そして、それを酸で処理した STAP 細胞は一部だが長い短いものと長いものがある。だから、これは、STAP 細胞が一部万能細胞に戻った免疫細胞由来である証拠だ、っていうんだ。ところが、実はこの時点で何かがおかしい。

というのもね、遺伝子のセットは両親から一組ずつ受け取る。だから、同じ遺伝子が二つずつあるんだ。これを対立遺伝子とかいう。対立遺伝子の組の挙動は、さまざまだ。たとえば、優性・劣性というのは、中学でやるね。つまり、優性な方の形質がでる場合がある。血液型のB型O型の遺伝子を持っていると、B型が優性なのでB型になる。これが、A型とB型だと、両方の形質が出てAB型になる。

でも、抗体の場合はそうはならないんだ。対立する片方の遺伝子が発生の途中で使えなくなる(不活化する)んだ。同じ現象は、たとえば、三毛猫の毛の色でもみられる。「茶色で上書きする」遺伝子と「何もしない」遺伝子というのが対立遺伝子なんだ。他の遺伝子が、「黒地に白ぶち」なネコにしようとしているときに、「茶色で上書き」と「何もしない」が一つずつあると、一方が細胞ごとにランダムに使えなくなる。だから、「黒地に白斑」と「茶」の部分が体中にできる。これが三毛猫。遺伝子が使えなくなるといっても、捨てられるというよりは、鍵がかかる感じだ。オッドアイも同じ原理だ。

つまり、話を戻すと、「免疫細胞の遺伝子の長さをはかると、短い」っていうこと自体がおかしいんだ。対立遺伝子の一方は不活化しているから再構成されず、元の長さのまま、もう一方は抗体を作るために遺伝子再構成をうけて短くなる。だから遺伝子再構成後の免疫細胞の遺伝子の長さは「半分は短く、半分は長い」という結果が出るはずなんだ。このことは、免疫細胞の遺伝子再構成を知っている人なら、当然のことなんだ。ところが論文では長い方の存在がないんだ。


それでね、ここのところ、みんな悩んでるの。これ捏造だとしても、杜撰すぎる。なんで消しちゃったの??

しかも、同じ論文の別の figure では、免疫細胞の結果は、「半分は短く、半分は長い」になっていて、消されていないの。

一番素直に解釈すると、免疫細胞が全部短い遺伝子で、STAP 細胞に長い遺伝子が含まれていると、STAP 細胞の遺伝子の長さが元に戻ったという解釈になるから、そのように解釈できる余地を残すために消したということになるのだけれども、さすがに大変が捨てられた遺伝子が元に戻るというのは荒唐無稽だ。確かに、「半分は短く、半分は長い」免疫細胞が「半分は短く、半分は長い」STAP 細胞になっても、STAP 細胞が万能細胞になった証拠ではない。でも、そんな常識的なところを捏造してもバレるに決まってるよ。


でも、ここから、少なくとも一つのことが分かるんだ。

小保方さんだけじゃなくて、あの論文の共著者8人は全員「免疫細胞の遺伝子再構成」で対立遺伝子排除が働いていることを知らないってことだ。恐らく、問題があったのは小保方さんだけじゃない。

*1:撤回されそうな論文: Nature 505, 641–647 (30 January 2014) doi:10.1038/nature12968 Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency | Nature

*2:問題の箇所はここである。「免疫遺伝子やってるやつならわかる。TCRのDNA解析でレーン3のGLにバンドがない件は全然おかしい。……著者は意図的にGLがバンドがないように見せることによって、分化後のT細胞を用いたことを示そうと細工したようだ。しかし、TCRbetaでは対立遺伝子排除が働くので片方の相同染色体ではGL型の配列をもつはず(よってJEM論文のようにGLにバンドが出るはず)。それを知らずに馬脚を現した。」

*3:元に戻るとしたのは、推測が混じっていました。この推測は、画像の捏造のされ方や後出しプロトコルと整合的に解釈したものですが、そこまでは書かれていませんでした。議論をしている最中に混同したようです。

*4:同上

東大生東大生 2014/03/16 04:16 >医者みたいな生命科学のユーザーは大絶賛して夢が広がりんぐしていたけれども、

してねーよバカ 意味わかんねー一般化するなよ

nucnuc 2014/03/16 05:18 あなたはしてなかったんですね。
分かりにくいですが、そこの医者というのは、ある人を指します。あの人も東大でしたね。

せっかくですので、皆様のために、どのあたりで違和感を持ったかを教えてくださると幸いです。

QQ 2014/03/16 05:45 >でも、ここから、少なくとも一つのことが分かるんだ。

>小保方さんだけじゃなくて、あの論文の共著者8人は全員「免疫細胞の遺伝子再構成」で対立遺伝子排除が働いていることを知らないってことだ。

これは暗黙のうちに「共著者が多かれ少なかれ論文を読んでいる」という仮定を置いており、なかなか疑わしいところですね

>恐らく、問題があったのは小保方さんだけじゃない。

結論には合意される

おばちゃんおばちゃん 2014/03/16 07:05 高校生物教師です。T 細胞再構成の何が問題視されているのかが、今ひとつ理解できなかったのですが、お陰様でやっと理解できました。本件については、当初、授業で生徒達に「夢ひろがりんぐ」な解説をして、いっしょに嬉しがっていました。私自身の不見識を含め、本件は、ある意味の第一級の理科教材になります。情けない気分ではありますが。

nucnuc 2014/03/16 07:55 > Q さん
> 読んでいるという仮定
仰るとおりですな。

> おばちゃんさん
こういうのは、いたしかたないものであります。

一点。画像の処理が変だという話はいいのですが、「遺伝子再構成されたものが、元に戻る」部分は、言い過ぎではないかとの指摘を受けました。
画像の処理の仕方から読み取れることやプロトコルの論文の主張と、この論文の字面上の主張とが混ざっているのではないかと。少し考えて修正します。

amakanataamakanata 2014/03/16 12:14 本当だとしたら、情けない話ですね。基本中の基本を抑えていないということになりますから。

おじさんおじさん 2014/03/16 13:38 簡単に言うと、
T細胞ではTCR再構成が起こって免疫グロブリン遺伝子が短くなってるるわけだけど、
STAP細胞では遺伝子が短くなってたから、STAPはT細胞由来です、って論文で言ってるんだよ(捏造だったけど。)

後出しプロトコルでは、STAPから出来たマウスの免疫グロブリン遺伝子は短くなっていなかった、って言った。
つまり、STAPから出来たマウスは、STAP由来じゃなかったってこと。

修正待ってまーす。

>おばちゃん、
捏造だって分かる前は、「夢広がりんぐ」な解説して全然構わないし、仕方ない。
ただ、nucさんの元記事は間違ってるから、間違いを教えないようにね。

koko 2014/03/16 13:38 全く専門外の者です。
>「免疫細胞の遺伝子の長さをはかると、短い」っていうこと自体がおかしいんだ。
ということですと、そもそもなぜアクセプトされたのでしょうか?

おぼおぼ 2014/03/16 15:55 >ところが論文では長い方の存在がないんだ。

論文の図を見ると長い(再構成前の)バンドも短いのと同時に出てますよ。
あと、TCR再構成を示したロジックはamakanataさんのご指摘の通りで、万能化そのものを示すためではありません。

nucnuc 2014/03/16 16:02 > おじさんさん
ありがとうございます。

間違っている部分は、
・論文では、元に戻るとまでは言っていないが、多能性細胞になるといっている。元に戻るというのは、画像の捏造のされ方と、後出しプロトコルからの推測が混じっている。
・遺伝子の長さを調べた理由が、STAP が免疫細胞由来であることを言いたかった。
の二つでしょうか。一番メインの PCR の結果がなんで捏造と考えられるか、の部分は大丈夫ですよね。

> amakanata さん
私は少し同情しましたね。これは大学で教えられていないということでしょうから。

> ko さん
一般論として、捏造でなくてもおかしな論文はそれなりにあります。人間は間違えるものですから査読者が勘違いすることもあります。アメリカの一流研究室に所属している人が、うちの研究室からならネイチャーやサイエンスでも査読にはまず落ちないよ、といっていたのを聞いたことがありますし、東大の研究室でも、その次のランクの論文誌なら査読にはまず落ちない、と聞いたことがあります。なんとなく学会等で何をやっているか聞いているので、先入観があるんじゃないでしょうか。
でも、おかしな論文でも世の中に出るくらいが制度設計としては、いいんじゃないでしょうか。

科学界は、毎年のようにどこかが捏造に踊らされていますが、今回は理研が頑張っちゃったのでマスコミが釣られて大ニュースになりました。

nucnuc 2014/03/16 16:07 > おぼさん
Figure 1 の i の lane 3 の話ですよね? Figure 2 g の lane 2 はでてますけど。
後半、修正いたしました。

おぼおぼ 2014/03/16 16:33 > nuc さん
コメントありがとうございます。
私が指摘したのは Figure 1i の lane 4, 5 です。
ただ、これらに対応する extended data の Figure 2g の lane 3, 4では出ていないので、整合性はないですね。
Lymphocyte についても nuc さんが既に指摘されている通り、本文と extended data の図で整合性がありません。
論文がいい加減な状態で出版されてしまったことについては間違いないでしょう。

nucnuc 2014/03/16 17:04 > おぼさん
あれ、1i の lane 4,5 は、どちらのバンドもでていると思ってますので、書き方が悪かったでしょうか。ちょっと表現を修正しました。
確かに、整合性はないですね。ということは、「元に戻ったと示すために消した」というのは、さすがに邪推なんでしょうか。
うーん、このような切り貼りがなされた理由を議論して、元に戻ったと主張するために違いない、と納得してたんですが、さすがに勘違いですかねえ。

おぼおぼ 2014/03/16 17:37 > nuc さん
根本的な部分で理解に食い違いがある可能性があるので、要点だけ述べます。

そもそも、元に戻るとNGなので、Fig. 1i の lane 4, 5 のそれぞれでGLの長いバンドと短い方のバンドの両方が出ていることは良いのです。
元に戻ってしまった(=GLのバンドしか出なかった)場合、分化した細胞から多能性を持つ細胞が作成できた、という論文の骨子が崩れるからです。
ところが、先日発表されたtipsでは、STAP幹細胞では再構成がまったく見られない=長いバンドしか出ないという結果でした。
STAP細胞のTCR再構成については言及されていませんでしたが、STAP幹細胞でTCR再構成が見られないとなると、STAP細胞でもなかったと考えるのが自然です。
そのため、STAP細胞が分化した細胞からリプログラミングによって作成されるという論文の大前提が崩れてしまったのです。

Extended data との整合性が取れていないのも問題ですが(こちらはGLのバンドがなぜかない)、
これについては、前々から慶應大の吉村先生が指摘されていた内容です。

おぼおぼ 2014/03/16 18:19 補足ですが、TCR再構成された配列が元の再構成前の状態に戻ることと、STAP現象により多能性が獲得されることは別の話です。
むしろ、小保方らはTCR再構成が不可逆的な現象であることを利用して、酸性刺激により分化した細胞から万能性を持つ細胞に初期化できる、という重大な仮説を証明したのです(ただし、結果が本当なら)。
おそらく、nuc さんは STAP 現象により再構成されたゲノムも完全に元に戻ることが、万能細胞の要件となるとお考えなのではないでしょうか。
確かに、ゲノムDNAの一部が欠失した細胞を初期化したことで、完全な情報を持っていないという意味で「万能」ではなくなっているのは確かです。
しかし、それと生物学的な意味での細胞の万能性・多能性は直接は関係しません。

flalinflalin 2014/03/16 18:31 ん?ん? 前半のゆでたまご論があまりにミスリーディング。私は昔 立花隆の利根川進インタビュー本を読んだくらいで、T細胞でVDJ的な再編成がどんだけ複雑に起きてるのか、このwikipedia記事以上の知識はないのだけど、 http://en.wikipedia.org/wiki/V%28D%29J_recombination#In_T_cell_receptors ともあれ分化後のT細胞に、脳、筋肉、内臓やら何やら全ての遺伝子が手付かずで死蔵されてることに不思議はないですよね? 君のゆでたまご論はそこを描写できてないですよ。例えばiPS因子でNKTからiPS細胞を作る工程が確立されているらしい http://www.riken.jp/pr/press/2010/20100602/ 君のゆでたまご論はこの業績を否定することになりかねない。

iPS系だろうとSTAP系(?)だろうと、とにかくT細胞から作った人工的多能性細胞で、「元が大腸菌を殺すT細胞だったのに、多能性を回復した後に納豆菌を殺すT細胞へと分化できる」と主張されたら、TCR部分のうち納豆菌にはまるパーツは不可逆に捨てられたはずだから、君のゆでたまご論は有効。でも今問題になってる論文で「多能性」と言うとき、それはあまりに重箱の隅で考慮されてないよね?

そもそもO博士の率いる研究ユニットの名前「リプログラミング」とは、分化後のリンバ球で死蔵されているが普通には決して活性化しない脳、筋肉、内臓etc. の遺伝子をスイッチオンする手法という含意ですよね?

別エントリ立てるのをお勧めします。

flalinflalin 2014/03/16 18:44 うああ、よく読んだら↑に貼ったNKT由来iPSでは応用目的の都合で結局NKTしか誘導してないのか... よくない例でしたね... http://ameblo.jp/regenerative-kyoto/entry-10091601977.html こっちはキメラ全身まで作ってる

rti7743rti7743 2014/03/16 18:52 こういう議論が見たかった。
コピペとかのスキャンダルなんかより、内容について突っ込んだ議論をやって欲しかった。そっちのほうがはるかに価値があると思う。

良記事ですね良記事ですね 2014/03/16 19:13 > 小保方さんだけじゃなくて、あの論文の共著者8人は全員「免疫細胞の遺伝子再構成」で対立遺伝子排除が働いていることを知らないってことだ。

私は門外漢ですが、その知識は生物専攻の大学院生程度なら習ってるぐらいのレベルですかね?それを経歴の長いトップ研究者が8人が誰もしらないってことはありえるんでしょうか?

nucnuc 2014/03/16 19:15 > おぼさん
Mochimasa さんが、この記事はおかしいと言っているので、どこかおかしいのだとは思うのですが、そこの部分については、私もそのように理解しております。両方のバンドが出て問題ないことは納得ですし、STAP 幹細胞で再構成が見られなかったというニュースも見ました。

画像の切り貼りが意図的に行われているというのは、認めてくださいますよね。もしかしたらなんですが、私が「論文の主張」よりも「画像の切り貼りをした人の意図」に興味があるので、話が食い違うのでしょうか。一般に、ラボで実験をした時点と、その後で共著者と議論して論文を書く時点では、少々違う理解をしていますよね。そうでなければ議論の意味はないです。しかも、これは意図を持って切り貼りしていて、論文内での整合性が取れていないので、おそらく両時点でぜんぜん違うことを考えていたのではないでしょうか。

切り貼りをした意図を知るために、その画像の載っている論文は参考になりますが、論文の骨子も後から作られたものです。論文内だけでも整合性が取れていないのに、さらに後から作られた tips の話は、論文の整合性をより崩すものであっても、切り貼りをした意図にはあまり関係がないように思います。

> 慶應大の吉村先生
http://new.immunoreg.jp/modules/pico_boyaki/index.php?content_id=344 これですね。

MochimasaMochimasa 2014/03/16 20:22 具体的に指摘しましょう。

利根川氏らの研究はB細胞の免疫グロブリン(=抗体)に関する話で、今回論文でSTAP細胞の由来の根拠として提示されたのはT細胞のTCRに関する話です。遺伝子組換えが起こるという意味では同じですが、別のタンパク質です。

>だって、遺伝子の大半は捨て去られてるんだもん。

という理由付けは「大半」が削除されても、おかしな見解であることに変わりはありません。何故なら、T細胞で捨てられているのはTCRの遺伝子のごく一部であって、それが失われたことが細胞のリプログラミングに致命的影響を与えると考える根拠にはなりえないからです。

それから、対立遺伝子排除の件は注目に値しますが、著者らの無知や捏造の根拠としては不十分です。
それはPCRが増幅のターゲットにする配列が複数あった場合に、すべての配列が平等に増えるとは限らないからです。実験条件にもよりますが、短い配列の方が増えやすい傾向にあるため、競争的に長い配列の増幅が阻害されるというのはありうることです。
もしかしたらTCRの実験に限って言えば経験的にそういうことが起こりえないと断言できる人もいるのかもしれませんけど、誰もが経験しているほど日常的な実験ではありませんから、専門家の中にそうは思わない人がいても不思議ではありません。

おぼおぼ 2014/03/16 20:43 >論文の骨子も後から作られたものです。論文内だけでも整合性が取れていないのに、

今回のケースについては、論文の骨子(ストーリー)が後で作られたということは考えにくいです。
TCR再構成によるリプログラミングの証明は、それが本当であれば非常にエレガントなストーリーであり、結果もそれに沿って準備したと考えるのが最も単純な解釈だからです。
切り貼りの意図と意図しなかったであろう不整合については、正直なところ憶測以上の理解をするのが困難なデリケートな案件かと思います。
頭をよぎるのは、「手抜き」「理解不足」「チェック不足」などのネガティブワードばかりですが…
なお、GLバンドの不整合については、Mochimasaさんがご指摘の通り、PCRの特性で extended data の方では見えていない、という筋も考えられます。

nucnuc 2014/03/16 21:16 > おぼさん
補足以下について。

なるほど、私は、画像の切り貼りをした人の意図について合理的な解釈をしようとしていました。lane 3 が貼り付けられたものであることは明らかなので、なぜ、このバンドがないものをわざわざ貼り付けたのでしょうか。
そうすると、最低限、
・対立遺伝子排除を知らない
・STAP 細胞では再構成されたゲノムも元に戻る
と考えていないと辻褄が合わないように思います。これがとんでもなく不自然なのはよく分かりますが、切り貼りした方は、そのように考えているんじゃないでしょうか。これがこのエントリーの主張です。

おぼおぼ 2014/03/16 21:37 > ・対立遺伝子排除を知らない
これはありえます。
ただし、先ほども書きましたが、Mochimasaさんの指摘の通り、見えていないだけという可能性も捨て切れません。

>・STAP 細胞では再構成されたゲノムも元に戻る
これは以下の二点の意味でありえません。
・Fig. 1i の lane 3はSTAP化前のT細胞でSTAP細胞ではない
・これがSTAP細胞のものだとしても、再構成されたゲノムDNAが元に戻ってしまったら論文の論旨が崩れること(これは前に書いたとおりです)

おぼおぼ 2014/03/16 21:45 残念ながら本件については合理的な解釈は不可能ではないでしょうか。
ストーリーに合う結果を揃えたつもりが穴だらけだった、共著者もそれに気づかないまま論文投稿してしまった、査読者も深く結果を検討しなかった、
というのが実際のところではないかと思います。杜撰の一言に尽きますが。

おぼおぼ 2014/03/16 22:08 連投すいません。

>・STAP 細胞では再構成されたゲノムも元に戻る
>>これは以下の二点の意味でありえません。

この部分ですが、どうやら nuc さんの意図を取り違えていたようです。
ただ、STAP化によりGLバンドが現れることを万能化の証拠として考えている可能性はかなり低いでしょう。
その理由は最初のコメントで書いた通り、この実験はSTAP化そのものを示すために実施されたものではないからです。
仮に、nuc さんの考え通りだとすると、実験者と共同研究者が考えるストーリーの間に相当な意図の食い違いがあったということになります。
無知と勘違いで無駄な努力(切り貼り)をしてしまったとすると、悲劇ですね…

nucnuc 2014/03/16 22:27 > flalin さん
ゆでたまごの例えはよくなかったですねえ。
重箱の隅というか、僕は三年半ぶりにブログを更新するから重箱の隅の話をしようと思っていたのに、なんでこんなに大人気なんだろう。
画像の編集方法について合理的な解釈をすると、編集した人は再構成されたゲノムが元に戻ると考えていたとしないと腑に落ちないと思いましたので、そういう話になってます。

そろそろ別エントリー立てるかねえ。

> rti7743 さん
少なくとも私にとっては価値がありました。

> 良記事ですねさん
生物専攻は広いですけれども、免疫やっている人には知られているようです。
このスレッドには、既に、そもそも共著者が読んでないか、単なる見落としか、単に測り損なったか、などの説がでてきました。

> Mochimasa さん
お呼び立てしてすみません。ありがとうございます。

> 抗体とTCRの混同
これは仰るとおりですね。

> 遺伝子の大半は捨て去られてるんだもん。
ええ、この部分は、TCR の遺伝子の再構成に関わる部分の大半を指しています。画像の編集の仕方から考えて、STAP 細胞では再構成されたゲノムも元に戻ると考えて作られた画像だと考えているからです。

> 著者らの無知や捏造の根拠としては不十分
捏造の根拠は、縦に切り貼りがなされていることですが、不十分でしょうか。もしも、長いバンドも出したければ、画像を編集するよりも、STAP 細胞を使うほうがいいですよね。
PCR がしょっちゅう失敗するのはやれば分かりますね。ただ、これは人為的に作られたバンドなので、失敗作を捏造して共著者に見せるとは考えなかったです。

> TCRの実験に限って言えば経験的にそういうことが起こりえない
それがまさに、慶應大学の吉村先生や「小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑」に書かれたの主張ですね。
ですから、Mochimasa さんの主張は、つまり、共著者が気がつくべきであったというところまではいえないということですね。

> おぼさん
これを書いた動機は、リンク先の掲示板の書き込みを咀嚼して、切り貼りの意図を考えようという話です。本人に聞かないと憶測以上にはならないでしょう。

無知のせいにできることを悪意のせいにするな、ってことですね。

MochimasaMochimasa 2014/03/16 23:09 > 画像の編集の仕方から考えて、STAP 細胞では再構成されたゲノムも元に戻ると
> 考えて作られた画像だと考えているからです。

誰がそのように考えているという主張ですか?
そんな突拍子もないことを専門家が考えているとはにわかには信じられません。

最近発表されたプロトコルで、STAP「幹」細胞にTCRが認められなかったことに関して、著者らがそう考えているのではないかと疑っているのであれば、それはないと思いますよ。
というのは、プロトコルでは細胞の変化にバイアスが働いている可能性を示唆しているからです。これはおそらく元々STAP細胞の中にTCRの組換えが起こっていないものが混ざっていて、それが選択的にSTAP幹細胞に変化したというシナリオを想定しているんだと思います。ただ、そうだとすると当初論文の主張と矛盾しますから、著者たちが追い詰められていることに変わりはありませんけど。

nucnuc 2014/03/17 00:48 > おぼさん
> 見えていないだけという可能性も捨て切れません。
PCR は難しいですからね。ただ、本当にその実験をしたならばそうですが、捏造は失敗しないと私は思うのですが……

> 仮に、nuc さんの考え通りだとすると、実験者と共同研究者が考えるストーリーの間に相当な意図の食い違いがあったということになります。
> 無知と勘違いで無駄な努力(切り貼り)をしてしまったとすると、悲劇ですね…

それが私の言いたかったことで、とても信じがたいのは分かるんですが、そうでなかったとしても悲劇ですよ。

> 合理的な解釈は不可能
> 可能性はかなり低いでしょう。
はい。辻褄が合うにはこうだと思いますが、ハンロンの剃刀を突きつけられると、ええ、そうですね。

> Mochimasa さん

信じられないのは分かりますが、画像を編集した人がそう考えているという主張です。レーンの切り貼りから何から十分信じられないことが起きていますから、専門家ならそう考えないというのは甘いでしょう。

・切り貼りされている lane 3 は、GLバンドが出ていない。
・捏造は失敗しない。
・lane 3 は、切り貼りした人の意図通りのものであるから、GLバンドは出るべきでないと考えていることが分かる。->切り貼りをした人は、対立遺伝子排除が働いていることを知らないと推測される。
・STAP 細胞では、GLバンドが出ている。->元の長さに戻ると思って編集したんじゃないの?

というのが、初めに書いていた話です。突拍子もないのは認めますが、「捏造は失敗しない」ことを整合的に考えるとそうなる、よって想像以上にひどいことになっているのではないかと推測する、ということです。論文にそう書かれていないのは、共同研究者によって修正されたと考えています。

> プロトコル
プロトコルどころか、画像編集の意図と当初論文の主張も食い違っていると考えています。

MochimasaMochimasa 2014/03/17 21:58 nucさんは、電気泳動が捏造だと決めつけているようですが、その根拠は示されていませんね。もちろん、今の情勢ではあらゆるデータに捏造が疑われるのは分かります。
ですが、hucさんはさまざまなやり方が考えられる捏造のなかで、電気泳動のバンドをわざわざ不自然な形に捏造したという、たった一つのありそうもない可能性を恣意的に選択ているわけです。

しかも、上記の恣意的選択を正当化するために、著者ら全員の無知すらも想定していますね。これも蓋然性に欠く想定と言わざるを得ません。これまで無名だった小保方氏はともかく、共著者はこれまで生命科学者として相応のキャリアを積んでいる人たちで、揃いも揃ってそんなことを知らないというのはかなり分の悪い賭けと言わざるを得ません。

そればかりか、査読者もそれに気付かなかったマヌケしかいなかったしかいないということですよね。あるいは編集者がマヌケで査読者の警告を無視したというのでしょうか。

さらに悪いことに、プロトコルには細胞の変化のバイアスについての言及があるにも関わらず、nucさんはそれと矛盾する「一度ゲノムから失われたDNAが元に戻る」という考えを著者たちが持っていると未だに主張しています(この説は荒唐無稽な考えだと一度認めたはずでは?)。ここで、またしてもnucさんは著者たちが揃ってマヌケだとみなしているわけですね。

この記事を読む限り、nucさんは生物学の専門教育を受けていない方だとお見受けします。そうだとすれば、どうしてnucさんはこの件に関わった専門家たちがマヌケばかりだと想定できるのでしょうか。ちょっとプロをナメすぎではありませんか? 著者たちは少なくともデータ管理にルーズで、もしかすると世間を欺く悪人たちかもしれませんが、専門家であることに違いはないのですよ。専門家が人を欺こうとしているとすれば、なおさらこんなマヌケな騙し方はしないと思いますけどね。

nucnuc 2014/03/18 01:17 > Mochimasa さん

私の意図していない内容が散見されるのですが、とりあえず、それ以前の話として、私がこの話の大筋を考えたと思っていらっしゃいますね。そういうわけではなく、これは生物学の専門教育を受けた複数の人間が考えたものです。

いや、別にだから私が責任を持たないというわけではなく、経歴を云々するのは不毛ですね、という話です。

MochimasaMochimasa 2014/03/18 11:14 > nucさん
私はnucさんの経歴を問題にしているわけではありませんよ。専門家が何をどの程度知っていて、何をどの程度知らないかという感覚がつかめないからこのような結論に達したのではないかと考えてのことです。自分の専門でない問題に立ち向かうのに、専門家の意見に従うのは至極当然のことで、それ自体何の支障もないことです。

ただ、誰かの意見・見解を借りてきたのであれば、それが分かるように出所を明記すべきだし、どこからが自分の意見なのか読み手が区別できるように書くべきだと思いますよ。

私が上記の書き込みで指摘したような、ありそうもないシナリオ(著者たちが一度失われたDNAが元に戻ったと考えているという説、著者たちが対立遺伝子排除を知らないとする説)を専門家が主張しているのであればそれは意外なことですが、本当にそうなのか客観的に検証できるように出典を明示していただきたいと思います。

nucnuc 2014/03/22 18:07 > Mochimasa さん

そろそろ話の入り口が近づいてきましたね。

わたしは当初から「みんな悩んでる」と書いております。別に、一人だけ真実に到達したと思っているわけではないのです。

MochimasaMochimasa 2014/03/24 00:12 私は出典を明示してくださいと書きましたが、
nucさんがそうしないのはなぜですか?

nucnuc 2014/03/24 23:01 > Mochimasa さん

Mochimasa さんは、私が言っていないことを言っていると言い続けているので、まず何の出典の話かを特定しないと、話が混乱するからです。

MochimasaMochimasa 2014/03/26 13:10 確認ですが、私の指摘に対して

> これは生物学の専門教育を受けた複数の人間が考えたものです。

とnucさんは書きましたよね。

nucさん自身ではない「生物学の専門教育を受けた複数の人間」が「これ」を考えた = 出典がある と言い出したのは他でもないnucさん自身ですよね。

それなのに「何の出典の話か」などと私に聞くのはおかしな話です。

念のため指摘しておきますが、他人のアイデアをその出所も示さずに自分の意見と区別できない形で書くことは、モラルに反することですよ。私から問われるまでもなく、出典があるのならそれを示す責任がnucさんにはあると考えます。

私がnucさんの主張を誤解しているというのはありえる話ですが、それとこれとは別の話です。そういう箇所があるのなら、具体的にどこがそうなのか指摘してください。繰り返しになりますが、それとは無関係に出典は示されてしかるべきです。

S?Q?T?S?Q?T? 2014/06/25 00:59 こんにちわ。nucさんにはだいぶ前にあったことがある気がします。

この記事での自然科学的議論を見ていると、科学哲学でいう所のad hoc仮説の問題とか、
実験機器の測定原理などに関する理論負荷性の話などを思い出しますね。

数学やせいぜい理論物理学を除いて、理論的に起こり得ないことを
科学的に立証するのは絶望的に難しいように思います。
(これまでの経験から言ってまずありそうにない、ではなく)
起き得ないこと、存在しないことの論理的に飛躍の無い立証ができるのは
数学や物理の専売特許のようなものじゃないでしょうか。
(数学においても∃から始まるΣ命題は¬∃(∀)から始まるΠ命題に比べて
やや証明されやすい傾向にありますが)
物理や数学から経歴をスタートした人は、生命科学畑の人などと
比べて容易にそういう極端な結論へと飛躍しやすい傾向にある気がします。

nucnuc 2017/05/13 08:07 > Mochimasa さん


> S?Q?T? さん

こんにちは。またお会いしましょう。

私の経歴で、一番初めに公的に認められたのは絵画だったのです、というのはさておき。

おっしゃりたいことは分かりますが、数学的証明と科学的立証はだいぶ違うように思います。また、数学は抽象化と具体化の昇り降りをする場所が本来で。まあ、逆にたとえば、九九で挫折すると数学は暗記だと思うんじゃないですか。
そして、たとえば、法学の事実認定をみたことがないようにみうけました。

理研は、論文発表から調査開始を発表するまで、2週間しかかけてないんです。しかも、予備調査を開始しても発表する必要がないのに発表までした。その間に少なくとも調査開始とその発表という意思決定を組織でしているんですね。
ブログでの疑義と1週間で再現実験ができないという連絡を受けたから、という公式発表だけが理由とすれば、それはよほど極端です。

要するに、中や周辺の人からは、かなり明らかだったんです。だから、よく分かっていない人には、それが極端に見えるということですね。


蛇足ですが、この文章は、読者を3つに分けて見え方を変えているので、こういう感じになるのは、予定でした。

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