これが見納め

 ダグラス・アダムスという作家を知っている人はちょっと変わっていると他人から思われているかも知れない。この作家のファンという人は他人から白い目で見られているか、もしくは避けられているか、はたまた尊敬のまなざしをところどころに受けているかであろうと思われる。作家はすでに故人であり、したがってもう新しい作品を読むことは出来ない。もともと寡作だったので私も代表作の「銀河ヒッチハイクガイド」しか読んでない。だから、今回読んだものは2冊目ということになる。そしてその本が遺作であり、題名通りの「これが見納め」なのだった。
 2冊しか読んでいないのでああだこうだ言うことは出来ないが、イギリスの作家らしい(と言っても私はイギリスに行ったことはなく、イギリス人の知人も居ないから世間で言われているようなことをそのまま鵜呑みしているだけ。いい加減なのである)皮肉たっぷりの感想をユーモアに乗せて書いている。この本はある意味で旅行記なのである。BBCラジオ番組の絶滅危惧種の取材旅行を書いている本なのだ。本の紹介ではないので内容については省くが、この種の本にありがちな危惧種に対する過度の思い入れ、また旅行に伴う現地の人々との心温まる出会いなどいうものは一切書かれていない。はっきり言えば身も蓋も無いようなことを平気で書いている。私はこの辺りの感性、把握力が作家の真骨頂とも言うべきものと思っている。旅行代理店の宣伝のような旅行作家の文章や、おそらく自分では何もしていない取材スタッフ任せのテレビリポーターのコメントなどとは一線も二線も画す内容の本となっている。私はあまり旅行などしたことがないので、旅の出会いとか感動などというものに縁がないのであるが、言葉の通じない習慣もなにも異なる外国に行って、それも観光地ではないところに行けば酷い目に会うは必定と考えている。その辺りを正直に書いた本なのである。こういった本を書く作家が早世するのは残念に思う。まさにこれが見納めの本となった。

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